08【再会】

 次の仕掛けがアレクシスに襲いかかる。ある令嬢から誕生日パーティーの招待状が届いたのだ。差出人はオスカリウス・フレドリカ嬢。あの時、茫然自失で立ち尽くした令嬢である。

 当日に迎えの馬車を差し向けると書いてあった。

「どうしましょうか? お母様……」

「断れないわねえ。リンドブロム家は逃げたと評判になるわ」

「参りました……」

 絶対に楽しいパーティーではない。地獄からの招待状だ。せめて相手の出方が分かれば対処も可能であるが。

カジュアル気兼ね無いパーティーとありますが?」

「私たちの年代でも多いわ。フォーマル儀礼的パーティーは手間がかかるし、美味しいものを食べるのにドレスは関係ないですしね。いいんじゃないかしら?」

 しかし引っ掛かる。カジュアル気兼ね無いで行けば周囲全員がフォーマル儀礼的は?

 ある気がする。

「全員がフォーマル儀礼的で待ち構えているとか……」

「うふふ。王都の令嬢は簡単ではないわねえ。アレクが試されているのね」

 ならば逆はどうであろうか?

 フォーマル儀礼的なのに他の全てがカジュアル気兼ね無いの方が滑稽であろう。

「さて。どうしましょうか……」


  ◆


 結局アレクシスはカジュアル気兼ね無いを選んだ。嫌がらせを受けたとしても、ダメージが少ない方を選ぶべきだ。どうせ自分は低級だと開き直る。それに招待状の指定どおりを選択するのがアレクシスなのだ。


 会場の王宮敷地内にある迎賓館に行くと、中は着飾った紳士淑女で溢れていた。

「はあ……」

 思わずため息がでた。相手は順当・・に逆のフォーマル儀礼的を選択したのだ。素直にカジュアル気兼ね無いで来たアレクシスは、外しはしたが結果は良い方であった思う。

(相手の思いどおりも、良しとしますかあ)

 次はこのまま帰るか? それともこの姿で参加を強行するか? どうするか? である。アレクシスはロビーの隅で思案した。いっそのこと、ここで恥をかいて相手の溜飲を下げてやるのも手だ。しかし王族の婚約者候補としては、そんなに簡単な話ではない。

 低級であっても、もはや立場はずいぶんと違う。帰るのも選択肢だ。逃げたとの評判ならば、被害はリンドブロム家だけで済むなどと考えた。


「アレクシス様……」

「はい?」

 突然に声を掛けられ、そしてその声の主にアレクシスは驚いた。

「まあ……」

 その男性は王太子の護衛、カールシュテイン・マティアスであったのだ。近衛の正装に身を固めている。なんとも凜々しい騎士ぶりに、アレクシスの胸はこれ以上ないくらいにトキメキな今夜となった。

「お久しぶりでございます」

 胸をドキドキさせながら、それでも平静を装いながらアレクシスは挨拶する。マティアスもこのパーティーに招待されていたのだ。

「ええ。こんな所で、いかがされましたか?」

「わたくし、うっかりしてドレスを用意いたしませんでしたの」

 うっかりも何もないのだが、とりあえずそう言い訳するしかなかった。

「なるほど。それでしたら全て準備しております。どうぞこちらへ」

「は?」

「あなたを護衛せよと殿下の御命令ですから」

 久しぶりに再開した挨拶もそこそこに二人は廊下を進んだ。アレクシスは訳も分からず後を追う。

 ずいぶん奥まで行くと、一枚の扉の前に女性が立っていた。

「王室付侍女長のバーバラでございます」

「はっ、はい。アレクシスです……」

「こちらは王族が利用する控え室となります。どうぞ」

 迎賓館に、このような施設が併設されているなど初めて知った。

「い、いえ。私は……」

「殿下の御婚約者であります、アレクシス様にはお資格がございます」

「はあ……」

「さあ、お着替えいたしましょう」

 中は応接室のしつらえであった。扉が三枚ありその中の一つへと更に進む。

「まあ……」

 その光景は、女子にとっては夢見心地になる空間なであった。様々なドレスが並んでいる。

 そして更に二名の侍女が控えていた。

「ヘアメイクとメイク、アクセサリーを担当する者たちです。時間がございませんので、勝手ながら何点かこちらで選ばせて頂きました」

 侍女たちはテキパキと準備を始め、アレクシスは夢のような空間に立ち尽くす。

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