26【夢戦闘】

 ファールンは城壁の外、郊外である貴族の別荘を伺っていた。老婆たち魔法使い数名が、この場所を突き止めたのだ。

「人数は分かるか?」

「三名、外にはいません。全員中ですね」

 イクセルは探査の力に秀でている。性格に内部の状況を把握した。

 この別荘の持ち主は、たぶん問題には関係ないだろう。勝手にアジトとして使われているのなら、建物を破壊しては騒ぎが大きくなる。

 フェリクスはどうしようかと考えた。

「まあ、強襲しかないな。俺がドアをブチ破ったら、三方の窓から突入してくれ」

 四人は身を隠しながら持ち場に移動する。

「さあ、お嬢様にちょっかいを出しているのは、どこのどいつだ?」


 フェリクスは門を飛び越え、玄関口に肉薄する。そして木製の扉をたやすく破り突入した。そのままリビングを目指す。仲間が窓を破る音が聞こえる。

 族の三人は部屋の中央に固まっていた。共に黒いローブ姿にフードを深く被り、四人に囲まれた格好となる。

 中心に発生した光が三人組を包み込んだ。そして上昇。

「ちっ!」

 それは高速移動する球体障壁であった。屋根を突き破り、ファールたち四人も追って空中へ飛ぶ。球体は速度を上げて、夜空を森の奥へと着地した。

 魔導士ソーサラーのイクセルと、魔法使いウィザードのパニーラがすかさず森の中へと突っ込む。

 あらかじめ二人が防御魔法を使いつつ追撃し、剣士フェンサー魔導闘士ソーサエーターは後衛で隙を伺うと決めていた。

 フェリクスは探査魔法を使いつつ様子を見るが――。

「退けっ!」

 ――そして二人に撤退命令を出す。

 あの球体であればもっと遠距離まで跳躍できたはずだ。だから逃走経路とした森の中には、あらかじめ魔導罠トラップを仕掛けているのだろう。

 得体の知れない相手に、追撃はリスクが高いと判断した。再戦の機会はいずれやって来るだろう。

 それに他のお客たちがやって来た。

「全員停止だ。ここまでとする。あれは王宮の連中か……」

 数個の光点が草原を移動し森に向かっていた。敵を追撃している。

「もうちょっと進んでも良いんじゃないですか?」

「先は魔導罠トラップだらけよ。あの人たちにませましょうよ」

 イクセルは不満があるようなので、パニーラは同意を求めるように言う。

「彼らとの接触は避けるの?」

「お嬢様の件もあるしな。我らの仕事は主の護衛までだ」

「魔獣相手と違って人間なら王宮の出番だものね」

 ヒルダはフェリクスのよき理解者である。


 続いて四人は室内を確認する。当然であるが証拠物などは残っていない。

 残存魔力を鑑定する。

 呪いの夢使い、魔獣使い。そして防御魔法を使う護衛。今回の任務を担うべく結成されたパーティーだ。

「珍しい魔法を使う連中がそろっているわね」

 防御魔法に飛行を組み合わせて使うのも珍しいが、夢の中に使い魔を送り込む力も珍しい。

「ああ、他国の連中だよ。たぶん他にもいるだろう」


   ◆


 翌日アレクシスは、今までの気鬱が嘘のように回復していた。いつもと同じように学院に行き、放課後は心配してくれた親友たちに説明するため学院内のカフェでお茶を楽しむ。

「そう、よかった。王太子様の婚約者候補に、何かあったら大変だったわ」

「そうそう、うらやましいわよ。イケメン騎士に守ってもらったなんて! 見習いだけどね」

 マティアスは勝てなかったとはいえ、身を挺してアレクシスを守ってくれた。

 それはまるで伝説の勇者が奇跡の聖女を守る戦いあったと、そう勝手に想像していた。思わず頬が緩む。

「どうしたの?」

 マルギットは何かとイケメンを連呼するがなかなか鋭い。それはアレクシスの心をくすぐっていた。

「気分が良いわ。ここ数日の落ち込みが嘘みたい」

 アレクシスは照れ隠ししつつ話をそらした。

「うん、戻って良かった。ひどかったものね。心配しちゃった」

「呪いの魔法って恐ろしいのね。いったい誰がこんなことをしたのかしら?」

「王宮で調べてるとは思うけど、分かるのかしらね」

 アレクシスもファールン強襲の件は知っていた。状況も聞いたが、首謀者が分かると思えない。それだけ相手は用意周到なのだ。

 これはヴェルムランド王国に対する、他の国家による攻撃である。

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