一難去って
そして私たちはまた、数日かけてベルゼ領へと帰った。
流石に全ての荷馬車と人間を一度に宿には泊められないので、息と同じように時間差で出発し分団させての旅になったが、無事に帰り着くことができた。
帰ってきた私達を、アルトやローグ、マゼラやレイ、カイ、それにトルテやラグーンたちが迎え出てくれた。
「旦那様、奥様、おかえりなさいませ。ご無事のご帰還、使用人一同心よりお待ちしておりました」
ローグが頭を下げると、迎えてくれた使用人たちが一斉に同じように頭を下げる。
「あぁ。お前たちも、ご苦労だったな。何か変わったことはなかったか?」
ロイド様がそう聞いた瞬間、ローグだけでなく使用人たちの表情が一斉に曇った。
え、なに?
何かあったの?
不穏な空気に思わず隣のロイド様を見上げると、ロイド様も何かを感じ取ったのだろう眉間に皺を寄せて難しい表情を浮かべた。
「どうした? 何かあったのか?」
「……そのお話は、中でゆっくりとご報告させていただきます。奥様も長旅でお疲れでしょうし、まずは中でおくつろぎください。温かい飲み物を用意させます」
ここで話すような内容ではないのだろう。
ローグが言うと、ロイド様は私をチラリと見てから「あぁ、そうだな」と私の手を取り、久しぶりの我が家へと足を踏み入れた。
──「で、そろそろ報告できるか?」
暖かいダイニングで温かい紅茶を飲んで一息ついてから、ロイド様がローグに切り出した。
今この部屋にいるのはロイド様、私、ローグ、マゼラ、アルトの5人だ。
つまりここにいる人間には、その話を聞くことを許されていると言うことなのだろう。
「はい。単刀直入に申し上げますと、元奥様──マリア様がいらっしゃいました」
「っ、何だと!?」
元奥様……ってことは、ロイド様の……。
「あの女が……ここに、だと?」
途端に歪み始めるロイド様の表情に、ローグも神妙な面持ちで頷き、話を続ける。
「はい。何でも、身請けされて修道院から出たそうですが、その身請けした男性との仲も破綻し、生活資金も底をついたから、金を融通してくれ、と」
「はぁ!? 身請け!? だ、だが例えその男との仲が破綻したとしても、どうせあの女の男は一人二人じゃない。他にも男はいるんだ。金には困らんだろう? それに、あの女を修道院へ入れた時に、結婚指輪と大事にしていたネックレスだけはもたせたはず。あれを売れば相当な金になるはずだが?」
たくさんの男と関係を持ち、父親を自死するまで追い詰めて、挙句領民の税を横領していた母親……。
にもかかわらず結婚指輪とネックレスを持たせたのは、ロイド様なりの情だったのかもしれない。
「えぇ。そのはずですが……。一応、旦那様が不在ということで一旦お帰りいただいておりますが、また来られるかと……」
「はぁ……。迷惑な」
ロイド様が机に肘をついて頭を抱えたその時。
「おまちください!!」
「うるさいわね!! ロイドは? ロイドはどこ!?」
騒がしい声が近づいてきて、刹那、ダイニングの扉がバンッと大きな音を立てて開かれた。
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