僕の周りには奇人注意報が発令されている〜真面目に生きたいだけなのに、隣人達が許してはくれないようです

抹茶味のきび団子

第1話 僕の高校生活、初日

 春。早咲きの桜が散り始め、地面にその花びらをあらわす頃。


「今日は入学式か……。中学の入学式はそんなに緊張しなかったのに、なんで高校だと少し緊張するんだろうな?」


 ボソッと独り言を呟く、男子高校生がいた。


 日本では平凡な黒髪黒目だが、少し伸びた髪の毛は中性的な雰囲気を感じさせる。身長は他生徒と同じくらいだろうが、しっかり着込まれたブレザーに、ピシッと伸ばされた背筋が、彼の印象を大人びたものにさせていた。


 その少年は律義に門の前で一礼をすると、やっと学校の敷地内へと入っていく。


「――新しい環境だからしょうがないのか? それとも今日の始業式で新入生代表の挨拶をするから……?」


 校門のそばで独り言を呟いているせいか、周りの人間は誰も近寄ってこない。中学の顔なじみと騒いでいるか、一人で緊張して縮こまっているやつばかりだ。


 ──とはいえ、それも仕方ないことだろう。自分も緊張しているから、人のことは言えないのだし。


 そう思って校内を進み、指定された待機教室に着く。やはりと言うべきか──そこでも緊張している人は多そうだった。話をしているやつも、門の前で見た人達よりどこかぎこちなく見える。


「席は……あそこか」


 黒板に張り出された座席表では、一番窓側の最後列。春らしい陽気を感じられるいい席だが…………。


「──黒板が見にくいな」


 最後列だけあって、黒板が見にくい。前の席には多少の空席があるが、これが全て埋まったら授業に身が入らないくらいの視界になってしまうだろう。


「先生に直談判して変えてもらうか……?」


 ともあれ、今そんなことを考えても仕方がない。諦めて席につき、始業式の予定を確認する。


「まずは校長先生の話があって……祝電披露、担任紹介。在校生の挨拶と続いて、それが終わってから僕の新入生挨拶か……」


「──それ、今日の始業式の予定表?」


 鈴の音のような声が、鼓膜を震わせた。


 声のした方を見やると、自分と似たようなブレザーを纏った女子高生がいた。いやまぁ、同じ高校に通う以上、同じブレザーなのは仕方のないことだろうが。


 しかし、自分とは違い、ブレザー姿がとても映えている。新入生らしい、幼さの残る顔立ちに、太陽の光を浴びて反射する銀髪。こちらを見つめる赤眼は、ルビーと見まがうほど大きく見開かれていた。


「そうだけど……君は?」


「あぁ、自己紹介が遅れちゃったね。私は木南豪詞詠きなごうしえい。あなたと同じ、県立宮代山くしろやま学園の新入生だよ」


「そうか。僕は生目面真いくめつらまだ。隣の席なのも何かの縁だろうし、今後ともよろしく頼むよ」


 その言葉を聞いて、目の前の詞詠は苦笑する。


「なにそれ。なんだか新手の口説き文句みたい」


「そう、かなぁ……?」


 と言われても、自分では全く自覚がない。袖振り合うも多生の縁というような感じだったのだが……。


それに中学までは、『真面目が服を着て歩いている』と言われていたほどだ。初対面のクラスメートじゃなくても、口説き落とすなんて不埒な真似はしないという自負があった。


「ところでさ……」


 その声で、僕はまた顔を詞詠の方へ向ける。彼女の声は、そこまで大きくないのによく通るから不思議だ。


 しかし、いや、だからこそ――――。


「入学式の新入生挨拶、私に代わってくれない?」


 そんなバカげた提案が、聞こえてきてしまったのだけれど……。

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