【更新停止中】葵き女王。

にいな

【1.season】葵い炎

プロローグ



◇◆


──20XX年の6月26日(日)阪神競馬場──


『快晴の阪神競馬場。春のグランプリ、宝塚記念まもなく発走です!』


 雲に遮られずに照りつける日光が蒸し暑さを演出し、人々の額からは汗が流れている。そして、時々通り過ぎる爽やかな夏風が嬉しい。


 既にファンファーレが鳴り終わっている競馬場には、グランプリらしく独特の緊張感が流れていた。


「行くよ、フレア……!」


 最内枠のゲートへ向かう人馬。鞍上の女性騎手から、小声ながら闘志漲とうしみなぎる声が響いた。


『最後に18番、アクアレヴリー収まってゲートイン完了です』


 各馬スムーズにゲートに入り、いよいよ最後の一頭が大外のゲートへ向かっていく。

 緊張感が徐々に高まり、一瞬の静寂に包まれるも直ぐに歓声が大きくなった。



『新勢力の台頭か、王者の貫禄を見せつけるか!春の大一番……!宝塚記念っ!』


 ガッコン……!


 アナウンサーの実況と共に、高々と音が鳴りゲートが開いた。


 ワァァァァァァァッ!


 それと同時に、観客席は熱狂に包まれる。スタンドの目の前を、18頭の選ばれし優駿たちが駆け抜けていった。


◇ 数年前 ◆


──2020年12月18日(土)阪神競馬場


 強い風が吹き、寒さが際立つ曇り空の阪神競馬場。雨はまだ我慢してくれているが、時間の問題だろう。防寒着を着込んだ観客達がパドックを囲んでいる。


「落ち着いてな、璃乃りの


 紺色のスーツを身に纏った男が、鞍上の騎手に対して軽く声を掛けた。


「はいっ!」


 璃乃と呼ばれたこの女性騎手。元気よく簡潔に返事をし、真剣な表情でがっちりと手綱を握っている。ちらっと電光掲示板に視線を移した彼女は、深呼吸をして再び前を向いた。


「あんま気負うのはいかんぞ、折角の機会やけん楽しみながら学んでこ〜い」


 スーツ姿の男こと、花火はなび 隆行たかゆき 調教師が、少し訛りを効かせながら声を掛ける。


「は、はいっ!大丈夫です……」


 明らかに緊張気味の璃乃に対して、花火調教師は深く頷き、それ以上の言葉を送らなかった。


──第11R チャレンジカップ(GIII)芝2000メートル


 7枠⑭番フォルテナイト ★卯月うつき(14番人気)


 フォルテナイトに跨る彼女は、デビュー 二年目での重賞じゅうしょう初騎乗となった。


◇◆


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