第6章 第113話
「さて、どちらの質問からお答えしましょうか」
「ユキさん、あなたのおっしゃる通り、『
「その話、長くなる?」
雪風が、話を割る。
「あたしの質問と関係ないなら、飛ばしてほしいんだけど」
「もう少々、お付き合いください」
あくまで笑顔を――ケシュカルの顔の下半分と、ケシュカルの頭上の
「人類が音声による意思疎通手段、言語を身につけ、画像によるその補助と記録手段、文字を手に入れる以前から現在に至るまで、『
「それが、この私、
ペマも、ダワも、
「……つまり」
ただ一人、21世紀の技術体系に裏打ちされた工学的、情報通信学的、そして生物学的知識を持つ雪風だけが、その意味を理解し得た。
「あんたは、過去にここを訪れた人達の
雪風は、それを、20世紀中期までの技術体系で造られたデータベースが、21世紀の
「あなたの言葉の多くは初めて聞くものですが、その意味は推測出来、また理解出来ます」
「その理解で、間違いないでしょう」
「お、恐れながら、王子」
ペマが、おそるおそる、
「あなたは、本当に、『光の王子』なのでありましょうか……?」
問われて、
「……わ、私には、その、そのお姿も、お話しいただく言葉も、わかりません、わからないのです、何一つ、何もかも……」
「無理もありません、無理もないことでしょう」
あくまで、
「今の私の姿は、あなた方からすれば異形のそれに他ならないでしょうし、言葉はケシュカル少年の口から出ているのですから。ですが、まぎれもなく、私は、あなた方が知る
「しかし……」
ダワが、意見する。
「しかし。私の知る王子は、私の知る王子とは、その、語り口も、語られる中身も、その……」
「違和感がある、違うように思える、そうですね?」
見透かしたように
「それも当たり前の事。あなた方の知る
「『都』に居る
独り言のように、雪風が言う。
「なるほどね。つまるところ、あんたは、ただそれだけの、その程度のAI端末に過ぎない、人工知能どころか、人工無能に毛の生えた程度でしかない、そういう事でOK?」
「ユキさん、あなたの、私に対する評価がそうである事に、私は異論を挟むものではありません」
笑顔のまま、
「何故なら、あなたの判断、あなたの評価はあなたが行うものであって、私という存在そのものに対して何ら影響するものでも、その本質を変えるものでもないからです。そう、かつて、チェディと名乗った一人の来訪者が私をして悪魔と罵った、それでも私は私であって、チェディの評価によって何ら影響を受けたわけではありません。そういう事です。そして」
改めて、
「私は、私の価値、私の役目を知っています。ユキさん、あなたの私に対する評価は、他者が私を評価するデータの一つとして、私の中で活用されます。そして、私にはもう一つの価値、もう一つの役目がある」
広げた手を、
「今、こうしている間にも、私の中でケシュカル少年の記憶や経験に対する解析作業は進行し、結果の分析が行われています。大変に興味深い結果、かつて一度もあり得なかった経験、そういったものに対する解析が、です。しかし、ケシュカル少年の記憶や経験だけでは、あまりにもデータが足りない……」
一歩、
「……ユキさん。是非、教えていただきたくのです」
反射的に、雪風は、両手でローレディに構えていた
「あなたが
――アレだ。『れえばていん』でケシュカルを討った時、あの掘っ立て小屋でケシュカルに『念』を通した時。アレのことだ――
雪風は、瞬時に理解する。
「その時、何が起こったのか。何がきっかけで、何が変わって、今の結果に至ったのか。詳細は、全く分からないのですが」
「ユキさん、あなたに
――悪意が、ないんだ――
雪風も、気付く。
自分で言うように、人と違う、人ならざるものの意思を汲んで動いているとはいえ、この
いや、むしろ。
『悪意』などというものを持ち得ない、そもそも『感情』を持たない『端末』に過ぎないのかもしれない、と。
――だからって、さぁ――
それでも、雪風は、思う。
――相容れないものは相容れないし。許せないものは、やっぱり許せないんだよね……――
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