第十一話 小さな変化

 休みが開けて、学校が何事もなかった様に始まったが、義仁殿下はお休みされていた。世の中的には、信仁殿下達のパーティが襲撃を受け、信仁殿下達数人は何とか逃げ延びたが、華族を含む80人程度人命が被害にあったことが公表された。義仁殿下の婚約者二条涼子さんの死を含めて。

 学院では、その話題で持ちきりであり、新たな婚約者は誰になるのかを含めて、噂が飛び交っていた。直人さんは、義仁殿下に着いて、話し相手として離宮に詰めており、授業も離宮で済ませているとのことだった。

 あと、玲子さん達が引っ越してきた。色々な調整の末週末に全員の引っ越しが終わった。私の気持ちを思ってくれてだろう。

 もう一つ、面倒くさいのが、月曜日のお昼にやってきた。


「咲夜さん。魔導武士科の伊達先輩が。」

「えっ?」


 私が片付けをしている時に、教室の前方から顔を出した。


「はい。」


 私はしぶしぶ廊下に出て、伊達先輩のところに行った。伊達先輩は、上級華族で、剣術部にもおり、女子人気が高い。そんな先輩に呼び出され、必要以上に注目を浴びてしまっている。


「先輩なんでしょうか?」

「あぁ、君を親戚に紹介したいんだ。」


 はい?親戚に紹介って付き合っても無いのに?しかも親戚?私は意味がわからなかった。


「どういうことでしょう?」

「あぁ、君も金曜日の事件知ってるだろ?」


 はい。私も当事者の一人ですから。とは言えないが。


「はい、一応。」


 そう答えると、勝ち誇って様に、鼻を高くした。


「その事件の英雄である僕の伯父が偶々学院に今日来るから紹介したくて。」

「はぁ。私と、先輩関係無いのに?」

「そ、そんな。頼むから。伯父には紹介したい人がいると言ってしまったんだ。」

「え?何で?」


 焦る先輩を、私は全力で拒否した。


「だって、事件の英雄だよ。色々聞けるんだよ。」

「必要ないですから。」


 そう言うと、先輩は声が小さくなっていった。


「君のことを話したら、ちょうど良いからとか言ってたし。」

「うーん。」


 私は、泣きそうに弱くなった先輩に、しょうがないなぁと言う顔をした。


「わかったわ。伊達宗道さんですわね。」

「流石有名人。伯父の名前をよく。」

「で、何時ですの?」

「5時に、第三レストラン天神屋の個室を取っているから。」

「わかりましたわ。」


 そう言うと、生き返った伊達先輩はスキップをして帰っていった。私が教室の私の席に戻ると、クラスメイトの女の子達が寄ってきた。


「伊達先輩と付き合うの?」


 珍しい青髪で、ちぃちゃい水菜漣奈ちゃんの一声だ。今まで話したことはない。


「付き合える訳ないでしょう。」

「何で~。身分違いの恋なんてロマンチックね。」


 当事者じゃなければそう考えるだろう。だが、私の立場上そんなことが許されるわけがなかった。


「よく考えて。身分違いは難しいからロマンチックなの。そもそも私に恋をする余裕なんて無いわよ。」

「余裕なんて無いって何で?」


 漣奈ちゃんだけでなく、みんなが不思議そうな顔で見る。


「私は、大学に上がるのにみんながダンジョンアタックや、魔法実技で稼ぐ点数を、稼げない軍務で稼いで、魔力値点の差もカバーしていかないといけない、相当なアゲインストがあるの。それを学課で差を埋めるのにどんだけ大変か考えればわかるでしょう。」


 そう、大学への進級推薦には、取得した科目の難易度×成績の所謂加算点について上から60科目の合計値、累積取得単位数の合計、魔力値点(魔導科学科卒業生の平均200点)で、加算点の内20科目は魔法実技もしくはダンジョンアタックとなり、ダンジョンアタックは、1階毎の設定で1階潜る毎に難易度1上がる。私は魔法実技もしくはダンジョンアタックは軍務での対応となるが、階級毎に難易度が上がる為、今回の昇進を踏まえても、魔力値点のアゲインストと、軍務と魔法実技・ダンジョンアタックの難易度差を考えれば、点数を稼ぎまくらなければ到底卒業が出来ない。それは、学院のみんなは直ぐに理解した。私が感情的になっていることにびっくりしつつも、誰も反論できない内容であったが、果敢にも?漣奈ちゃんが斜め上の反論をしてくる。


「でも、恋をしないと女の子は、生きていけ無いよ。」

「そんな訳ないでしょ。私には無理なのよ。知ってるでしょう。軍務は長期休みも軍務について年2単位、最大12単位にしかならないのよ。8単位0点、12単位も最低レベルの難易度で、基本的に無理ゲーをやってる様なものなのよ。」


 そう、無理、今の私にはそうとしか考えられなかった。私を捨てた父親に私が華族であり続けることによって復讐し、亡くなった母に顔向けできるように頑張らないといけないの。


