ゴーストライターはお隣さん

家猫のノラ

第1話 20年前の賢者へ

引越しのために掃除をしたら『20年後の賢者へ』という黒歴史が発酵しきっているタイムカプセルを発見した。なので20年後の賢者オレは2040年の日本の様子をざっくりと説明しようと思う。


まず新型コロナウイルスは終わった。5類になり、その後は特にニュースになることもなく、世間に知られずにひっそりとレベルが下がっていったようだ。タイムカプセルの中は黒マスクの賢者オレの写真で溢れていたが(全ての写真の裏に撮影の原理についての説明が書かれていた。数年後に文明が滅びるとでも思っていたのだろう)、今は街中にマスクをしている人はほぼいない。都市伝説というか、マスク会社が流した嘘っぱちを信じてる奴らが二割くらいいて、そいつらはそれこそ文明末期のようなマスクをつけている。


次に車は空を飛んでいない。技術的にはいけるみたいで、オーストラリアにオープンした世界一デカい遊園地にはアトラクションとしておいてある。法律は技術革新に追いついていないとどっかのなんかの学者が言っていた。日本では外国で買って、私有地で飛ばすのは大丈夫らしい。YOSHIKIが飛ばしてた。プライベートジェット機も持ってるしもはや日本人じゃねぇよ。


バックトゥーザフューチャー(言いづらっ)のネタでいくと、浮くスケボーは磁力を利用したコースが流行り、一時はボウリングぐらい定番な遊び場になった。だけど何年か前に死亡事件が起こってから人気は落ちた。芸能人が手のひらを返して、普通のスケボーの方が面白くない?と言い出したのも原因の一つだ。賢者オレはどっちの面白さも分からないが。


文化は全体的に昔を懐かしんでる。昭和レトロ、平成レトロ。高級ブランドの並びは変わらず、いつまでも手が届かないままだ。


ざっくり言えば20年前から変わってない。良くも悪くも。あ、地球温暖化は進んでる。今日本で雪が降るくらい寒くなるのは北海道と東北地方の日本海側だけだ。


そして賢者オレはそんな東北の日本海側、秋田県に引っ越してきた。生まれてこのかた、東京の、東京と胸を張って言えない田舎に暮らしていたが、色々あって遠くに逃げたくなった。本格的な田舎暮らし。説明し忘れたけど、都市部の人口密度は20年前の約3倍、逆に田舎は3分の1になってる。国は全国旅行支援的な全国移住支援を本格的に始めた。今回の引越し用トラックも国が手配したものだ。


ピンポーン。


田舎はご近所づき合いが重要らしいからな。

ガチャリ。


「はーい。どちら様ですか?」

「すみません。隣に引っ越してきました。家野です。これ、つまらないものですけど…」


思わず息を飲んだ。安アパートの扉から顔を出したのは、美少女だった。


「わぁありがとうございます。あっ東京ですか?パンダちゃんだ」


袋を覗き込む姿には幼さが残っており、実に可愛らしい。ありがとうヨックモックのパンダ缶。

美少女ちゃんがサンダルを履いて出てきた時に少し中が見えた(決して、見ようとはしていない)部屋はダンボールで埋まっていた。


「あれ?あなたも最近引っ越してきたんですか?」


聞いてからしまったと思った。これじゃのぞいたみたいじゃないか。美少女ちゃんはそんなこと考えなかったようで満面の笑みを見せてくれた。


「そうなんです。私も東京からで」

「奇遇ですね」


きっとこの子は23区内なんだろうな。

部屋の中のダンボールは可愛らしい文字で種類わけしてあるようだ。賢者オレと違って荷ほどきが楽そうだ。


え?は?あれ?あぁ?


「家猫のノラぁ?」


賢者オレとうとう老眼が始まっちまったのか?『洋服』、『アクセサリー』、『キッチン用品』の中に変なのが混じってるように見えるんだが。


「あ!もしかして知ってます?私この先生のラブコメの大ファンなんです!」


知ってるも何も。それ賢者オレです。目の前にいるおっさんです。


「ほら見てください。この考察サイト作ったの私なんです。毎度いい線行くんですよ」


何度も見てる。だって賢者オレこの考察サイトの考察パクって書いてるから。


「会えてうれしい!!これからもよろしくお願いしますね!」


美少女ちゃんは放心状態の賢者オレの手を握り、ブンブン振った。


「よろしくお願いします…」


20年前の賢者へ。オレはラブコメ作家になった。隣に美少女のゴーストライターもいる。


嘘ではないだろ?

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