Chapter.19 アニメ鑑賞
夕食は静岡名物『炭焼きレストラン さ●やか』で、ハンバーグを頂くことにした。
県内外でも非常に名の知れた絶対外さないハンバーグ店だ。
こだわりの牛肉一〇〇パーセントに徹底管理と品質・鮮度、安全な食体験を約束するハンバーグレストランの最大手。
ほぼほぼ半生の状態で提供されてから熱々の鉄板にぎゅううう、と強く押し当ててお好みの焼き加減で召し上がるスタイル。ソースは店員さんが目の前で掛けてくれるのだが、それに甘えず、ぐっと我慢して、素焼きの状態で食べるのがものすごく美味い。
肉汁から出る旨味がぎゅっと「いま俺は肉を食べている……!」という気分に思わせてくれ、噛み締める喜びを誇張抜きで感じられる。もちろんソースで食べるのもよし、塩をふり掛けて食べるのも良し、辛味のアクセントになるフレークで食べてみるのもよし。
どの食べ方でも美味しいものだから、静岡県内のみの運営でありながら大人気である理由となっている。
そんなわけで、易々と入れるわけはなかった。
「混んでますね……!?」
「車停められるかな……」
時間的にピークというわけではないのだが、駐車場はほとんど埋まってしまっている。店先には人が並んでおり、店内で待つのも難しそうだ。さすがの盛況。
なまじ俺だけここのハンバーグの味を知っているだけに、セシリアより生殺し感がある。一人暮らしでも度々食いに来るくらい好きなお店だったので、こうなることも分かっていたはずなのに、まあ、そこは異世界とのブランク。
何はともあれ車を停められずに十分ほど待たされ、その後名前を書いてもう一度車に戻る。
あまりにも暇だったのでセシリアと動画を見ることにした。
「これもブイアールと同じ感じですね?」
「まあそうだな」
少し前までひらがなでの発音みたいだったのに、だんだんハッキリ言えるようになってきたな。そのうちVRになりそう。
まあ、厳密には動画はまた違うのだが。
何で暇潰そうかと迷っていると、そういえばガブリガーの元ネタアニメを見てみてもいいなと昨日思っていたことを思い出す。良い機会だ。
ので、検索ボックスに入力。
「何をしてるのですか?」
「文字を打ち込んでる」
「なるほど。読めません」
だろうな?
画面を見せながらスマホを操作していると眉間に皺を寄せるセシリアに苦笑する。
あと若干距離が近いから離れてくれ。俺が見えん。
アニメの第一話にはちょうどガブリガーが映ったシーンがサムネイル画像に選ばれており、「ほら、これがガブリガー」「おぉ!」と拍手して喜ぶセシリアの姿があった。
「この世界にはアニメっていうのがあってだな」
興味津々なセシリアに軽くそう伝え、再生開始。一話ぐらいなら待ち時間のうちに楽しめるだろう。
元ネタのアニメはしっとりと、まるで劇場版のような暗いトーンで幕を開ける。話題になっていたのは知っているが、俺も初めて見るのでそそられる。セシリアに至っては画面のなかの絵が動くことに不思議な心地を抱いているようで、食い入るように画面を見つめていた。
「……思ったよりショッキングだな」
「めちゃくちゃカッコいいですね」
飯の前に見るものではなかったか?と思いつつ、握り拳を作りながらいまにでもシャドーボクシングを始めそうなほど刺激的なアクションシーンに感化されているセシリアがいる。
ガブリガー、もといサメ太が登場するたびに「かわいい」と呟くような瞬発力も見せながら、第一話の後半。
サメ太、貫かれる。主人公と一心同体になる。
「ガブリガぁぁぁああああ!」
「おいバカおい待ておいやめてくれ」
応援上映じゃないんだから。感極まるな。車が揺れるくらい高まるセシリアにチョップする。
「あうっ」って止まってくれたわりに、視線は釘付けでアニメに夢中。俺も実際見ててものすごく面白いが、隣にこんなのがいるとつい冷静になってしまう。
なんやかんや第一話を最後まで見てしまった。セシリアはちょちょ切れた涙を指先で拭っている。
「素敵なお話でした……」
「まだ十一話あるぞ」
「まだ十一話もあるんですか!?」
感動もそこそこに跳ね上がったセシリアが驚愕する。もう楽しんでくれてるなら何よりです本当に。
俺は苦笑するしかない。
「他にもアニメや映画っていっぱいあるから、色々見ような」
「絶対見ます!」
……女騎士が女騎士の出てくるアニメを見たらいったいどう思うんだろうか。その辺りも気になってしまいつつ、最近気付いたのがどうやら可愛いものにセシリアは目がないようなので、ドレスを着たお姫様系の海外アニメ映画も意外と好きそうだなと思った。
涙腺は確実に弱そうだ。
こういうコンテンツが初体験なのもあるだろうが、こんなに体力を使ってアニメを視聴する奴ははじめて見た。セシリアのリアクションは客を呼べる。
「そろそろ店になかに入ろうか」
「分かりました! すごく楽しかったです」
「続きはまた今度で」
「はい!」
と、元気よく頷くセシリアを連れ立って、俺たちは店内に移動した。
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