第15話 引っ越し準備

 セイレーンに着いた時には昼を超えていた。工事はこの数日で相当進んでおり、アクア側は、山脈の中に食い込んでいっているのが見えた。もう抜けているのかもしれないなと、朧気に思える位急ピッチで工事が進んでいた。僕は、セイレーンの街に入り、白き薔薇団本部に向かった。本部に入るとすぐにアリシア様の執務室に行った。


 トントントントン


「はーい。」

「アレックスです。戻りました。ご報告を。」

「はーい。入って。」


 そう言われてはいると、アリシア様が、眼鏡をかけて執務を行っていた。美しく色気が増した感じだったが、眼鏡をはずし、立ち上がった。

「無事で何よりですね。座ってください。」

「はい。」


 僕は促さてソファーに座り、アリシア様は、手を二つ叩き、メイドさんにコーヒーをお願いした。

「で、どうでした?帝都は。」

「はい。帝国第二皇子ガイアス殿下と、セイレーン公爵閣下にお会いしました。・・・」


 僕は、帝都での話を説明すると、アリシア様は、目を見開いて、うんうんと頷きながら話を聞いてくれた。

「成果としては最高のものよ・・。ある種の革命に繋がるわ。商人達も、当家とガイアス殿下に頭が上がらなくなるでしょう。アクアとは明日には繋がるかな。一気に進めましょうね。お疲れ様・・・。」

「いや、それだけでなく・・・。」

「何ですか?」

「実は、その後イフリートに行ったのですが・・・。」

 

 僕は、イフリートに行った話を説明すると、アリシア様は、目を見開いて、うんうんと頷きながら話を聞いてくれた。

「そうなの。」

「そうです。悪魔の果実はイフリート第一迷宮で取れます。プチレッドドラゴンから取れるんです。プチレッドドラゴンを倒せる者がどれだけいるかわかりませんが・・・・。」

「そういえば、イフリート最大のクランは、炎王と呼ばれる帝国四剣の一人グレイスタークが率いるジハード。グレイスタークは、特級剣技を使うと言われ、そのパーティーも全て特級クラスのスキルを持っているSランクパーティーがトップパーティーで、Aランクパーティー4、Bランクパーティー12で運用されていると聞いているわ。帝国トップクランの一つで私たちのクランよりも格上よ。そんなクランであれば、ドラゴンも倒せるはずよ。」

「そうですか・・・。Sランクパーティーってどれだけ強いんですか、Eランクの僕には想像できません。」

「知っている通り、パーティーメンバーの平均ランクでパーティーのランクが決まるから、半分以上がSランクってことね。Sランクの基準は、実績の他に特級クラスのスキルか、相当の固有スキルが必要だわ。アレックス君たしか、初級もスキルを持っていないから、1級上がれば約1.5倍の強さになると言われてるのでえーと、スペックが同じなら5倍位かな?まぁ、スペックも違うから相手にならないだろうけど・・・。魔法の級が上がれば威力5倍とどっちが凄いか分からないけど・・・。魔法はその分消費が激しいから・・。どっちもどっちですね・・・・。Aランクは、実績の他に上級クラスのスキルか、相当の固有スキル。Bランクは、実績の他に上級クラスのスキルか中級クラスのスキル二つもしくは、相当の固有スキル。Cランクは、実績の他に中級クラスのスキルか初級クラスのスキル二つもしくは、相当の固有スキル。Dランクは、実績の他に初級クラスのスキルか、相当の固有スキル。そんな感じだったわよね。」

「冒険者学校でも教わりました・・・。」

「まぁ、各スキルを身に着けているだけで全然違うけど・・・・。そのレベルを上げるとより精度、消費が抑えられるから・・・。でも、戦闘技術は、身に着けただけで能力アップだから、技を使わなくても全く異なる次元になるわね・・・。どうせ、上がるまでに、その下の級のレベルを上げて技を使えるから、実感としてそんなに強くなっているイメージにはならないけど・・・。」「アリシア様はどんなスキルを・・・。」

