第13話.さぁ、共に

『アクシデントでごちゃつきながらも!!いよいよコーナーを回って直線コースに向かいます!!』


 悲鳴から歓声へ徐々に変わりつつある観客の声。それに迎えられるように各馬が直線コースへと入り、それぞれ追い始めている。


 3コーナー手前で1頭競走中止。 不利を受ける馬が多くかなりごちゃ付いたが、幸い落馬は無し。


『外からサブストーリー!!サブストーリー先頭だ!!自然と先頭に立っていたガルパレット苦しくなった!!』


 1番人気のゴールドルピアは後方3番手、不利の影響もあり、前に届くには絶望的な位置取りとなってしまっていた。


『サブストーリー突き放すか!!ゴールドルピアは後方!!フォルテナイトは馬群の内側!!』


 1頭の馬が実況にも迎えられ、猛然と前を走る馬を追い詰める。不利にも屈せず内側でじっくりと待機していた、フォルテナイトだ。


『フォルテナイトがやはり来た!!フォルテナイトがやはり来た!!』


 馬が殺到し、かなり狭い隙間を迷いなく割ってきた。「今度こそ」。勝利に飢えた人馬の姿に、そのレースを見ていた人々は興奮と鳥肌に覆われたであろう。


(いつも通り…!!これが、フォルテだ!!)


 鞍上でむちを振るう卯月うつき 璃乃りの。不利を受けた時は少し心配したが、杞憂に終わった。直線に向いた時は、いつも通りの、強く、勝利へ向かって全力で突き進むフォルテナイトだったからだ。


『さぁフォルテナイト!!フォルテナイト!!サブストーリー粘っている!!!ゴールドルピアこれは届かない!!』


 残り200を既に切り、最後の攻防に大歓声が沸き上がる。


「行けぇっ……!!」


 スタンドで見守る花火はなび調教師も立ち上がり声を上げ、自分の膝を思いっきり叩く。そして、先頭でゴール板を駆け抜けた優駿を、興奮の鼓動が包み込んだ。



『サブストーリー食い下がる!先頭は、フォルテナイトだゴールインっ!!遂に掴んだ重賞のタイトルッ!!』


 数年前にターフを去った天才、卯月 恭一きょういちと卯月 早苗さなえの娘・卯月 璃乃、素質を評価されながらも中々勝てなかったフォルテナイト共に重賞初制覇。


「……っし!」


 フォルテの鞍上・璃乃は相棒の首筋をポンっと叩き、勝利の喜びを共有すると、胸元で小さくガッツポーズをしてその喜びを噛み締めていた。


 1着 ② フォルテナイト 3:06.2

 2着 ⑨ サブストーリー(2)

 3着 ⑦ ルルーシエロ(1)

 4着 ① ダイアリヴィー(½)

 5着 ⑪ グレンシトラス(アタマ)


 馬券内は2番人気→5番人気→4番人気の決着。1番人気ゴールドルピアは7着に終わった。


「ありがとう!ありがとう璃乃ちゃん!!次もよろしくだよほんとに…!!」


 出迎えに来てくれた厩務員の吉田さんと握手を交わす。こちらこそ本当に感謝だよ。


「こちらこそです!!本当にありがとうございます!!」


 その後、花火調教師とも何度も握手を交わした。記者やテレビ局のカメラがこちらに注目している。これが重賞を勝つということなのだろう。GIを勝った後の景色を早くみたいと思ったのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…えぇ、問題が無ければ天皇賞・春へ向かいます。」


 レース後、花火調教師はインタビューに答えていた。予定通りフォルテナイトは天皇賞・春へ。これは予想出来たが、問題は次。誰もが気になる質問があるのだ。


『鞍上は、どうなさるおつもりですか??』


 覚悟を決めた記者の1人が、単刀直入に切り込む。そう、天皇賞・春で手綱を取るのは誰かというのは誰もが気になる事である。


 継続騎乗か、もっと実績のある騎手への乗り替わりか、短期免許を取得した外国人騎手か…


 花火調教師は少し静寂を作ると、自信に満ち溢れた表情で口を開いた。


「もちろん、鞍上は卯月璃乃でいきます。オーナーさんも『継続騎乗』を希望していましたし、何よりフォルテの近4走の好走は、彼女の技術があってこそだと思います」


 記者たちはざわざわとしながら、写真を次々と撮っていく。遂に、天才の子がGIレースに騎乗するという事でかなり注目されるであろう。


 両親を越えるという目標、まずは1歩近付いたのだった。

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