居候のブロッサムさんは美麗な宇宙人
友真也
第1話
夜中3時。
街中にドォン!と大きな音が響いた。
僕は当然深夜のことだったから、眠っていたので、目を覚ます格好となった。
気になる。
一人暮らしなので音を気にすることなく起床し、スマホと少額の金を持って外に出る準備をし始める。
「Twitterにでも上げようかな。
バズるかもだし。」
ボソリと呟いた僕は、音が鳴り響いた北西の山の方向へと足を運びはじめた。
しばらくして麓に着いたのだが、他に人が多く集まっていると思いきや、案外山から人々の音は聞こえて来なかった。
まあ、深夜だしな。
明日も社会活動を行うべき大人たちは忙しいだろう。
大きな音で睡眠を阻害されただけでも彼らにとっては不愉快極まりないものだろうから、わざわざ山まで来る人などいないのかも知れなかった。
ただ僕も、明日は学校なのだが。
しかし、授業中の睡眠が許されている(許されていない)学生としては、そんなことは別にどうでも良かった。
そこまで険しくない、整備された登山道を進んで行くと、こんな暗黒の時間にも何かの光を反射して光る、銀色の円柱形の物が山頂に落ちていた。
「おぉ~。」
少し、小さな驚嘆の声が漏れ出たあと、すぐさま僕は、これを写真に収める。
そして、Twitterに本文、「なんか落ちてた。」との文言を載せて、ボタンを押そうとした瞬間だった。
何やら光るものを眼前に向けられた。
「そこ、誰だ。」
日本語?
中性的な、日本語の声が聞こえてきた。
日本語が喋れることは驚いたが、驚きよりも先に命の危険だ。
僕は敵意がないことを示すため、両手を上げながら、口を開く。
「あなたは宇宙人ですか?」
「命乞いするようなつまらないやつだったら、引き金を引いていたよ。
黒髪の少年。」
さっき、僕がその質問をしてすぐに、向けられていた銃は下ろされた。
そして、「燃料が切れた。私をお前の家に案内しろ。」と言い、大きなカバンを持ちながら佇む宇宙人を、権力者のようだと思いつつも、銃を持つ者に逆らうべきではないため、いや、本当のところは宇宙人に興味があったため、首を縦に振ることにしたのだ。
家に帰って、リビングに入り電気をつけると、その風貌が明らかになった。
見た感じ、人間とそっくりだった。
てっきり僕は宇宙人は「ドラえもん」のUFOを呼び出す道具(名前は忘れた)の、アザラシのような見た目とか、タコみたいなものかと思っていたので、人型であることに少し驚いた。
身長は僕と同じくらいだろうか、170センチ程度に見られ、モデル並みのスタイルの良さだった。
また、小さな胸の膨らみから、女性と判断することが出来た。
最も、宇宙では胸があることすなわち、女性と考えることがナンセンスなのかもしれないが。
そんなこと考えるときりがないので女性だと思っておこう。
凛とした顔に関しては、かなり整っている方だと個人的には感じた。
クールビューティーが板につく、かなり短めの荒れ気味な右目を隠した銀髪に、切れ長だが、二重の目に高い鼻、王子の言葉がよく似合い、なんとなくなんかレイピア持ってそうな雰囲気だった。
持っているのは銃だけど。
ついでに、服も王子のようなタキシードだった。
「この星は暑いな。」
もう11月なのに、冷えている星から来たのか宇宙人はこんなことをぼそっと呟いていた。
「名前を伺ってもよろしいでしょうか?
ああ、先に自分の名前を言うべきですね、僕は
ダイニングを兼ねているテーブルに座り、僕はまるで職務質問をする警察のように問いかける。
宇宙人は、かなり考え込む表情とそぶりを見せた。
「済まない。
少々母語から日本語への変換に手間がかかってしまってな。
私の名前はブロッサム。
惑星トリニティから来た者だ。
敬語なんて使わないでくれ。
なにしろ敬われる立場はもう飽きたもんでな。」
「よろしく頼む」と彼女は頭を下げる。
敬われる立場?と思いつつ、それに合わせて僕も頭を下げた。
「なんで地球まで来たんですか?」
結局、初対面の人には、敬語を使ってしまうのが僕だった。
理由もなく宇宙旅行なんて申し訳ないが暇人を極めている。
「それは極秘事項だ。
人間には教えられない。」
無表情でお茶を一口飲んだあと、こう答え、決意の固い雰囲気を醸し出していた。
地球征服とかだろうか。
「そうだ、この家に冷蔵庫はないか?」
いきなりなんだ?
あまりに突然で、突拍子な質問だった。
「ありますけど……」
カバンの中からは袋、袋、袋。
紙のものから、ビニール素材まで、大量に出てくる。
「これは……」
「ケーキだ。
いろんな星々のやつだぞ。」
いともあっさりと他の様々な星に生命体がいることを暴露しつつ、50個近くはあろうかというケーキを笑顔で机に並べていく。
いかにもゲテモノ的な沼色のケーキとか、食べられるのか?
「これが宇宙旅行の目的ですか?」
突然顔が真っ赤になった。
「そそそんなわけなかろう‼︎
一国の主だぞ‼︎」
思ったより可愛い人なのかも。
立場は高そうな人だし、宇宙人でもあるけど、あんまり人間と変わらないのかな。
「じゃあ何が目的なんですか?」
しつこいかも知れないが、僕は彼女に問う。
彼女は顎に手を当てながら悩んだ様子を見せたが、口を開いた。
「私はとある国の王を勤めててな、側近の能力も高いし、何も不自由はなかったんだが……民の期待に応えられる気がしなかったんだ。
私には特段秀でた能力がない。
武術も、政治も、芸術も。
だから逃げてきたんだ。
きっと今頃私に失望しているだろう。」
さっきまでの発言が、頭に浮かんだ。
『敬語なんて使わないでくれ。
なにしろ敬われる立場はもう飽きたもんでな。』
もう、人の上なんかに立ちたくないのか。
彼女は諦めというか、悟ったような顔で、語っていた。
ここで大丈夫とか、きっと戻れるなんて無責任なことは僕には言えない。
「周りを、僕を頼っても良いから。」
彼女は突然目を潤ませる。
「ああ、えっと、大丈夫?」
多分僕は慌てたような物言いになっていた。
ただ、僕の焦りは杞憂だったようで、彼女は首を横に振った後、口を開く。
「自分が生まれてから十六年間ずっと周りの人に頼られてきたから、そんなこと、言ってもらったことなくて、嬉しくて。」
辛かったんだろうなと思う。
十六年間もすべての期待を背負い続けるなど、僕ならば壊れてもおかしくない。
涙を止めた彼女は、僕に向かって喋りだす。
「じゃあ早速頼っても良いか?」
「勿論。」
「ここに私を住ませてくれ。」
はいはい……って、え?
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