続:300字で綴る物語

暁 湊

年季の入ったお守り【第一回「初」】

 丸々とした雌牛は、窓から差し込む陽射しで日光浴をしながら語る。

「私の前の持ち主は、時間があればこのページを開いて見ていたのよ。おかげですっかり跡がついちゃったわ。おかげで開きやすくなったって笑っていたわね。本として物申したかったけれど、それが私の仕事でもあるから今では勲章よ。私がいたから、無事に赤ちゃんが生まれたんだもの」

 ゆらゆらと揺れる牛の尻尾に合わせて頷きながら、古書店の店主はにこにこと笑みを浮かべて聞いている。

「安産祈願のお守りとしても優秀だと思わない?」

「御利益がありそうですね」

 自信満々に微笑む彼女の下にある本には、『初めての出産ガイドブック』と書かれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る