兄妹で融合転生したら両性具有のボクっ娘だった
藍条森也
第一部 旅立ち篇
一の扉 ボクの名は
ボクは
真人は高校二年生。
美琴は中学三年生。
ふたりは兄妹。
幼くして両親を亡くし、親戚の家で育てられた。両親の残してくれた財産があったので真人の高校入学を期に親戚の家を出た。いまではアパートでふたり暮らし……。
うん。まちがいない。
それであっている。
ボクの記憶はちゃんとしている。でも――。
なんで、ふたり分の記憶があるの?
それに、ここはどこ?
目の前に広がるのは一面の草原。
テレビで見たアフリカのサバンナに似ている気がするけど、どこかちがう。たしかボクは、いや、真人と美琴は通学バスに乗っているところを事故に巻き込まれて……あそこでふたりは死んだ?
だとすると、これって異世界転生?
でも、なんでボクひとりになってるの?
転生した拍子にひとりになった?
だとすると、ボクは誰?
何者?
体を確かめてみると大きさは真人と美琴の中間ぐらい。細いけれど痩せすぎというわけじゃない。近くの川に顔を写してみると真人と美琴、両方の面影が感じられた。
でも、どちらかと言うと、美琴に近い気がする。つまり、女の子っぽい。
胸は女の子らしくしっかりとふくらんでいたけれど、男の象徴もちゃんとある。どうやら、ボクは両性具有らしい。
「……本当に真人と美琴のふたりが一緒になっちゃったの?」
ボクは呟いた。
ふたりの記憶はまちがいなくあるけど『ボクはボク』という意識もちゃんとある。
だったら、ボクは何者?
「そうだ。名前を付けよう」
ボクはそう思いついた。自分が何者かはっきりさせるのにはそれが一番いい。
少し考えてからボクは決めた。
「
二の扉 ボクって強すぎ⁉
強い、
強い、
強い!
なんでボク、こんなに強いの⁉
草原にはクマやライオンみたいな生き物もいたけど、ボクはそのすべてを素手で倒し、狩ることができた。
どうしてこんなに強いの?
たしかに、真人と美琴は強かった。
真人は『妹を守るために』って子供の頃から空手をやっていた。美琴もその影響で空手をはじめた。ふたりとも、いまではフルコンタクト制の空手で全国大会に出るほど強くなっている。
でも!
だからって!
ここまで強いはずがない!
だって、クマより大きい動物の腹を正拳突きでぶち抜き、心臓をつかみ出せちゃうんだよ⁉
そんなこと、人間に出来るわけないじゃない!
でも、ボクは出来てしまう。おまけに――。
倒した動物の皮をバリバリとはいで肉をとり、火で焼いてムシャムシャと食べてしまえる。
なに?
このバーバリアンみたいなたくましさ?
真人も美琴も普通に文明人で、自分で動物をさばいた事なんて一度もないんだよ?
それなのに、ふたりの転生融合者であ(ると思われ)るボクは何の抵抗もなくできてしまう。
そりゃあ、真人はけっこう用心深いというか、『妹を守る』意識が強すぎるというか、災害が起きたときに備えて火のおこし方や、真水の飲み方なんかを学んではいたのだけど、それにしたって自分で動物を殺したことなんてないのに……。
「絶対、おかしいよ。これ……」
三の扉 女神イスの伝説
「いまのお前さんはふたり分の知能、ふたり分の体力、ふたり分の精神力をもっておるんじゃよ」
草原のなかに、まるで小さな島みたいにポツンとあった小さな林。そのなかに建つ一軒家(残念だけど、お菓子の家じゃなかった)。
そこに住んでいた魔法使いのおばあさんはボクにそう言った。
「ふたり分? それってつまり、真人と美琴のふたりが融合しているから?」
「そう言うことじゃな。しかも、単に足し合わされているのではないぞ。掛け合わされているのじゃ。つまり、一〇+一〇=二〇ではなく、一〇×一〇で一〇〇になっているというわけじゃな」
ああ、なるほど。
それであんなに強かったのか。
いきなり異世界に転生しちゃったのに全然、気にしていないのも、生きた動物を殺して、さばいて、ムシャムシャ食べてしまえるのも、ふたり分の精神力が掛け合わさってやたらタフになっているからって言うことなんだ。
「でも、それならどうやったらもとのふたりに戻れるの?」
「無理じゃな」
「無理⁉」
「当たり前じゃろう。お前さんは真人と美琴のふたりが事故で死んだことにより、魂が融合して『真琴』というひとりの人間に生まれ変わった存在。じゃったら、もとのふたりに戻るなんてどだい無理なことじゃ。そこらの人間の魂をふたつに裂いて、別々の人間に仕立て上げるのと同じことじゃからな。できるわけがないわい」
「そ、そんなあ……! 困るよ! 何とかならないの⁉」
「ふむ。そうじゃのう。もしかしたら……」
「なに⁉」
「イスさまのお力なら何とかなるかも知れんな」
「イス? 誰、それ?」
「この世界をしろしめす偉大なる女神さまじゃよ。あの方に願えば叶えてもらえるかも知れん」
「どうすれば叶えてもらえるの⁉」
「はるか絶海の孤島にイスさまを祭る最古の神殿があると言う。その神殿の最奥部にたどり着いたもの前にはイスさまがそのお姿を表し、願いを叶えてくれる……そう言われておるな」
「わかった。ボク、そこに行くよ。その絶海の孤島に。そして、イスさまにもとのふたりに戻してもらう!」
四の扉 このままではいられない!
