円環の囚人 -クローズド・プリズナー-
「必殺技って言ってもなぁ...」
あんこちゃんは自身のドアを使ったワープ能力で、何かしらの技を使いたいらしいのだ。
「必殺技ね、いいじゃんね...ハハ」
「コラーッ!!哀れんだ目で見るなーッ!!」
まあ、あんこちゃんの見た目からしてわかる通り、自分の能力をカッコイイ感じで使いたいのだろう。
「吾輩の能力は既に、最強すぎると言っていいほど最強なのだが、
なんかこうパッとして、バッと敵を倒すような使い方が思いつかないのだ。
そこんところ、汝達の知恵を拝借したいのだ。」
「敵って誰だよ...」
取り敢えず、能力の発展はこの部活の活動内容であるので、仕方なく手伝うことになった。
「...ていうか、さっき、なんでわざわざ実家にドアを繋げたんだ?
別に何処のドアだっていいんだろ?」
「もちろん、他のドアだって良いが、この教室のドアは『引き戸』だ。
『引き戸』を引いて、『押し戸』は開けられないであろう?」
「なるほど。入口と出口のドアはそれぞれ同じ種類でなければならない。ってことか。」
コウジはそう言ってメガネを指で押し上げた。
「その通りだ。
それに、知らない場所のドアへは繋げられない。
だから、我が邸宅のドアへと繋げたのだ。
あと他人の家のドアに繋げたら普通に迷惑だしな。」
「この暗黒の使者、やけにモラルが高い。」
「でもまぁ、取り敢えず学校のドアなら、その能力の実験台にくらいしてもいいんじゃないかな。」
「ふむ。確かにそうであるな。」
「あれ、それだったら...」
と羽柴が教室前方の扉と教室後方の扉を指さした。
「こことあそこのドアでやれば?」
「あぁ...確かに。」
とあんこちゃんも納得した。
暫し考えて俺は、
「え、ていうか同じ部屋でその能力使ったことあるか?」
と言った。
「....無い。」
「いや、なんであの和室で過ごしてて気づかないんだよ!」
「...いや、吾輩あの部屋行くとコタツですぐ寝ちゃうから...」
「コタツで寝るな!
あといつまでコタツ出してんだよ!
もうすぐ夏だぞ!?」
「ミカンもしっかり置いたままだったな。」
「ええい!うるさいうるさい!!」
とあんこちゃんは俺たちの声を振り切るようにドアに手をかけた。
「【
「あ、能力名叫んだ。」
あんこちゃんはバタンっと勢いよく扉を左にスライドさせた。
すると教室後方の扉からバタンっと音がした。
あんこちゃんの開けた扉の向こうには、やはり廊下など無く、木製の机とその向こうに青い空を写す窓があった。
あんこちゃんが「えい!」とその向こう側へ脚を飛び込ませると、同時に教室後方の扉から「えい!」と聞こえて、
その声に反応するように、ドアの向こう側に入ったあんこちゃんが右を向いた。
その視線の先に何があるのだろうと俺も右を向くとあんこちゃんと目が合った。
「え、あ、え?
ああ、そうなるんだ。」
と俺たちは混乱したが、一見、複雑そうな能力でも、こうして視覚化するとわかりやすいものだ。
要するにこの教室からは出口が消え、
教室前方の扉をくぐると教室後方の扉、
教室後方の扉をくぐると教室前方の扉に移動してしまうようになったのだ。
「お、お〜!!
これはあまり戦闘向きではないが、空間がループするのは必殺技っぽいではないか!!」
とあんこちゃんも満足気だ。
俺もそのドアをくぐって向こう側を覗いてみた。
するとそこには、ドアに顔を突っ込んだ俺の首から下があった。
そのまま右手を振ると、もう1人の俺も右手をヒラヒラと動かした。
「すげえ、マジでループしてる。」
その後暫く、皆は自身の尾を追いかけ回す犬のように、自分で自分を追いかける鬼ごっこをして遊んだ。
皆がひとしきり体を動かして疲れると、俺はもう一度ドアに触れた。
こちらのドアを動かすと、向こうのドアも連動して動くのが少し楽しかったのだ。
しかし、俺が再びピシャリと戸を閉めて開くとそこはいつも通りの廊下が広がっていた。
「あれ。」
「どうやらあんこさん以外がドアを閉じると効果が消えるみたいだね。」
「そうだったのか。いつも能力を使い終わったらドアを戻してたから気がつかなかった。」
「この暗黒の使者、以下略。」
「て言うか、それって廊下側から扉を見たらどんな感じになってるんだ?」
と羽柴が言った。
「確かに...」
と俺も思わずその結果が気になった。
その後、俺達はあんこちゃんを一人教室に残して廊下に移動した。
「よし、じゃあやってくれ!」
「ひひ!いいだろう!
