おまけ ソシャゲでガチャる女騎士

 平日の昼。タクヤに教わった通りにカップヌードルを生成すると「うん! 美味しいです!」とその出来に対して誰にともなく太鼓判を押したセシリアは、幸せそうにそれを完食したあと、勉強に戻る合間に一度、水瀬に勧められたゲームをすることにした。


 ユーザー名含め初期セットアップはタクヤの手によって済まされ、あとは開けばチュートリアルが始められる状態にある。セシリアにとっては訳のわからない警告文がまずはじめに表示され(大丈夫でしょうか……)と漠然とした不安感を覚えながらも彼女はタップした。


 複数の有名男性声優陣のタイトルコールののち、ゲームがスタートする。設定としてはアイドル事務所のプロデューサーとして活動するプレイヤーが新しいユニットを担当することになり、五種類の特色溢れるメンバーから好みのものを選んでいく形だ。


 依然として画面に表示される文字はほとんど読めていないのだが、全編フルボイスとチュートリアルの指示がなんとかセシリアを追い付かせてくれている。


「こちらがミナセ殿のお好きな方々なのですね」


 選択時にユニット名をメンバーが声を揃えて紹介するのでわかりやすい。おすすめされたライジングサンかエースマイルで迷ったが、個人的にタクヤみたいな髪型のキャラがいるエースマイルのほうを選んだ。


 その後、シナリオ自体は楽しむことが出来ていた。実際のゲーム内容もリズムゲーで、流れてくる音符を的確に押すのは感覚的に分かりやすい。「これは長押しでしょうか……?」と独り言ちながら試行錯誤するセシリアを見ることが出来る。


 大雑把な理解だがひとまずチュートリアルが終わり、残りのデータのダウンロード待ち。画面には各キャラ紹介の図鑑があって、テキストを流し見するのが面白い。

 絵が格好いい。はじめての体験だ。


 この衣装をタクヤ殿が着たらどうなるでしょう、とか絶対本人がいたら嫌な顔をされそうなことを考える。セシリアとしては心の底からこんな衣装をしているタクヤを見てみたいと思うのだが。


 ほどなくして正式にゲームがスタート。ログインボーナスでアイテムなどが色々貰え、しかもイベント開催中。大量のアイテムと初心者特典で十連が十回引ける計算だ。

 最後に誘導されたガチャページで、セシリアはまずチュートリアルクリア報酬ガチャを引く。


「おお……なるほど……!」


 時折演出が違うものがあり、それは虹色のカードとして現れる。明らかに特別なものなのは分かる。トップページに描かれたキャラクターの排出なので、アタリということですか、と納得する。


 ガチャの種類は複数あり、ちょうどセシリアが気になったキャラクターが新衣装として新しく出ていた。これは引かない手はないだろうとセシリアは心に火を宿し、ゲームそのものよりガチャに夢中になってのめり込んでいるところがあった。


 金色一枚。金色一枚。虹&金三枚。虹一枚。金一枚。上昇演出込みで虹二枚。金一枚、金一枚……。


 と、基本的には最低保証の状態から、出る時は出る面白さを思う存分に味わっている。特に上昇演出がアツい。「おおおっ!」とセシリアは高揚感に包まれて、誰の目があるわけでもないのに(いまのははしたないですね……)といそいそと正座に座り直す始末。熱中。


「出ませんか……っ」


 く、と呻いてここで弾切れ。ガチャは終了し、キャラクター一覧を見る。わりと悪質なことに水瀬が好きと言っていた『クローバーズの海都』はかなり色々な種類(※SSR含む)出てしまっているが、セシリアが気になったタクヤ似のキャラはとんと出てこなかった。

 全てすり抜けの豪運ということになる。


「こちらのゲイム? はタクヤ殿はよく分からないと仰られていたので、この結果はいつかまたミナセ殿と会えましたら報告しましょう!」


 と、呑気なセシリアはゲームを終了して意気揚々と勉強に戻る。

 ……その発言が現実のものとなったとき、起こりうる恐怖をセシリアは知らない。

 ついでにタクヤも知らない。


 水瀬は運なしの廃課金者であり、一時、イベント限定『クローバーズの海都』を完凸育成(※同じSSR五枚必要)するために十六万近い大金を落としている過去があることを。

 重ねて言うと、セシリアが引いたうち一種類の『クローバーズの海都』は、実はまだ水瀬が引けていない特別なカードであることも。


 セシリアは何も知らないまま、いずれ……。






 ちなみにこれは蛇足になるのだが、「このキャラクターがタクヤ殿に似ていると思いまして、どうしても手に入れたく狙ってみたのですが、ぜんぜん出てきませんでした。悲しかったです」と夕食時にタクヤに報告すると、「……マジでやめろ」と心の底から嫌そうにされてしまうのだった。

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