「イスさまに会いに行くじゃと? 本気か。単なる伝説じゃぞ。それに、絶海の孤島とやらがどこにあるのかも知られておらんのじゃぞ」
「でも、可能性が少しでもあるならボクは行く。行かなくちゃならないんだ」
そう。ボクにはどうしても、もとのふたりに戻る必要があた。
だって、
だって……。
いたたまれないんだよ!
いまのボクは真人と美琴、ふたりの融合した存在。ふたりの記憶も共有している。つまり、真人の妹に見せるわけにはいかない男の面や、美琴の『お兄ちゃん』には知られたくないことも、みんなみんな筒抜けなんだ!
そんなことには耐えられない!
だから、ボクは行く。
女神イスさまのところへ。そして――。
何としてももとのふたりに戻してもらう!
五の扉 ほら、ボクって無双してるから
ボクは潮風の香る港町へとやってきていた。
女神の神殿があるという絶海の孤島に向かうために。
この港で船を手に入れ、旅立つつもりだった。『絶海の孤島』とやらがどこにあるのかわからないけれど海に出さえすればきっと何とかなるだろう。
そんな気がしていた。
気がしていた?
そう。気がしていただけ。
きっと、美琴の性格だろう。
『妹』という守るべき存在をもつ兄の真人とちがって、美琴はとにかく楽天的だったから。ボクは兄妹の融合と言っても見た目は美琴寄り。だからきっと、性格も美琴寄りなんだ。
ところが――。
「船? いまは出せないよ」
それが港の係官の返事。理由を聞くと、
「最近、悪どい海賊が出没していてな。危なくて船を出せないんだ」とのこと。
なるほど。そう言うことか。
ボクは納得した。それなら、ボクの答えはひとつしかない。
「ボクが退治してあげるよ」
「あんたが?」
そう驚く人たちを尻目に僕は自信満々で請け負った。
そう。ボクには自信があった。真人と美琴。ふたりの力が掛け合わされたこの力。この力さえあれば怖いものなんて何もない!
単なるうぬぼれじゃない。ここに来るまでの間、ボクはすでに冒険者として経験を積み、どんな相手にも圧勝してきた。
自信+実績=事実。
そう。兄妹ふたりが転生融合したボクはまさに無敵の存在。海賊なんて敵じゃない!
ごく自然にそう思っていた。それなのに――。
六の扉 惨敗の真琴と謎の少女
ボクはさんざんにぶちのめされて、血みどろの姿で船の看板に這いつくばっていた。
噂の海賊船を見つけるのは簡単だった。と言うか、探す必要さえなかった。噂の海賊船は『怖いものなど何もない!』とばかりに堂々と港町の近くを航行していたから。
ボクは強引に小舟を借りるとひとり、意気揚々と海賊船に乗り込んだ。
そして、海賊の頭に一騎打ちを申し込んだ。海賊の
もちろん、海賊全員を相手にしても勝つ自信はあった。でも、頭ひとりをやっつけることで他の海賊たちをみんな、手下にできるならその方が手っ取り早い。
そう思って。
海賊の頭は意外なぐらいあっさりと承知した。
――バカなやつ。
ボクはそうほくそ笑んだ。でも――。
バカだったのはボクの方だった。
海賊の頭は強かった。
とてつもなく強かった。
ここに来るまでに冒険者としていくつもの仕事をこなし、何体もの怪物や魔物と戦った。そのすべてに圧勝してきた。でも、この海賊の頭はそんな連中とは次元がちがった。正真正銘、規格外の化け物だった。
真人と美琴、ふたりの掛け合わされた力も何の役にも立たない。ボクはあっという間にボコボコにされ、甲板に転がされていた。
「威勢の良い小娘だな。よく見りゃかわいい面構えしてるし。今度はこっちで楽しませてもらうとしようか」
「ヒッ……!」
――
背筋を恐怖が走り抜けた。尻餅をついた格好で後ずさった。
犯られるとなればもちろん、頭ひとりですむはずがない。周りでニヤニヤしながら見ている手下たちの下卑た笑みを見れば、『みんなでヤッてやろう』と思っているのは明らかだった。
――輪姦される!
その恐怖と絶望感にボクはパニックに陥った。
よりによって、こんなやつらにヤラれるなんて。
ボクに男の象徴も付いていることを知ったらやめてくれるだろうか? でも、『男の子でもいい』って言う男は意外と多いって言うし、海賊たちの顔を見ていると『顔がかわいくて、穴さえありゃなんでもいい』とか言い出しそうだし……。
ボクは抵抗する気力も失い、ただただ恐怖に震えていた。
そのとき――。
「やめなさい」
女性の声がした。まだ若い。多分、ボクと同い年ぐらいの女の子の声。声と共に現れたのは長い黒髪と透き通るような白い肌、血のように紅い唇をした気品あふれる少女だった。
どう考えてもこんな粗野で野蛮な海賊船には似つかわしくない。深い森のなかでお付きの女性たちに囲まれ、巫女装束に身を包んで日々、神との交歓に努めている。そんな暮らしこそが似合う女の子だった。
「これ以上の乱暴はわたしが許さない」
女の子は海賊の頭を睨み付けると、まるで命令するように言った。驚いたことに『命令』された海賊の頭は、忌々しそうに舌打ちこそしたものの女の子の言葉に従った。
「おい。その小娘は奴隷として使う。首輪を付けて船倉に放り込んどけ。言っとくが、手出しはするんじゃねえぞ。手出しなんぞしたら……わかってるな?」
頭ににらまれて海賊たちは縮みあがった。そして、ボクはと言えば――。
――助かった。
安堵のあまり、失禁と失神を同時にしていた。
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