第二話 魔導科学科 1-E2

 入学式が終わり、入学生が順番に並んで移動している。


 まずは白い制服、クラスにAが付く学院の花形である魔導武士科。学院でも4クラス160名のトップエリート達。筆記より実技が評価されて、筆記を受けなくても、実技だけで入ることが可能な学科でもある。華族や、エリート家系の者が多い。

 次が、黒の制服、クラスにBが付く魔導師科6クラス240名。学ぶ内容は魔導武士科大きく変わらないが、剣術等の戦闘術の時間が減り、その分魔法の実技が増える。一般的には魔導武士科の下位互換だと思われており、魔導武士科と併願で受けて、魔導師科に来ている者も多い。4年に上がる時に魔導武士クラスが1クラス増えるのと、高校だけの附属校8校にもそれぞれ4クラスある為、転科を目指して死に物狂いで勉強している者が大半だという。

 三番目、青の制服が、クラスにCが付く魔導工学科8クラス320名。所謂技術屋のトップエリート達で、魔導武士科から、実技の大半が減り、魔導工学や、物理、化学、魔法の理論等が追加される。魔導工学世界の魔導技術を牽引する者達を多数排出している。

 四番目、赤い制服が、クラスにDが付く魔導医学科2クラス80名。医師の中でも特別な魔導医師を養成するクラス。魔導武士科から、実技の大半が減り、魔導医学や、生物、魔法の理論等が追加される。

 最後が私がいる緑の制服、クラスにEが付く魔導科学科15クラス600名。魔力の少ない者の中でも勉強が出来る者が入れる学科と言われるが、勉強が出来て魔力が高ければ、他の科に行く為、実際合格する為の偏差値は一番低く、併願の滑り止めとも呼ばれていて、4年に上がる時に転科を目指している者が多い。

 1学年1400人、4校で5200人、帝国臣民約25億人、同学年約5千万人のトップエリート達が集い、大学卒業の時点で、一代爵位を得て、男爵家の者と同等の特権を得ることが出来る。平民は、その為に死にものぐるいで努力し、華族の者は、平民との差を見せつける為に努力を惜しまない。学院に入れない華族の者は、華族の中でも一つ下に見られることが多い。

 また、学院の性質上、帝国軍参謀本部の管轄となり、入学時点で兵役カウントされ、1年生で二等兵に任官され、4年生進級時、卒業時、大学卒業時にそれぞれ1階級昇進任官される。定期昇進の他。顕著な結果を残したり、ダンジョンで一定の成果を出すと昇進する。通常学院卒業時には、魔導武士科の生徒ならダンジョンの成果で3~4階級昇進し軍曹か曹長、大学卒業時には、2~3階級昇進し、准尉~中尉位まで昇進する。制度としては、生活に困らず、勉学に集中する為に設立され、その分バイト等の副業は規制され、授業中にダンジョン探索で得た物は軍の所有となり、実績としてカウントされる。ベーシックインカム制度ができて以降は、帝国魔導大学を卒業する華族やエリートを、一定の地位を約束した上で、軍部もしくはその予備役として確保する目的が主となっている。そんな世界に今日から入り込んだんだが、ダンジョンに潜れない私は、週に1度程度半日軍務につく必要がある。それで、ダンジョン程の実績は難しく、大学卒業できても最低の兵長クラスかな?と思っている。ちなみに、階級は、天皇陛下の総帥、皇太子殿下の大元帥以下、元帥、上級大将、大将、中将、少将、准将、上級大佐、大佐、中佐、少佐、准佐、大尉、中尉、少尉、准尉、上級曹長、曹長、軍曹、伍長、兵長、上等兵、一等兵、二等兵。元帥~二等兵は、23階級ある。



 私は、クラス毎に並んで教室に向かった。教室は、8号館、第二魔導科学科棟の1階の教室だった。教室がある棟は、1号館が、魔導武士科棟、2号館、3号館が魔導師科棟、4号館、5号館が、魔導工学科棟、6号館が魔導医学科棟、7号館、8号館が魔導科学科棟となっており、他に教官室等がある0号館の他、実験棟、実技棟等大小60を超える施設がある。軍事教練の場も多く、寮は別にある。全寮制で、土日は帰宅が、許されている。土日は祖父母の家で、亡くなった母が出来なかった祖父母孝行でもしようと思っている。そんなことを朧げに考えながら、教室に着くと、番号順に後ろからナンバーリングされている席についていった。


「えー。私がこのクラスの担任の、田中花子です。隣の帝国魔導大学で、助教をしています。他の先生方も多くは、帝国魔導大学で、助教や、講師をやりながら、ここで教鞭を取ってます。私の専門は魔法陣学です。こういう言い方をすると申し訳ないですが、魔導科学科の生徒は、学院で実技が最も低い、つまり魔力が弱い生徒が多いので、魔力を使わない魔法陣学はうってつけです。興味があったら、言ってください。えーと、では、成績番号41番から、順番に自己紹介をお願いします。」


