美奈子ちゃんの憂鬱 未亜ちゃんの日記

綿屋伊織

第1話

信楽未亜の日記より


 ○月○日晴れ

 朝

 目覚ましがわりにしているテレビから「目覚ま○テレビ」が聞こえ出す。

 うーっ。眠い。

 ご飯、面倒くさいからケロッグと牛乳だけですませる。

 水瀬君か南雲先生がいてくれれば、すごい朝食なんだろうけどなぁ。

 

 身支度を整えてから、美奈子ちゃんの家へ。

 ちょっと早かったかな?

 ま、いいや。

 軒下に隠してある盗聴器のテープを変えてっと。

 「今、来ました」みたな顔でチャイムを鳴らしたら、おばさんじゃなくて葉子ちゃんが出てきた。

 幼稚園のスモック姿がとってもかわいいから思わず抱きしめてほおずり。

 おばさんもすぐ出てきて、美奈子ちゃんが寝坊したから台所で待っていてくれという。

 「まったくもう!いつもいつも、未亜ちゃんを見習えっていってるのに!」


 おばさんは怒りながらテーブルの上にご飯を並べていく。


 焼きたてのトーストに紅茶、サラダに卵焼き。


 ―――いいなぁ。お母さんの手料理なんて、私、何年食べていないんだろう。


 「はい。時間無いけど、ちゃんと食べるのよ?」


 え?美奈子ちゃんのじゃないの?


 「寝坊した罰!あの子は今日は朝ご飯抜き!」


 いいのかなぁ。と思いつつ、有難く食べる。

 やっぱり、手作りのご飯っておいしい。

 

 紅茶を飲んでいるところで、階段を降りてくる音が


 ドタバタ

 「きゃーっ!」

 ドッシーンッ

 

 ?

 「痛ったぁーいっ!!」

 にゃ……美奈子ちゃん、やったな。



 通学路

 「痛たたたっ……」

 大丈夫?

 「もう最悪……寝坊するわ、階段から落ちるわ、朝ご飯もらえないわ」

 代わりに私が食べてあげたからね。

 美奈子ちゃんの恨めしそうな顔を見ながら、私はバックからカロリ○メイトモドキを取り出した。

 一個、200円でどう?

 「……いい商売、してるじゃない」

 特売で98円で買ったカロリ○メイトモドキをかじる美奈子ちゃん。

 まいど。

 

 教室には、一週間ぶりに綾乃ちゃんの姿があった。

 秋のドラマ撮影で北海道ロケだっけ?

 「おみやげ買ってきました。後で食べませんか?」

 だって。

 やった!

 

 午前中の授業は、南雲先生の英語から。

 わかりやすいけど、普通に英会話出来る私にとっては退屈。

 あーっ眠い。

 

 気がつくとお昼。

 あれ?私、何時間寝ていたんだろう。

 ま、いいや。

 学食でパンと牛乳を買ってきてみんなと食べる。

 スペシャル焼きそばパンはやっぱりおいしい。   

 

 ご飯のあと、おまちかねの綾乃ちゃんのおみやげ。

 クッキーの詰め合わせ。

 やっぱり、北海道は食べ物がおいしい。

 

 さて。クッキーももらったことだし。

 私はそっと、綾乃ちゃんの机の中へ、例のブツを入れた。

 綾乃ちゃん、そしらぬ顔でそれを鞄へいれたのは確認。

 まいど。




 放課後

 部室に行く前に、あちこちに仕掛けてある盗聴器のテープ交換作業をする。

 昨日は、体育用具質で三年の○○君と××さんのナニしていたのを、一部始終記録させてもらった。

 こういうのはさすがに売り物にはならないけど、何かあった時の大切なカードになる。


 最も売れるのは職員室のネタ。

 この前、○○先生が浮気したネタは、早速校内新聞に掲載させてもらった。

 嫌われていた先生だから、一面扱い。

 ……あ、これが元で、あの先生、近くのビルから飛び降りたっけ。 

 

 昨日の録音記録もそこそこのネタになるはずだ。

 部室の一番奥のデスクに座る、校内新聞編集長を兼ねる部長にネタのタイトルだけ書いたメモ用紙を手渡す。

 「……よし。これとこれはネタにつかえるな」

 これは? 

 「これ以上の教員の自殺は困るよ」

 部長、穏和な顔してなかなかのタヌキだからな。

 『教員、ソ○プランドをハシゴ!?』  

 これだけで、誰のことはわかっているはず。

 「それは個人的に買い上げよう。よくやってくれた信楽君。報酬だ」

 部長は引き出しから封筒を取り出してくれる。

 まいど!


 その後、部室にいたら、救急車が学校へ来た。

 なんだろう?

 誰か、ケガしたのかな?

 ま、いいか。


 今日はアナウンサーにとって大切な発声練習の日。

 美奈子ちゃんは真剣そのもの。

 対して私はレポーターとして必要な現場認識能力の訓練。

 私にとって得意技だ。

 現場の状況を、いかに正しく把握して、表現するか。

 聞き手が、耳から入る情報だけで現場を正しく想像できなければ、レポーターは存在価値がない。

 一瞬で現場を頭に焼き付け、カメラめがけてその映像を表現する。

 それは、記憶力と集中力、そして表現力の勝負。

 日頃、鍛えている私にとって、何でもないことだ。

 

 部活が終わって、

 「あーあ、最悪」

 凹む美奈子ちゃんを慰めつつ、家路につく私。

 美奈子ちゃん、セリフとちった挙げ句、原稿を一枚とばし読みしたから指導役の先輩から大目玉。

 実際やったら一発クビだ!!って、すごかったもんねぇ。先輩。

 「さすがに返す言葉無かったわよ……」

 気分転換に、マックでもどう?

