望まぬ結婚のその先〜Sideロイド〜
妻になったあの女が、泥だらけになりながら俺に【冷凍保存】について説明し、俺はその話に引き込まれてしまった。
なんだこの女は。
野菜の冷凍など、考えたことがなかった。
いったいどこからこんな知識が出てくるんだ。
今までは保存がきいて収穫の早いものを選んで植えていたから、野菜の種類が少なかった。
だがこの方法があれば、収穫の早いものに重きを置いて選べばいいのだから、使える野菜の種類は格段に増えるだろう。
そうすれば領民の心身の健康もより良いものになるだろう。
厨房で彼女にやり方を教わろうと連れていって、口だけで説明しあとは料理長のゼウスに切らせたりするつもりだったのに、彼女は自ら包丁を手にし、丁寧に皮を剥き、そして切り、茹でた。
貴族令嬢が刃物を扱うことができるなんて……。
指の荒れといい、やはり彼女は実家で虐げられていたのではないか?
そんな疑問が再び浮上し、やはり早急に調べさせようと考えたのは、彼女が気になるからとかではない。断じて。
ただ、知りたかっただけだ。
なぜ彼女があぁも貴族女性らしくないのか。
使用人に混ざって土いじり、野菜を自ら調理する女など、聞いたこともない。
女は皆、着飾ることが好きだ。
煌びやかなものが好きだ。
そして賑やかなパーティが好きだ。
わがままで、自分勝手で、そして平気で人を裏切る。
あぁ、平気で人を裏切るのは男も同じか。
だから人は信用できん。
それに人の噂も、か。
妻になった女の、噂とは違う姿。
わがまま?
いいや、違う。
知識を持ち、賢く使い、他者への感謝を忘れない。
これは、そんな女性だ。
鉄仮面?
最初は俺もそう思った。
何せ、初夜に関しても全く表情を変えることなくガウンを脱ぎ始める女だ。
鉄仮面痴女だと思ったのは認めよう。
だが彼女にもちゃんと動く心があり、動く表情があった。
誰もが彼女の心からの笑顔を見たことがなかっただけだ。
認識を、少し改めねばならんか……。
気を許すにはまだ早い。
だが……そうだな。
少し、観察してみよう。
もう少し、彼女がどんな人間であるのか知りたい。
それは愛などというくだらんものではないが、それでもなぜか、次はどんな彼女が出てくるのか知りたい。
そう思ってしまった。
「むにゃ……。【異世界すろーらいふ】しゅごい……」
「……」
だから【いせかいすろーらいふ】って何だ。
寝ている姿は穏やかで、鉄仮面なんて感じさせない姿なんだがな。
穏やかで、幸せそうで、愛らし……いや待て、違う。
気の迷いだ。
女相手にそんなことを思うわけがない。
こうして寝所を共にしながらも何もないのがその証拠だ。
これはただの他人で、妻だが女ではなく、いや女なんだがそういうのじゃなく……。
「なんで俺がこの女についてここまで考えなきゃならんのだ」
俺はそう独り言ちてから、彼女とは反対方向を向いてから目を閉じた。
この女がどんな人間なのか、まだ俺にはわからない。
だがこれだけはわかる。
この望まなかった結婚は、悪いようにはならないということだけは──。
─後書─
ここまでで一章は終わりです!!
次回から二章!!
二人の仲がグッと縮まります!!
皆様これからも応援よろしくお願いします。
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