 ボサボサな頭で、スラっとした細身の体に、赤いスーツを着込んだ、メガネの先生って感じだった。


「はい、帝立東京第十二小学校から来ました、法林寺謙信です。お寺の次男で、この学院に入れなかっから、お坊さんでした。一生懸命頑張ろうと思います。よろしくお願いします。」


 パチパチパチパチ


 拍手で恥ずかしがっているのは、太っちょ丸顔男子の謙信君、小学校の中でも帝立は、お受験のいるエリート校、その中でも、第一は、上級華族の子弟、第二から第五は、中級、下級華族の宗家、分家の子弟のみが入って、第六から第十は、一代華族の子弟、第十一から第二十は、平民のエリートが入ってくる。ちなみに、私は北京の頃は、北京第一小学校に通っていた。次々とみんな挨拶していくが、ことごとく帝立出身だ、その中でも、島津明奈ちゃんと、藤堂高雄君と、土御門晴明君?は、華族の係累、島津家は、幾つがあるが、最も高くて公爵家、藤堂家は最上位が伯爵家、土御門家は、子爵家の筈。誰も突っこまながったけど、土御門家で晴明って、当主が受け継ぐ名前になっているはず。そんなことを思いながら、私の番が回ってきた。


「はい、次成績番号80番。」

「区立新宿第七小学校から来ました、近衛咲夜です。皆さん帝立卒業なので、緊張しています。よろしくお願いします。」


 私が丁寧にお辞儀をすると、私を馬鹿にするような目で見る子や、珍しい物を見る様な目で見る子等さまざまな反応をみた。そこを、先生が感じていた。


「は~い、みなさん。咲夜さんは、魔力が無いので、実技には参加しません。」


 みんなは、よりぎょっとして目で私を見つめた、先生の真の意図をくみ取ったものは少なかった様だが。


「これを聞いて、みなさんは、咲夜さんを馬鹿にした様に思っているかもしれません。でも、よく考えてください。当学院の入試システムを。筆記は全学科共通問題。1000点満点のテストです。それに学科に応じて実技及び上限のない魔力値の点をプラスして評価されます。魔導武士科、魔導師科は、実技2000点満点+魔力値で基準値が1000点。魔導工学科、魔導医学科は、実技1000点満点+魔力値で基準値が500点。魔導科学科は、実技500点満点+魔力値で基準値が200点です。このクラスの実技平均点が200点、魔力値の平均点が100点です。つまり筆記試験の成績は、みなさんの平均より300点高い結果です。彼女の筆記の成績は学科でトップで、全体でもトップ5に入る点数でした。魔力が無い生徒の入学は22年振り、歴代12人目です。ご存じの通り、当学院は単位制です。必須単位に魔力が必要な実技は無く、学内の成績順は、必要単位数をクリアした生徒の中で科目の難易度×成績、所謂加算点の高い20科目の合計値に年間取得単位数を足したもので決まります。ご存知の通り、この学科だけは、4年生への進級推薦は全員ではなく、上位10クラス分の、大学への進学は上位5クラスです。進級推薦は60科目の加算点と、累積取得単位数の合計、魔力値点となります。進級推薦では、20科目は魔法実技もしくはダンジョンアタックで、咲夜さんはその分軍務につき、その評価で決まります。みなさんは、このクラスにいれば余裕とお思いかもしれませんが、入試とは評価方法が違います。一瞬でも咲夜さんを馬鹿にした目で見た子達は、1年後いや6年後に、咲夜さんに負けないようにね・・・・。」



 と、先生がニヤッと笑った。みんなは、少し怯え、反省した顔をした者も多かった。


「では、各自に寮の鍵を渡していく。まず、法林寺謙信、第十二男子寮409号室。」

「はい。」


 そう言って、次々と呼ばれていく。伝統として、帝立小学校の卒業生は、それぞれの各男子寮、女子寮に入り、帝室は、帝室男子寮、女子寮、その他は、二十一番以降の寮に入る習わしになっている。そのルールでは、私は第二一以降の女子寮の入るはずだった。


「で、最後、近衛咲夜、近衛館だ。」

「へ?近衛館。」


 みんな聞いたことがなく、ポカンとしている。何故私だけ?って思っていると、先生が説明してくれた。


「あぁ、私も今回知ったんだが、学院が出来た約250年前に、五摂家が建てた五摂家の名を冠する寮があったらしいんだ。今回、寮の改装とかがあって、予想より帝立小以外からの入学生が予想外に多く、何人か帝立小以外の卒業生の部屋が足りなくなったんだ。そのことについて、主任教授会で話題になり、どうしようかという話になったらしいんだ。会議の中で、魔導力学の近衛主任教授が、近衛の名を持つ子だったら、近衛館使っても良いんじゃない?となって、勝手に近衛公の了解を取り付けてきたんだ。その後何とか改装が間に合ったんだが、近衛公の手前使わない訳にはいかず、近衛さんには、近衛館を使ってもらうこととなった。250年前の館で使い勝手が悪いかも知れないがすまんな。文句は近衛主任教授に言ってくれ。」

