トリニティ Rebirth
ヘルニア
第1話
「じゃあ、改めて。君のお名前は?」
薄暗く狭い部屋でグレーの机を挟み、青年は優しく落ち着いた口調で尋ねる。
「、、、二水烈火(にすいれっか)です」
僕の回答に合わせ、部屋の隅にいる女性はペンを走らせる。
「烈火君、変わった名前だね。まあ、僕の方が変わってるけどね」
青年の警察官は警察手帳を見せてきた。
「山田、、、やまだ?」
「僕は山田山田(やまださんた)。よろしくね烈火君」
山田さんは苦笑いしながら続けて言う。
「もう安心していいよ。ここにいるのはみんな君の味方だからね。さっきの乃木(のぎ)さんみたいな、こう、グイグイってくるタイプの人はむしろ珍しいくらいだからね」
ホッとした。正直さっきのような尋問は精神に来るものがある。
「それじゃ、次。事件に気付いたとき状況を教えてくれないか?」
「、、、いつもの通りに家に帰りました。玄関の戸の鍵はいつもは閉まっているのですが、その時は開いてました。不審に思い、扉を開け、家の中に入ると、リビングで血まみれになった両親が、、、」
「ストップ!そこまででいい!!もう十分だ、これ以上君に辛い思いをして欲しくない!」
自分の体がガタガタと震えていた。確かに内心辛いのだろう。だが、両親が死んだことによるあまりのショックで、イマイチ実感できずにいた。
乃木刑事(のぎけいじ)、山田さん、その他何人かの警察官からの事情聴取を受け、僕は警察署を後にした。だが、ここである問題にぶち当たる。これからどこに行けばいい?しばらくは警察の捜査のために家には戻れない。どうすればいいんだ、、、
「おい、二水烈火」
振り返ると、そこにいたのは僕に厳しい尋問をしてきた乃木刑事だった。名前まで刑事だなんて、、、
「げ、、、」
「げ、とは何だ、げ、とは。私はとある提案をしにきたんだ。お前にも悪い話じゃない。行き先に困っているのだろう?だったらうちに来なさい」
「、、、はい?」
「私は年頃の娘と二人暮らしをしていてな。良ければ話し相手にでもなってやってくれ」
、、、僕には選択権がない。どこにも行けないと思っていたのだから、正直ありがたかった。
「、、、分かりました。でも、どうして僕を、、、」
「い、い、か、ら!来るんだ!」
乃木さんは僕の背中を強引に押し、軽自動車に乗り込ませた。
それから30分ほど車に揺さぶられ、一軒家にたどり着く。
「あ、お父さん、お帰り。って、君は、、、まさか、、、」
出迎えたのは1人の少女。顔立ちは整っていて、いかにも美少女といった感じだった。
「彼は今日からうちで暮らすことになった二水烈火。彼女は私の娘の鼎(かなえ)。2人とも仲良くな」
「えー、っと?まあ、いいや、初めまして、烈火!」
「は、はい、、、初めまして、乃木さん」
「もう、堅苦しいなぁ。鼎でいいよ。っていうか烈火っていくつ?」
どうやら鼎さんは僕より一個上のようだ。
「じゃあ、気軽に鼎先輩って呼んでね!これからよろしく!」
その日の夜、僕は何故か空いていた一室を借りて、ベッドで横になっていた。冷静に最近のことを回想してみる。両親は僕を大事に育ててくれた。これまで何不自由なく暮らせていたのは両親のおかげだろう。僕の自慢の家族だ。だが、彼らはもういない。この世から消えてしまった、まるで泡のように。
「う、うう、、、」
ここでようやく実感が湧いてきたのか、涙が溢れてきた。と、ここで部屋をノックする音が聞こえた。
「烈火?入るよ?」
鼎先輩は涙を流す僕を見て、そっと抱きしめてきた。
「何があったのかはお父さんから聞いたよ。でも、今は1人じゃない。私がいるから」
僕はその言葉に安心し、一晩中彼女の胸の中で泣いていた。
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