【万魔物娘使い】は不屈で無敵 ~仲間や国から切り捨てられても魔物娘たちと新たな居場所を作ります。もちろん復讐も忘れずに~
幸島大嗜
第1話 排斥
朝日の差し込む大神殿、俺たちパーティは儀式の始まりを待っていた。
「ゼズ、テメェは一番最後だ」
「いや、横一列に並ぶって話だったはずだけど?」
「うるせぇ、アタシが今決めたんだよ!」
ドガッ!
貴族令嬢とは思えないフィーネの蹴りが飛んでくるが、それを読んで自分に<強化魔法>をかけておいた俺は、後ずさりながらもガードする。
「服が汚れる、やめてくれ」
「生意気なんだよ! エンデ!」
聞くが早いか、デカい筋肉男のエンデに担がれる。彼と比べて小さい――正直に言えば一般男性と比べてもだいぶ低身長な――俺は後方に運ばれ床に叩きつけるようにして降ろされる。
「フ」
怪我を治すため<自然回復力強化>をかける俺を、いつもの頬が引きつるような嘲笑で見下げている眼鏡男テロス。
「だる~」
気にも留めず長い黒髪を指でくるくるとイジっている東の国出身の女、リヨ。
これが俺の最高にクソなパーティである。
「ただいまより、適職の儀を始める! 君たちはダンジョンの攻略を目指す『次期英雄パーティ』として、3年の訓練を経て今日という日を迎えた! 仮ジョブから適正なジョブになるこの儀により、神は大人となる君たちに祝福をお与えになるだろう!」
祭司様が宣言すると、参列している兵士と元英雄の教官2人が拍手をする。
そうだ。俺がなぜこんなパーティに甘んじていたのかと言えば、この日のため。
数年前に国はある予言を授かった。
元英雄レベルの強力なジョブの才能がある5人の子供に関する予言。それが俺たちというわけだ。
「では、ひとりずつ結晶板の前に!」
列の先頭が動き出す気配。結局フィーネの言う通り縦一列に並ぶことになってしまった。お陰で前に並ぶテロスの背中しか見えない。
「板に触れなさい」
バシン! と大きな音がしたので、思わず姿勢を崩し、テロスの背中越しに覗く。
やはりフィーネが水晶板に手を叩きつけたらしい。あいわらずイカれた女だ。儀礼服が配られているのに、いつもの黒い海兵服姿。貿易で興った貴族家だからってそれはないだろう。
「ジョブは【
「へぇ、早く説明しな」
当然の如く祭司様にタメ口を聞きながら、踏ん反り返っている。
「……【
祭司様は手元のジョブスクロールを読み上げた。
確かに聞いたことがないジョブだ、【
「ヒハハハハハ!! アタシの伝説は今ここから始まった!」
……ああ、そうか。元英雄の国王と戦闘スタイルを似せるための努力が実ったのか。そのおかげで俺らは割を食ったけどな。それにしてもテンション上がりすぎだろ。
「儀式はお静かに。では次の者、結晶板の前に!」
次はエンデの番か。
「手を板に。ゆっくり触れなさい」
のしのしと石畳を踏みしめ進み出た、ゴーレムのような男が板に手をのせる。
「ジョブは【
マジか! 俺も驚いたが教官と兵士たちからもどよめきが起こる。
「……! この力をフィーネ様に捧げます」
そんな中ギラついた目でエンデを睨みつけていたフィーネだったが、エンデの言葉を聞いて満足そうに笑う。
「このジョブに関しては説明はいらぬであろう、まさかこの目で見れるとは……次の者前に!」
【
遠近あらゆる武器を操り、狩猟用のあらゆる道具を作り出し、どんな狩人系ジョブよりも感知能力に長け、そしてなにより竜に対する特攻。
フィーネに従ってるだけの無口な筋肉男。体格だけは立派だが、英雄なんてガラじゃないだろ。神様は何考えてるんだか。
「ジョブは【
「ジョブは【
「では最後の者、前に」
呆けているうちにリヨとテロスが終わり、俺の番が回ってきてしまった。
「はい!」
俺は気合を入れなおして、進み出る。そして、水晶板に触れる。
触れた瞬間、どこからか体の中心に力が溜まってくるような感覚に襲われた。
ああ、3年耐えた俺の成果がやっと報われる。
「む、これは!?」
「え?」
祭司様の不吉な声に思わず顔を上げる。
「ジョブは【
は? なぜ仮ジョブの【
「捕らえろ!!」
そう聞こえた瞬間、体は動いていた。とにかく逃げなければ!