「は、はい。」


 みんなよく理解できていないといった人が多かった。ちなみに五摂家は、鎌倉以後、藤原氏のうちで摂政・関白に任じられる五つの家柄で、近衛・九条・二条・一条・鷹司の五家が当たる。全てに公爵位と、伯爵位以下の複数の爵位を有している。帝国で圧倒的な権力を有する華族五家である。



「一応言っておくが、近衛主任教授は、近衛公の甥にあたる方で、四人おられる近衛公爵代行のお一人でもある。魔導力学の世界的権威で、魔法陣学、魔導化学の専門家でもあられる。普通はアポが取れる人では無いが、今日挨拶に来られるので粗相の無いようにな。寮母さんも、近衛公が手配してくれたらしいから、詳しい話は寮母さんに聞いてくれ。」


 そう言って、寮の鍵と寮への地図を預かった。


「各自学校で預かっている荷物は、寮の部屋に運ばれている。このクラスには、執事、メイドを連れてきた者はいないが、上級貴族に認めている執事や、メイドについては、各寮に既に移動している。執事や、メイドだからと言って、みんな、みなさんより年上で、仕事をしている身だ、失礼の無いようにな・・・・。では、諸連絡だが・・・」


 その後、事務連絡があり解散となった。殆どの生徒は足早に寮に向かった。私も、寮に向かおうと思ったが、通常女子寮がある方向と違い、武道場の隣を通っていく。私が、地図を片手に歩いていると


「「「「「イチ、ニー、サン、ヨン・・・」」」」」


 と、大きな声が聞こえた


「よし、もっと気合を入れろ。そんなんじゃ新入生が入ってこないぞ。」

「「「「「はぃ」」」」」


 剣術部?声が聞こえる方を見ると、目をキラキラさせて武道場の中を見ている女子生徒の山が見えた。


「次、順番に打ち込んで来い。」

「「「「「はぃ」」」」」


 私が、武道場の横を過ぎる頃には、素振りが終わり、打ち込みが始まっていた。私は武道場の中を覗くことなく、一段高い通路を通り過ぎようとすると


「あっ・・・。」

「「「「「キャー」」」」」


 と大きな声、悲鳴が聞こえた。声の方を見ると、女子生徒達の上を木刀が私の方に向かって回転しながら飛んできた。


「えっ。」


 私は、木刀に対して体が勝手に動き、両手でいわゆる「真剣白刃取り」をしてしまった。


「あへ?」


 変な声を出した。私の方を見ていた女子生徒達と、剣術部員達は目が点になっていた。当然である、学院の生徒は、私以外強い魔力を持った生徒が多い。剣術部に入るくらいだから、身体が強化され、普通の中高生の数倍の身体能力を持っていてもおかしくない。そんな生徒が放った打ち込みをはじいて、常人では反応できないレベルのスピードと、回転の木刀を、「真剣白刃取り」でこともなげにとってしまった。ぱっと見、誰が放ったか分からなかったが、恥ずかしくなり、


「木刀ここ置いておきますね。」


 と言い、そそくさと館に走って行ってしまった。



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浅黒いイケメン「あれは、さ、咲夜か・・・?」

キラキライケメン「トモ、知り合いか?」

浅黒いイケメン「そうだな・・・。あいつは、俺の知り合いです。伊達、オロオロするな・・・。あいつならこの程度で怪我等しない。後で話しとくから。」

痩せマッチョイケメン「すみません。」

キラキライケメン「トモ、彼女を剣術部に・・・。」

浅黒いイケメン「嫌がるでしょうね・・・・。」

キラキライケメン「どうして?」

浅黒いイケメン「言えませんけど・・・。」

やんちゃ系イケメン「言えないって、ともっち、そう言って、自分の彼女にしちゃうの?」

浅黒いイケメン「殿下、彼女と付き合うことはないです。」

やんちゃ系イケメン「じゃぁ、今度連れてきてよ。」

浅黒いイケメン「ついてくるかわかりませんが・・・。」

メガネ君「それより、謝りに行かなくて良いのですか?」

浅黒いイケメン「メガネ、大丈夫だ。」

メガネ君「問題になることは。」

浅黒いイケメン「ない。メガネ、させんし。それより伊達、握りをちゃんとしろ。」

痩せマッチョイケメン「すみません。」

パシリ系イケメン「とりあえず、木刀持ってきたっす。」

痩せマッチョイケメン「ありがとう。吉良君。」

パシリ系イケメン「いえいえ。」

キラキライケメン「みなさんおさわがせしました。おい、練習再開するぞ。」

「「「「はぃ」」」」

そう言って、総勢40人の剣術部の練習が再開された。

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