第11話 王女、ヴァーミリオン村へむかう


 俺たちがヴァーミリオン村を建ててから、数か月がたった。ある日、レイスが俺に一つの太刀をくれた。


「これは?」


「父の形見です。雷切らいきりといいます。きっと、主様あるじさまならば、使いこなせるでしょう。」


「そんな大切なものをもらっていいのか?」


主様あるじさまだからこそ、この名刀にふさわしいのです。この太刀は我がヴァーミリオン家に代々伝わるものです。この太刀は並みの者では抜刀することすらできません。あるじを選ぶ太刀なのです。」


「ちなみに君は試したのか?」


「はい。しかし、私には抜くことができませんでした。でも、主様あるじさまなら、使いこなせると信じております。」


俺は試しに抜刀を試みた。


シュン!


鈍く輝く光はそれを名刀であると物語る。


俺が鞘から刀を抜くと、刀身から電撃が宿った。


「おめでとうございます。やはり、主様あるじさまは選ばれました。亡き父も喜んでいると思います。これからは主様あるじさま雷切らいきりの持ち主です。たみを守るために立ち上がられた主様あるじさまにふさわしい。」


「お、おう・・・。」


俺は驚きが隠せなかった。こんな刀はじめてだ。刀身に宿る電撃は何なのだ?


「その電撃が雷切と呼ばれる所以です。私が父から、伝え聞いたことによれば、雷切らいきりは神話の時代から存在する古の名刀。かつて、この大陸を建国した雷神が持つとされる史上最強の武器です。」


俺は驚き過ぎて、腰をぬかした。


試しに人気のない森で、大木めがけて一振りするとチーズを斬るかの如く簡単に両断した。


「ありがとう レイス。君と父上殿の想い、確かに受けとった。」


レイスは目に涙を浮かべ、深々と頭を下げる。


「どうしたんだ?レイス。」


「いえ、亡き父が一瞬笑っているように見えて。」


俺たち二人は空を見上げ、その場を後にした。



時を同じくして、王国からの使者がヴァーミリオン村へと向かっていた。


「姫 本当にあなた様自らが使者として、かの村に向かわれるのですか?」


「何度、言ったらわかるの?しつこいわよ。」


「今からでも、やめていただけませぬか?使者ならば、このジンジャーにお任せください。万が一、姫に何かあれば、国家の一大事にございます。」


「うるさいわね。私がこの王国で最強の剣士であることはあなたも知っているでしょ?その辺の雑魚なんか蹴散らしてやるわ!」


「王女様~。」


王女守護騎士ジンジャーは心労で今日も胃が痛くなる。


そんなやり取りをしながら、馬車を走らせていると、向かい側の森から近衛騎士隊が近づいてくる。


「ドウドウ」


馬を止め、下馬げばした男は馬車の前でひざまずく。後ろにいた彼の部下らしき騎士たちも皆、彼にならう。


「あなたたちは?」


「我らは王国近衛騎士。私は近衛騎士第5師団団長のエド・ディエッタと申します。我らは国王陛下の命により、王女様、いえ、剣姫アストリア・シュタイン様の護衛にはせ参じました。」


「まったく、父上も過保護なのよ。護衛なんていらないって言ったのに。」


エド・ディエッタと名乗る青年は王女を見上げながら、指示を待つ。


「あなた、ディエッタと名乗ったわね?あのディエッタ男爵の息子なのかしら?」


「その通りでございます。ディエッタ男爵は我が父であります。」


「そう、ならば同行を許可します。」


「拝命いたしました。このエド・ディエッタ、全身全霊であなた様をお守りいたします。」


(ディエッタ家。銀髪。『死神』の正体の謎。ちょうどいいわ。ディエッタ家の者ならば、面白いことが起こるかもしれない。)


(フリスト。お前なのか?いや、会えば、わかることだ。今行くぞ『死神』。)


二人の思惑は『死神』に向いていた。そんなことを当人のフリストは知る由もなかった。

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