「無理じゃないよ。咲夜ちゃん無理し過ぎよ。」

「無理しすぎ?そうかもしれないけど、私はそうしないとダメなのよ。」


 そう言って、私は感情が爆破し涙を浮かべた。そうすると、漣奈ちゃんが急に私の頭を撫でて、


「咲夜ちゃん頑張ってるんだね。」


 そう言って慰めてくれた。みんなが、私を慰めてくれた。その時、みんなと友達になった気がした。




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女子1「漣奈。あなたも悪いわね。」

漣奈「咲夜がいけないのよ。イケメンに好かれて、魔力もない平民なのに生意気よ。」

女子1「漣奈様は、華族だからね。」

漣奈「そうよ。あなたもそうじゃない。智仁殿下に逆らう子は、生きていけないのよ。」

女子1「ああやって、近づいた後どうするの?」

漣奈「まずは、伊達臣人とのうわさを流して、その後、義仁殿下に乗り換えたとのうわさを流すわ。」

女子1「えー?何で?」

漣奈「決まってるじゃない。女の子なんて、玉の輿イケメンと付き合っている子が、より高い玉の輿イケメンに乗り換えたらどう思う?」

女子1「最低だと思って無視するわ。」

漣奈「そうよね。後ろ盾のない、平民の女の子が、この学校のお嬢様達に睨まれたら生きていけると思う。」

女子1「私なら逃げ出すわ。」

漣奈「逃げ出すか、潰れるかやってみましょうね。天神屋にカメラマンを送って。出入りの写真を取らせよう。」

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 天神屋は、老舗の天ぷらやさんで、全席個室の華族御用達のお店。本店は銀座にあり、学院内にも店舗を出していた。入り口で名前を告げると3階の個室に案内された。

「失礼します。」


 私が入ると、宗道さんと、臣人さんが先に来て座っていた。臣人さんはそのままだったが、宗道さんは立ち上がり、頭を下げた。


「先日は、」


 宗道さんが、言い出すと、私は咄嗟に


「いえいえ、あの話は・・・。」

「オーっとすまない。」


 臣人さんがいるのを忘れていた様であったが思い出し、話を制止した。


「まずは、座ってくれ。」

「はい。でも・・・。」

「いいから」


 私は、拒否したが、半ば強引的に上座に座らされた。臣人さんは、上座下座がよくわかってない様だったが、宗道さんはメンツが立たないといった表情で私に無駄に圧力をかけていた。


「伯父上、この人が・・・。」

「咲夜さんだろう。存じ上げている。」


 そう言って、宗道さんは、臣人さんの言葉を制して、頭を再度下げた。


「咲夜さん、臣人が迷惑をかけているようですまない。このバカの言うことは無視してくれ。」

「はい。」


 私が素直に答えてみると、臣人が目をパチクリさせて、宗道さんに食って掛かった


「伯父さん迷惑ってて、」

「事実だろう。言葉遣いが荒れているぞ。迷惑はかけるな以上だ。」

「はい・・・・。」


 宗道さんの威圧に臣人さんが急激に凹んでいた。


「さて、まずは食事でもとろうか。」


 宗道さんがそういうと、食事が運ばれてきた。高級天ぷら料亭だけあって、上品で高価な料理が並んでいた。私達は、隠語を交えながら、現代・近代文学の話で盛り上がったが、臣人さんはついてこれて居なかった。食事が終わり最後に宗道さんが


「今日はありがとう。咲夜さんの様なお嬢さんと食事ができて嬉しかったよ。何かこのバカがやったら言ってくれ。すぐに懲らしめに来るから。」

「お願いします。」


 私は、笑顔で返すと、宗道さんが手紙を差し出してきた。


「これは預かりもので。」


 手紙の後ろには、四条家の家紋がマークされていた。


「ありがとうございます。今日はありがとうございました。」

「気を付けて帰ってくれ。」


 そういって、私は二人と別れた。最後に臣人さんは、宗道さんに首元を掴まれて、動けなくなっていた。部屋に戻ると手紙を開けた。四条家当主四条晴実様からのもので、娘を助けた感謝に始まり、事件の性質上直接感謝に出向ける状況でないことの謝罪、謝礼として、多額の金銭と、1学期終了時に1階級昇進の確定済み推薦、四条家の後見の申し出だった。四条家の当主の言であれば決定事項であり、私の返事を必要とするものではなかったが、感謝と、恵子さんのメッセージを送った。それが今後色々な面倒事の端緒となるのをわからずに。


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臣人「伯父上。」

宗道「何だバカ。」

臣人「バカって。」

宗道「バカだからバカなんだ。お前は昔から。」

臣人「俺の咲夜さんって。」

宗道「お前は知らんでいい。変なことをするな。お前が害虫だと思われれば、五摂家が動いて潰されるぞ。」

臣人「でも、咲夜さんは近衛家とは。」

宗道「だれが五摂家と言った。俺がどこで働いてたか分かっているのか?」

臣人「四条家?」

宗道「そうだ、四条家は、恩義を大事にする。変なことをすれば四条家を敵に回すぞ。俺もお前と、咲夜さんのどちらかを取れと言われたら咲夜さんを取る。それだけの恩を受けたと思ってくれ。」

臣人「それだけの恩って?」

宗道「好奇心は猫を殺すと言う。お前は死なないようにな。」

臣人「伯父上。」

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