メレディア、幸せへの道④
──静かだ。
いつもならば中央広場へ近づくにつれて大きくなる人々の“音”も全くと言っていいほど聞こえてこない。
不思議に思いながらも私は中央広場へ到着した。
「え……何……これ……」
目の前の光景に、一瞬、私の思考は停止した。
色とりどりの花で飾られた噴水や、市場のテント。
広場全体がこの間まで静かで白に包まれていたとは思えないほどに鮮やかに彩られている。
そして──。
「ロイド様!!」
中央の噴水の前に、白い正装を身に纏ったロイド様が立っていた。
「奥様」
「アルト……」
私がいまいち状況を把握できないでいると、後ろからアルトが「お手を」と穏やかな笑顔で手を差し出す。
これは、エスコート、なのかしら?
私は戸惑いながらもその手に自分の右手を添えた。
両サイドに領民、それとうちの使用人達までが揃って並び、その間の一本道をアルトにエスコートされながらゆっくりと進んでいく。
その先にはどこか硬い表情で立つロイド様。
これ……
これはまるで……。
──結婚式みたいじゃない!?
「お嬢様」
「アルト?」
ここにきてからは『奥様』と読んでいたアルトの懐かしい呼び方に、私は隣の彼を見上げた。
「最初はお嬢様がここでもお辛い立場にあるのなら、すぐにでも俺が攫っていこうと考えていました」
ゆっくり歩きながら、私にだけ聴こえるような声でアルトが続ける。
「あなたを蔑む世界から隔離して、閉じ込めて、誰の目にも触れないようにして、俺がどろどろに甘やかしてしまおうと──」
「怖いわ!!」
あまりにもヤンデレな発言に、思わず声をあげてしまった。
「ははっ、大丈夫。半分冗談ですから」
「半分……」
どの部分だろうか……。
いや、考えるのはやめよう。
「旦那様なら、あなたを幸せにしてくれます。今ならはっきり、そう言えます」
ロイド様のすぐ手前で止まって、私は再びアルトを見上げた。
彼はずっと私を心配してくれた。
ずっと守ってくれた。
同じくらいの背だった彼は、ぐんぐん大きくなって、少年から青年、大人に変わって行ったけれど、私を守ってくれる彼は変わることはなかった。
きっとずっと、私にとって彼は家族のような、兄のような存在だったのだと思う。
「お嬢様。あなたは幸せになるべきなんだ。必ず、幸せになってください。これからも、陰ながら見守っております」
そう言って私の手を、ロイド様へと託す。
まるで父親が、新郎に娘を守るその役目を手渡すかのように。
「アルト……。ずっと守ってくれて、ありがとう。これからもよろしくね」
私はにっこりと微笑むと、アルトもそれに応えて微笑んだ。
あれだけ笑うことができなかったのに、今では普通に笑うことができる。
怒ることもできる。
悲しむこともできる。
私は、本当の私に戻ったんだ。
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