変な女を妻にしてしまった〜ロイドSide〜
何だ。
何なんだこの女は。
おやすみを言われて3分ほどで背後から小さな寝息が聞こえ始めた。
冷静に考えてよくこの状況でそんな早く眠れるな。
この日俺は、今日初めて会ったこの女、メレディア・フレッツェル伯爵令嬢と結婚式を挙げた。
俺は人間が大嫌いだ。
人の良さそうな顔をして取り入り、裏切り、破滅へと導く。
だから絶対に自分の懐に他人を入り込ませたくはないし、領地を繁栄に導き領民がよりよく過ごせることだけを考えて生きていくつもりでいたが、周りは良い歳だからと婚姻を勧めてくる。
それが煩わしかったのだ。
条件を呑めるのならば結婚してもいい、と公言した。
俺がこの結婚で出した条件は3つ。
1つ『屋敷では問題を起こさず、極力おとなしく静かにしていること』
2つ『お茶会はしてもいいが、2人以上の人間を呼ばないこと』
3つ『俺に必要以上に関わらないこと』
第一に問題を起こさないというのはできるかもしれないが、おとなしく静かに暮らさねばならないのは派手事が好きな令嬢たちには厳しい。
第二に貴族令嬢はお茶会やパーティが好きだ。
どれだけの人数を呼んでそれらを開くことができるのかは、そのホストの人気度や影響力を表すことのようで、どうも豪華で盛大なものにしたがる。
お茶会をしても2人以上呼んではいけないというのは、自身の力を誇示したい彼女たちにとって苦痛でしかないだろう。
そして第三に、夫であるにも関わらず、妻に必要以上に関わらせない、ということは、完全なる拒絶であり、普通の夫婦関係は望めないということは見て取れる。
プライドの高い貴族令嬢はこんな馬鹿な条件許さないはずだろう。
おまけにこれらの条件を出した男は、目つきも鋭く冷酷無慈悲だと噂される俺、ロイド・ベルゼ。
これらの条件を呑んでまでそんな男と結婚しようなんて奴はいないと思っていたが、まさか本当に結婚することになるとは……。
あんな無茶な条件を呑んでも結婚したということは、あの親たちは娘のことを早く嫁に出したくて仕方なかったのだと見える。
虐げられてきたのか、それとも地位が目当てか。
どちらにしても、俺の仕事の邪魔をせず静かにいないように暮らしてくれるならばそれに越したことはない。
だが流石に結婚式で初めて会ったような男と口づけをするというのは哀れに思えて、誓いの口づけでは躊躇してしまったが、俺が二の足を踏んでいる間に(というか神父の言葉を食い気味にして)、あろうことかこの女は俺の胸ぐらを掴み引き寄せ無理矢理に口付けたのだ。
……ありえん。
この俺が……こんな鉄仮面女に……ファーストキスを奪われるなんて……!!
初夜だってそうだ。
ただの名ばかりの妻に求めるのも哀れだと思った俺がベッドに入って早々に眠ろうとすると、自ら夜着を脱ぎ出したのだ。
なんでこいつは初夜する気満々なんだ。
痴女か。
そうかと思ってみれば、初夜に耐えてみせると表情をさらに固くしながら答えた今日妻になったばかりの女に、俺はもう何も言う気力が失せてしまった。
挙げ句の果てに数日屋敷を留守にする話をしてみれば、表情は変わらないがあからさまに雰囲気がソワソワし始めたんだが……。
そんなに俺が家を留守にするのが嬉しいんだろうか。
それとも俺がいない間に何かやらかす気か……。
条件を破れば即追い出してやる。
一度は結婚したんだ。
離縁したところで周りも何も言わんだろうし、すぐに次の結婚を勧められることもないだろう。
念のため、マゼラとローグに監視させるか。
「むにゃ……異世界すろーらいふ、ばんじゃい」
「!? ……何だ、寝言か」
『いせかいすろーらいふ』って何だ。
「はぁ……変な女を嫁にしてしまった……」
変な女。
だが、哀れな女だ。
俺のような人間嫌いで冷酷無慈悲な男に嫁がされるなんて。
それが、俺の、この女への最初に抱いた感情だった。
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