崩落(第9回 お題「育つ/育てる」)

 女が身のうちで育てたモノらは、「行け」と命ずる女の口から暗闇の中へと飛び立った。

 その姿は女の目にも映らず、そのはばたきは女の耳にも届かぬが、空気の振動で大群が行動していることを伝えてくる。それが徐々に遠ざかってゆく。

 どれくらい経ってからであったか。

 かすかに感じられた夜気のゆらぎが止まった。ソレらが「果て」へと至ったのだ。

 女は息を詰め、気配の絶えた遠方へと目を遣る。闇のただなかにひとり立つよるべなさが、ひたひたと女をひたしてゆく。

 どれくらい経ってからであったか。

 がりがりと鋼が鋼を削るような音が幾重にも重なり、響き渡る。

 闇におびただしい亀裂が走り、玻璃のような音を立てて砕けた。

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