【
「あ、能力名叫んだ。」
あんこちゃんが唸りをつけた左手は、
二つのドアを
次の瞬間、二つのドアは教室中央から反発するように「バタンッ」と開き、先程まで存在していたあんこちゃんは既にそこにはおらず、ドアの奥には、誰一人立っていなかった。
それどころか教室さえ存在せず、白い反射の目立つ
たった今、その扉の奥を見知らぬ生徒が右から左へと横切った。
次の瞬間、俺達の目の前を見知らぬ生徒が左から右へと横切った。
その生徒の来た道を目で辿ると、そこにも廊下を映した扉があり、俺達の姿が見えた。
「なるほど、
そう呟いたコウジは続いて扉を開閉した。
すると扉の奥に「うわっ!」と驚いた表情のあんこちゃんが現れた。
コウジはたった今起こった現象を彼女に伝えた。
「つまりだ。
Aという扉とBという扉があった場合、
普通はAからA'、BからB'という風に扉は繋がっている。
それをAからB'、BからA'に繋げ変えるというのが、あんこさんの能力なんだ。」
「ひひひ、そうかそうか。
ならば良いことを考えたぞ...
部屋の中に『敵』を放り込んで、外から二つの扉を繋げれば...ひひひひ。」
「誰を閉じ込める気だ。」
「さっきのモラルどうした。」
そんな声には耳を傾けず、あんこちゃんは唇に指を当てて思案し始めた。
「うーむ。そうだな。
敵を閉じ込めて。ループもするから...」
と彼女はなにやらブツブツと唱え始めたかと思うと、「ハッ」として何かを閃いた。
そしてまたもや顔に手をかざして、疼く右目を抑えるような仕草をした。
「ひひひ。決まったぞ!
空間をループさせて敵を閉じ込める必殺技!!
その名も...
†
「
「だから哀れんだ目で見るなーッ!!」
兎も角、これで駄能力研究部初の依頼は達成出来たのだ。
これは部として幸先のいいスタートであろう。
「そうだ!
汝らも能力から発展した必殺技があれば、名を考えてやらんこともないぞ?」
「え〜、高校生にもなって...」
「あんこちゃんってそういうの好きだよね。
教室でも誰も知らないラノベ読んでるし。」
と椿ちゃんが一部の人間に残酷なことを言い放った。
「...い、いいだろう別に!
こういうのは名が無いと不便なのだ!!」
あんこちゃんの子供っぽい提案に呆れつつも俺も内心、心が躍っていた。
「まあ一応言っとくと、
俺は『密室の鍵を開けられる』ようになって、
羽柴は壁伝いになら『無限に空中ジャンプ』で登れるようになったんだ。」
「え、鍵?ジャンプ?すご。」
「それにしてもこれが必殺技か...」
と改めてその名前負け加減を感じた。
どちらかと言うと、ゲームのスキルの方が近いと思うのだが...
「必殺じゃないけどね。」
「いいの!」
突っ込む椿ちゃんにそう返してから、あんこちゃんは「う〜ん」と唸り始めた。
どうやら俺達の必殺技名を考案中らしい。
「思いついてしまったぞ。
最高にイカすのが...」
しばらく思案してから、あんこちゃんは羽柴を見て「ひ。」と笑った
「無限に壁伝いにジャンプをする必殺技...」
あんこちゃんは勿体付けてこう叫んだ!
「...《
「....うん。」
「うんじゃなぁぁあああああい!!!」
「お前ってそういうとこあるよな。」
「いいだろ!カッコイイだろうが!
天に向かうバベルの塔と掛けてるんだぞ?」
「その顛末を考えると縁起が悪すぎる。」
そんなこんなで結局《
[ 部員に必殺技が出来ました!
その名も†
と永遠に消えぬデジタルタトゥーが投稿された。
残るは俺の必殺技名か...
鍵を開けられる能力。
羽柴のように何かから引用するよりも、端的に事実を述べる様な名前の方がバカにされ無さそうなので、その方向でのネーミングをお願いした。
すると「...うーむ。」とあんこちゃんは再度思案した。
「よし、じゃあ汝の必殺技は...」
皆の注目が集まり、思わず緊張したが、この際、黒歴史の一つや二つ、気にする事はない。
「...《
[ 部員に必殺技が出来ました!
その名も†
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