「がはっ!」
しかし、後頭部に強い衝撃が走り、頭から石畳に転がる。かすむ天井を見上げる視界に入ってきたのは、エンデの見下した視線だった……。
§
「<中位爆裂>!!」
フィーネが手のひらをつき出すように大爆発と衝撃波を放ち、至近距離の木馬の魔物たちに大きなダメージを与えてひるませる。同時に爆風が瓦礫をまき散らすも、リヨの<結界術>による障壁でフィーネは守られた。
その隙に、巻き上げられた土埃をいとわないエンデの大弓の追撃。剛腕で射られた音も裂くが如き攻撃の成果を確認するまもなく、フィーネがテロスに叫ぶ。
「次で最後だ、こっちへ合流しろ!」
もう一度エンデが矢を射ると、<闇魔法>と<挑発攻撃>でフクロウの魔物を引き留めていたテロスが前線に合流。
土煙が晴れて、残りは木馬1にフクロウ2。倒れた木馬2匹はさっきの矢がトドメになったようでドロップアイテムを残して消えようとしているところだった。
「もういっちょ、<中位爆裂>!!」
いや、ダメだ! もうフィーネは魔力が残ってない!
「チッ!」
魔法が不発に終わるが、すぐさま背中の戦鎚を掲げ踏み込んで、手近な木馬に振り降ろすフィーネ。
「囲め!!」
指示を聞く前に弓を置いてエンデは走り出しており、大鉈を片手に前線に躍り出た。
後衛は俺と、祈って<障壁結界>をかけなおしているリヨ。もう大丈夫だと思うが、最後まで気を抜かない。俺は魔物3体にそれぞれ1対1を仕掛ける3人を注視し、すぐに再び魔法を発動できるように準備した。
「おい、テメェ、ゼズ!」
戦闘終了後、やはりフィーネに絡まれる。
「アタシの魔力切らすなって言ったよなァ? ただでさえ戦闘中なんもしてねぇんだからよ、何度言ったら分かんだ、ドチビが!!」
「何度言ったら分かるのかはこっちのセリフだ。<強化魔法>ができるのはあくまで体力魔力の自然回復力の強化。あれだけバカスカ魔法打ってれば魔力もなくなる。戦闘スタイルにこだわるのはいいが自己管理くらいしろ!」
「反論してんじゃねーぞ!」
頭の上から聞きなれてしまった怒号と、フィーネが前蹴りをしてきたので、いつものようにガード。
ドカッ!
「生意気だな。エンデ、捕まえろ」
しかしカードでひるんだ隙に後ろからエンデに羽交い絞めにされてしまう。
バキ、ボコ、バギィイ!
後はそのままフィーネに殴られ、蹴られ、髪を掴まれまた殴られて、毎回飽きもせず続けられるその行為から、やっと解放されて地面に仰向けに倒れる。
「つまんねー。エンデ、シメとけ」
「はい」
ツイてないな、今日は追加がある日か。
今度はエンデのリンチが始まり、横腹を蹴られて、腕を踏まれ、頭を蹴られたところで意識が遠くなる。このまま気絶できるならまだ楽だ。
そんな俺を見下したエンデの視線、つい最近見たような……。
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