棄権(第6回 お題「折る」)

 やっと折り返しのカラーコーンが見えた。

 会社の部署全員で参加している市民マラソン。「健康な身体でなければ仕事で良いパフォーマンスができない」が信条の課長の発案で、ランニングが嫌いな彼も仕方なく毎朝の練習に参加し、今日のコースを走っている。

 汗がだくだくと流れ続ける。気を抜くと膝から力が抜けて倒れ込みそうだ。

 身体の重さが、あの疑問を抑えていた枷を緩める。

 自分の嫌いなことを強要する上司の下で仕事するのは、幸せなのか?

 進んでいた足が止まる。目を閉じて呼吸を整える。頭を落ち着かせる。

 やがて、彼はゆっくりと身体を起こし、動きはじめた。

 カラーコーンとは逆方向、歩道側に立つ係員のほうへ。

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