第7話 トランヴェル第1の魔女

暗黒な空に雷鳴が響く……。

一人の魔女が魔物の前に立ちはだかる……。


その魔女が一歩一歩歩く度に地面に雷が走る…。

その雷は地を伝わって周りにいる魔物たちを跡形もなく消し去った。


熊型の魔物はララの家族を食して家から出てきた。

そして目の前の光景を目にし、体が硬直した……。

先程まで自分が襲っていた人間とは思えぬ変わりよう……。

彼女が歩いただけで周りにいる仲間たちが消し炭になっていく。


「な……なんだこいつは!?」


そして魔女がこちらへ向かってくる。

彼女の一踏みから放たれた雷撃が熊型の足を焦がす!


「が…がああ!?」


熊型の魔物はその場で倒れ込む…。

そして見上げれば、そこに一人の魔女が立ち尽くしていた。


「ま……待て……殺さないでくれ」


(……こいつはサジと父さんを殺した魔物)

(許さない……こいつだけは絶対に許さない!!)


熊型の魔物は魔女に懇願した……見逃してくれと。


「はあ?」


魔女が口を開ける……。



「何命乞いしているの?」


「ひぃぃぃぃ…助けてくれ!お願いだ!」


「お前たちはそうやって助けを請う人たちを何人殺してきた?」


「悪かった…悪かった!もう人は襲わねぇ!頼む!助けてくれよ」


「そう…なら一つ駆け引きしようか?」


「駆け引き……?」


「そう…駆け引き……」


魔女は怪しく微笑む………。


「お前の手で仲間を皆殺しにしろ」


「なッ!?」

魔物は立ち退く……。


「お前以外の全ての魔物たちを殺せ。さもなくば、ここでお前を消し炭にする」

魔女は熊型の魔物の額に手をかざした。

魔女ララの手には電撃がまとっている……。


「わ…わかった!頼むから…殺さないでくれ!」

熊型の魔物の額には大量の汗が噴き出している……。


魔女は強面な表情で言い放つ。

「さあ早く行け!」


「はひいいいいいいいいい!?」

魔物は瞬時に仲間の元へと走り出した…!


「ククク……」

魔女は口元に手を抑えながら微笑している……。


(先程の少女が……ここまで変貌するのか…?)

トランヴェルはララの変貌に困惑していた。


熊型の魔物はアヒル型の魔物のところへ向かう。

アヒル型の魔物は村人を痛めつけて冷笑していたところだった。


「ぐああああッ!?」


「ひひひッ!いい悲鳴だ!美味しそうな肉どもだ!」


アヒル型の魔物は熊型の魔物がこちらへきていることに気付く。


「おう!どうだ狩の方は?俺は3匹殺ったぜ!」


熊型の魔物は重い表情で返答する。


「俺は2匹だ…」


「ははは!今日は最高の日だぜ!長年食えなかった人間の肉が食えるんだからよ!」

アヒル型の魔物は目の前で倒れている人間の顔を踏みつける。

熊型の魔物はアヒル型の魔物が人間をいたぶっている隙に後ろに回り、

爪を長くしアヒル型の魔物の背中を突き刺す!


「!?」


アヒル型の魔物は口から血反吐を吐き出す……。


「な……何!?」


アヒル型の魔物は後ろを振り向き、熊型の魔物をにらみつける……。

熊型の魔物はさらに片手の爪でアヒル型の魔物の顔を突き刺す!

アヒル型の魔物は絶命した……。


「俺は…死なねえぞ…こんなところで殺されてたまるか」


「おい貴様!何している!?」

熊型の魔物の背後から声が聞こえる。振り返ればそこには骸骨型の魔物とライオン型の魔物がいた。


「お前……何故仲間を殺した?」

骸骨型の魔物が熊型の魔物に問う。二匹の魔物に刺殺しているところを一部始終を見られていたのだ…。


「いや…」

熊型の魔物は思考を巡らす。どうしたらこの状況を脱出できるのか。そして即座に切り返す。


「こいつが俺の獲物を横取りしようとしたんだ」


「なるほど…だからやっちまったのか」

ライオン型の魔物は納得したのか、うんうん頷いている。


「殺すまでしなくてよかったんじゃね?まあついカッとなっちゃってノリで殺しちゃうのはわかるけど」

骸骨型の魔物は手を組みながら熊型の魔物に問う。


「……そうだなやり過ぎた。殺すつもりはなかったんだ」

熊型の魔物は立ち尽くす…。


「まあ何だせっかくの狩だ。楽しくやろうぜ!」

骸骨型の魔物は微笑みながら熊型の魔物の肩をポンッと叩く。

そしてその場を去ろうと熊型の魔物に背中を向けた。

熊型の魔物は無言で血塗られた爪を再度伸ばし、

骸骨型の魔物とライオン型の魔物の背中を同時に両手で突き刺した。


ドスッ!!!


「てめえええ!?何を……」


「許してくれ」


熊型の魔物は骸骨型の魔物たちに止めを刺す。


「あははははははははははははははははははははッ」


魔女はこの一連の流れを見て高笑いする。

「本当に魔物は下種だねえ…。自分が生きたいがために仲間を殺す。

 こんな愚かな奴らは滅んで当然だ…」


トランヴェルはデジャブを感じていた…。

ララの感想は先程の魔女マベルのそれと瓜二つだ…。

一人の人間が娘を救うべく村を見放し、一匹の魔物が自分の命を守るために同胞を殺す。


(…人間も魔物も大差がないじゃないか…。)


魔女ララが高笑いしている中、彼女の周りに大勢の魔物が集結していた。


「こいつ…こんな状況で高笑いしてやがるぜ……あまりにも悲惨すぎて頭がおかしくなったか?」

「旨そうな肉だ…早速いただくとしよう」


魔物たちはじりじりと彼女へ近づく…が一瞬にして焦げて消え去った。


「あははははッ!!」


魔女ララは片っ端から近くにいる魔物たちを次々と消し去っていった。


トランヴェルは動揺している…魔女化することによってこんなにも冷淡になるのかと…。

ただ単に魔物を消し炭にして楽しんでいるように見える…。

彼女は人間を救う目的からずれてしまっている…。

これではただ単に人間を襲っている魔物とやっていることは大差が無い。


(魔女化は安易にすることはできないな……慎重に判断する必要がある…)


魔女ララは次々と魔物を消し飛ばす……。それはまるで魔物が無力な人間たちを襲っているかのように……。

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