イージーモードなホラゲー世界に転生したのに!
かげはし
プロローグ ヒロインは絶望した
気がついたら何故か私は死んでいて、よく分からない世界に生まれ変わっていた。
もともといた世界によく似ているけれど、私が死んだ時期より前だったし、前世の自分自身がいるのかもと探したけれどいなかった。
つまりここは私が知る現代に似た別世界。いわゆる並行世界なのだろう。
「うーん……でもなんか、どこかで見たことあるような顔なんだよなぁ……」
鏡前でポニーテールにまとめた髪をチェックしつつ、まだ新しい制服を着た自分自身を眺めた。
栗色の髪と瞳。背丈は平均的で小さく、ほどほどに育った胸が制服のシャツを若干押し上げている。
目は大きくぱっちりとしていて、自分自身で評価するのもあれだが可愛らしいと思える容姿だ。
前世では平凡顔だった私にとっては転生特典かなと思える程度のもの。
異世界といっても現代と変わらないし、常識も同じ。魔法とか妖精とか摩訶不思議な物は存在しない。だからまあ、大丈夫だと思っていたんだ。
「夕日丘高等学校……?」
あれ、どっかで聞いたことある名前だなと思ったのが最初。
入学前の試験とか、説明会とかで何回か来ていたはずなのに違和感は感じられなかったのが何故なのか。
「初めまして、僕は四木真白。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね! 僕が力になるから!」
「あっ、うん……わ、私は雲井新月……よ、よろしく……」
「よろしくね雲井さん!」
私の引き攣った顔に気づかず楽しそうに握手をしてきた中性的な少年。
私より背が低く、黒髪黒目の彼に見覚えがあった。
否、夕日丘高等学校という名前で何故思い出せなかったのかと後悔したのだ。
なんとか交流を済ませて自分の椅子に座り、顔を両手で覆って絶望した。
周りからは眠いのかなとか、変な子だとか思われているかもしれないけれど今はそれどころじゃない。
(ここってホラーゲームの世界じゃん!!)
青空戦略─イージーモード─
通称『青戦』と名高いホラーゲーム。
夕日丘高等学校を舞台に繰り広げられる怪奇現象に生き残るため様々なアクション、選択肢、そしてルートを通じてハッピーエンドを目指すというもの。
前作に出た『夕青』というホラーゲームのイージーモードである。
なんせ死にゲーと名高い難易度がナイトメアな夕青をもっとやりやすくプレイさせてくれという要望が多数あったらしく、前作よりクリアしやすくなっている。
しかしやりやすいと言っても他のホラーゲームよりは死にやすいホラーゲーム。
それが、現実に起きた場合どうなるのか。
(やばい。私は雲井新月……くもい、しんげつ……つまりヒロインじゃん!)
私の目の前にいる真白は青戦の主人公。そして私はそのヒロインとしてゲームキャラクターに登場していた。
つまり私はこれから何度も死ぬような目に遭う。
今までは怪奇現象が起きたことなどなかったはずだけど、夕日丘高等学校に入学してからの雲井新月はいろんな意味でトラブルメーカーとなるのだ。
怪異に好かれやすくいろんな事件が起きるヒロイン。それを主人公が救っていく。
いや、選択肢やルート分岐によっては主人公自体が闇堕ちし、ラスボスになることもある。主人公には厄介な怪異に好かれているから、私は彼を頼ることはできない。
(確か入学式ってある意味チュートリアルだったよね!? しかも何回か死んじゃうかもしれないルートもあったはず……!)
どうしようと頭を抱える。
私には力がない。このままじゃ死ぬかもしれない。だってこの世界はホラーゲームと言っても現実世界。死んだらそれで最後なのだから。
主人公たる真白に頼るにしてもあの影は駄目だ。
影の怪異が真白の中にいる限り私は厄介なトラブルメーカー。真白が嫌だと拒否すれば影は私を敵と思い込むだろう。
つまり私は現時点で詰んでいるのだ。
入学式の直後に主人公と共に神隠しに遭い、校舎が廃墟へ変わってしまい、鏡を見つけて脱出するというチュートリアルが始まるのだから。
そこで協力できるのならいいけれど、それでも状況によっては死ぬ。確実にクリアできる可能性は低い。
(死にたくない。やだ、怪異に食われたくないよぉ……)
泣き言を喚いても誰も助けてくれない。
私がやらなきゃいけないことだ。────でも私には力がなくて、真白だって影の怪異がいなきゃどうにもできなくて……。
いや、そもそも本当にこの世界ってホラーゲームなの?
もしかしたら違うかもしれない。でもそれを確認するには手がなくて……。
「……あっ」
そうだ、と。気づいたのだ。
ここは夕日丘高等学校。
夕青のホラーゲームが終わったであろう十数年後の世界。
それならばきっといるはずなのだ。
夕青の前作主人公たる神無月鏡夜。教師となった彼がここに────。
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