 「うん」

 

 私は期間限定のエビゴマにフィレオ。

 夕ご飯代わりだ。

 美奈子ちゃんはマックのハッピーセット。

 ポテトもらった。

 で、セットの景品は、葉子ちゃんのおみやげにするんだって。

 美奈子ちゃん、お姉さんになったね。

 「相手が誰だか知ってるけど、やっぱりねぇ……」

 へ?

 「う、ううん!こっちの話!」

 ……美奈子ちゃん、ナニか隠してる?

 「か、かくしてないわよぉ!い、イヤねぇ」

 ?


 夜、シャワーを浴びた後、パソコンへ。

 綾乃ちゃんからの入金を確認後、盗聴器のテープを再生。

 美奈子ちゃんの着替えシーンゲットしたけど、全体的には不作。

 南雲先生がアパートから追い出されて、公園で寝泊まりしているって位かな?

 こういう日もあるよね。

 美奈子ちゃんの着替えはデータとして美奈子ちゃんコレクションのフォルダへコピー。

 

 その後、私はコンビニへ明日のご飯を買いに出た。

 ……あれ?

 公園の水飲み場にいるのは―――

 ―――先生?

 ギクッ!

 飛び上がった大きな体は、間違いなく南雲先生だ。

 「お、おぅ!し、信楽じゃないか」

 セリフが棒読みだよ?

 どうしたの?

 「い、いや、ちょっと喉が渇いてな」

 あっ。そうか。

 先生、アパート追い出されたんだよね?

 「な、何故知っている!?」

 いろいろ。

 

 「じ、実はな?ちょっとワケありで」

 えっと、詩乃ちゃんをアパートに連れ込もうとしたけど、酔っぱらった詩乃ちゃんがアパートの入り口で暴れ出して、止めに入った大家さんのヅラひんむいちゃった。で、怒った大家さんに、南雲先生が追い出されたってことだよね?

 「お、お前、どうしてそこまで……」

 内緒。

 ―――ホントは、南雲先生がかなめちゃんに話していたのを盗聴したから。

 いわないけど。

 

 「は、はははっ……」

 力無く笑う先生。

 「どうせ、学校新聞のネタにするんだろ?」

 安心して?返答次第では学校新聞に載せないから。

 「ほ、本当か!?」

 うん。条件さえ飲んでくれれば。

 「条件?」

 あのね?


 

 翌日の朝

 「ほら信楽!起きろ!」

 うーっ。まだ6時だよぉ?

 「6時に起こせっていったのはお前だろうが?」

 そうだっけ。

 

 眠い眼をこすりこすり台所へ来た私の目の前には、2メートルの巨体にエプロンをつけた南雲先生がいた。

 「注文通り、朝飯はつくっておいたぞ?」

 ありがと。

 先生も寝るところが見つかってよかったね。

 「……次をすぐ見つける。そうしたら、すぐに出ていく」

 えーっ!?ここにいなよ。家賃とらないから!

 「ほ、本当か!?」

 うん。先生がいれば、泥棒も押し売りも来ないし。

 何より、ご飯が食べられるから

 「……ったく」

 とにかく、いただきます!!

 

 うん。

 やっぱり朝は和食だよね。

 さて、学校行く準備しなくちゃ。

 あ、今日は歴史があるから―――あれ?

 なんで、このファイルがここにあるの?

 これ、昨日、綾乃ちゃんに渡したファイル。

 

 私は綾乃ちゃんから水瀬君の校内での監視を頼まれている。

 もちろん、ご注進一回で数千円のお小遣いがもらえる。

 で、水瀬君からは、その注進をほのめかすだけで、最低でも綾乃ちゃんからもらえる見込み額の倍の口止め料がもらえる仕組み。

  

 今回、3年の矢部先輩に告られた挙げ句、断り切れずに一回だけの約束でデートした件、調査報告にいろいろ脚色(?をつけたり、想像とことわればそれで済む)をつけた私は、水瀬君に報告を見せ、結果数万円の口止め料を手にしている。

 

 ……まずい。

 処分したつもりのオリジナルが綾乃ちゃんの手に渡ったら―――


 「おい信楽」

 ドアの向こうから南雲先生の声がする。

 「先に行ってるぞ。途中、病院へ見舞いに行く」

 病院?

 「ああ。昨日、また瀬戸が水瀬を殺しかけたんでな」

 

 

 本当に生きた心地がしなかった。

 クライアントとの契約違反どころじゃない。

 水瀬君、怒っているだろうなぁ。

 びくびくしながら教室へ。

 「おはようございます」

 にこやかな顔で声をかけてくれたのは綾乃ちゃんだった。

 

 お、おはよ。

 

 「昨日はありがとうございました」

 

 い、いえ……それで、水瀬君は?


 「はい。病院の集中治療室で反省してもらっています」

 

 ……うわ。

 

 「本当に残念です。もう少しで地獄に堕ちてもらう所でしたのに」

 

 そ、それでいいんだよ。

 

 「そうですか?」

 

 ……はぁ。

 水瀬君のお見舞いに行って、素直に謝ろう。

 

 教訓 情報の管理は正しく行おう!!




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美奈子ちゃんの憂鬱 未亜ちゃんの日記 綿屋伊織 @iori-wataya

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