23【悪夢のデート】

 夕刻、リンドブルム家の屋敷に全員がそろう。

 冒険者パーティー「ファールン」のメンバー、アレクシアの父と母。そしてマティアス。

 当主のリンドブロム・バルブロはソファーにどっかりと座る。腕を組み難しい顔をしていた。

「こんなややこしい魔法を使ってまで、娘を陥れるとはな。相手は一体誰なんだ? 許さんぞ!」

「あなた。まずはアレクシスを」

 母親のソフィーアは先走るバルブロを軌道修正する。目的と手段との優先順位を間違ってはいけない。娘の安全無確保が最優先であり、敵の殲滅は後回しでも良いのだ。

「ううむ、そうだな。フェリクス!」

「はい」

「夢の中に入って魔獣退治だ。できるか?」

「もちろんです。ツテがありますから。全員が無理なら俺だけでも入り、お嬢様を救います」

 ファーレン単体でこの任務は遂行できない。特殊な魔法を使う者の助力が必要だった。

「うむ。たのむぞ」

「ただ今夜はさすがに無理です。明日、ワタリを付けますよ」

「それでいい。手配してくれ」

「分かりました」

 自信ありげフェリクスは言い、バルブロはうなずいた。ファールンならば安心だ。

「今夜は私が夢に入り、お嬢様を守ります。王宮の魔導士が協力してくれますので」

「マティアス。君一人でか?」

「はい、私はお嬢様の護衛ですから」

 魔導士ソーサラーのイクセルと、魔法使いウィザードのパニーラはニヤニヤしながら顔を見合わせる。マティアスの敗退を予想しているのだ。

 魔導闘士ソーサエーターのヒルダは何かを思案するように首をかしげた。剣士フェンサーのフェリクスは真剣な表情を崩さないが、目は笑っている。

 オケラのマティアスは評判がいまひとつであった。

 しかし今夜すぐに動けるのはマティアスだけであり、選択肢は一つだけだ。

「一人か、仕方あるまい。分かった。ファールンは待機とさせる。頼むぞ、マティアス」

 バルブロは不満であったが表だって文句は言えない。表情は冴えないままだ。

「命に替えても、お嬢様をお守りいたします」

 カールシュテイン将軍の、子息の命に代えてなど冗談ではない。大げさすぎだ。普通に守れば良いのだと、周囲の者たちは少々しらけ気味である。

 だがマティアスは大いに張り切っていた。

 当主のバルブロは不安を顔には出さず、すでに二、三手ほど先を読む。失敗する今夜のその先を。


  ◆


 アレクシスは昨夜の続きで、またも草原の中にいた。周囲に魔獣の姿はない。

「あっ!」

 しかしすぐさま森の中からお馴染みの敵が現れた。

「!」

 そして反対の森から護衛のマティアスが颯爽と登場する。アレクシスはそちらに向かって駆けた。

「アレクシス様っ! 私の後ろに」

「はいっ!」

 剣を抜いたマティアスは、黒い魔獣に突進する。腕を振る魔獣の攻撃を剣で防ぐ。しかしそのまま弾き飛ばされてしまった。体格差はいかんともし難い。

「がはっ!」

 剣ごと胴を打ちすえられ、もんどりうって草地を転がる。魔獣はそのままアレクシスに迫った。

「きゃーっ!」

「このっ!」

 アレクシスは悲鳴を上げ、マティアスはすかさず立ち上がる。走りながら剣を振るうと、魔力が飛び魔獣の背中に炸裂した。注意を逸らした隙に、アレクシスのとの間に割って入る。

 右から左から攻撃を加える魔獣をかわしつつ、森の中へジリジリ後退した。防戦一方となったニ人は、森の木々ごと魔獣の攻撃に薙ぎ払われる。

 今夜も夢は最悪の終わりバットエンドであった。

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