空気清浄機

とらまる

空気清浄機

「悪いな、無理言っちまって」

「いいんだよ。俺にとっても好都合さ」



葛西伸二と室井浩司は高校生時代からの友人である

高校1年生の時に同じクラスになってから

社会人になった現在まで腐れ縁の様な状態がずっと続いている


お互いの仕事の愚痴を居酒屋でこぼし合ったり

休日が一緒の時には共通の趣味である海釣りへ出掛けたこともある

所帯を持った時も

新郎の友人代表として祝辞を述べ合い

夫婦連れで一緒に沖縄へ旅行したこともあった



だが3ヶ月前

突然浩司の妻が失踪してしまった


もちろん警察にも相談し、捜索願いを出してはいるのだが

一向に行方が分からない

実家にも帰っていないし、妻の友人を当たるも分からない、という



「今も分からないのか、奥さん」

「あぁ。何処へ行っちまったんだか。何故いなくなったんだか、皆目見当つかんよ」

「そうか・・・」

「ここにずっといるのも辛いんで、もっと狭い所へ引っ越そうと思ってな。

 それでいらない家財道具とか、もし良かったらお前に譲ろう、と思って」

「うん。俺達は逆にちょっと広めの部屋に移ろうかって話してたから。

 逆に有り難いよ」

「そうか・・・まぁ、欲しい物があったら言ってくれ」


伸二は1週間前に青森への転勤が決まり、2ヶ月後には転居する予定になっていた

東京都内よりも広い物件に住めることになりそうだから

家具類を買い揃えようかな、と思っていた矢先に浩司からの連絡があったわけである



「そうだな。寒い所へ行くからこの電気ヒーター、いいかな?」

「いいよ。ついでに布団も余ってるから持ってくか?」

「ありがとう。・・・おや、この空気清浄機、新しいね」

「あぁ、それか。妻が花粉症だからな。ネットで最近買ったんだよ。

 俺は花粉症じゃ無いから、持って行っていいよ」

「有り難いよ。俺は重度の花粉症だからな。じゃ、いただくよ」


他、まだ未使用のコーヒーカップセットももらい受けて伸二は浩司宅を後にした




「浩司さん、どうだった?」

「あぁ、落ち込んでたよ。ホントに奥さん、何処へ行っちまったのかなぁ」

「そうよね。私も心当たり無いし・・・とにかくどこかで無事にいて欲しいわ」

「そうだよな・・・」

「ところで何もらってきたの?」

「あぁ、寒い所へ行くからな。電気ヒーターと、布団もくれて」

「あら、空気清浄機。これもらって来たの?これ最新式な物なのよ」

「そうなのか?いやぁこの春は花粉の飛散が去年の2倍だってニュースで見たんで。

 買おうかな、と思っていたから良かったよ」

「そうよね。これ、ネットで見たことあるわ。花粉だけじゃなく、細菌、ウイルス、

 空気中の不純物を全部除去してしまう優れ物らしいわよ」

「そうなんだ。そりゃいい」

「ちょっと試してみましょうよ。どんな物か興味ある」

「そうだな。やってみよう」


おもむろに伸二は空気清浄機の作動ボタンを押してみた

ブゥオ~ッと凄まじい音を立てて空気清浄機が作動する


これは凄い威力だな

何でも吸い取ってくれそうだ

伸二は満足げな表情を浮かべた




「ねぇ、いなくなったわよ」

「そうか。素晴らしい威力だな」

「奥さんも、こいつも吸い取ってくれて助かったわね」

「あぁ、俺達にとっての不純物だったからな」

「やっと2人で一緒に暮らせるわね、浩司さん」

「あぁ。嬉しいよ」

「この空気清浄機どうする?」

「あぁ、フリマアプリにでも出品しといてくれよ」


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