毎月300字小説企画参加作品(2023年~)

虚影庵

その指は(第18回 お題「指」)

 牢に入れられたハルピュイアの首魁は従順だったが、妙な願い事をひとつ申し出た。

 ひとの指を間近で観察したい、というのだ。

 不穏な動きを見せれば即座に首を刎ねると言い渡したうえで、ひとりの兵士がおそるおそる自分の指をハルピュイアの前に差し出した。

 それに顔を寄せて、長い時間をかけてハルピュイアは観察し続けた。

 やがて兵士に礼を告げた後、ハルピュイアは楽しそうに付け加えた。

 「この細っこい棒きれが、われわれを滅ぼすのか。わたしの首をどうやって折るのか楽しみだな」

 処刑は指ではなく銃で行うのだと兵士が答えると、ハルピュイアはひどく残念そうな顔をした。

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