「私?」


 アリシア様は一瞬迷ったが、

「私は、上級回復魔法と、上級水魔法だわ。剣技は初級ですけど・・・。」

「そうですか・・・。」


 僕は迷った・・・。

「これを、一粒ずつ順番に食べて貰えますか?」

「なんなの?」

「中級剣技の種と、上級剣技の種です。」

「えっ・・・。」


 アリシア様は固まってた。最近色々な物が何となく得られる様になったが、上級剣技の種なんてオークションでも数年に一度でるかどうかの代物だ・・・。

「アリシア様・・・。白き薔薇団と、セイレーンの騎士団に100%信頼できる者は何人位いますか?」

「うーん。白き薔薇団で200人、騎士団で400人位ですか・・・。」

「では、その方々にセイレーン公爵家に従属する魔法の誓約書を、期限を切っても構いませんので。その方々に、中級・上級の剣技、弓技、槍技の得意なものと、初級・中級・上級の火魔法を。」

「何・・・。」

「多分、戦闘になります。」

「戦闘?」

「今すぐかわかりませんが、アクアでは、ブラックタイガーが住民を捉え、奴隷化し、悪魔の心臓を集めています。住民をよそから連れてきて、実質支配を目指しています。」

「えっ・・・。」


 僕は、セイレーン公爵閣下達にお話ししたアクアの話をした。アリシア様は、驚き、肩を震わせた・・。

「この後、出来ればある程度の戦力をお貸しください。あれが貫通し次第、アクアを制圧しましょう。」

「わかったわ。騎士団にも要請してみます。」

「僕は、明日、アクアに戻り状況を探ります。」

「明日の夕方には貫通するから、そのタイミングで乗り込みましょう。それまでに準備するわ。」

「ありがとうございます。あと、ハイエルンで・・・・」


 その後、ハイエルンでの話、魔王軍の話をした・・。これもアリシア様は、びっくりしたが、既に呆れ掛けていた。

「破邪の石を300個ほど置いていきます。騎士団にも共有しておいてください。」

「わかりました・・・。うーん。濃密過ぎだわね・・・。」

「ごめんなさい。それと、レッドドラゴンの肝を手に入れました。」

「えっ、ごめんない、まだ全部揃ってないわ。」

「良いんです。これでロッシを助けられます。解体済みレッドドラゴンが大量にあるんですが、残りの部分は・・・。」

「それは、ロードベル様にお渡しください。ドラゴンは破棄するところが無いと言われているので、多分ロードベル様は、隣のあなたのクラン拠点ですぐにでも出られる準備をしているわよ。」

「では、行ってみます。」

「では、あなたが持ってきた色々な事を今日中に片付けるわね。」

「よろしくお願いいたします。あと、これとこれを、アリシア様と、次期公爵様に。一つはハイエルンで貰った最新魔導具です。使い方は、入ってます。私も一台持ってますから、何かあれば。」

「えっ、」


 僕は、アリシア様に色々と渡し、アクアクランの拠点行った。そこには、グランドマイスター様や、そのお弟子さん達が、移動の準備をしていた。

「あっ、小僧戻ったかね。」

「ロードベル様、皆さん。」

「明後日には出るって聞いているから、ほぼ準備は終わったよ。」

「ありがとうございます。ところで・・・。」


 僕は、ロードベル様や、主要なグランドマイスター様達を集めて、アリシア様に話した内容の話せる範囲であらましを説明した。みんな目をパチクリさせたが、

「まぁ、いいんじゃなか、もうすぐブラックタイガーがいなくなって、セイレーンは良くなる。ハイエルンから一流の魔道具師や、エルフ帝国の知識を持った知恵者たちが着て、研究所や学校が出来れば、アクアは帝国、世界最高の都市の一つになるかもしれないじゃないか・・・。儂ら老人たちは、その礎になって、歴史に名を残そうじゃないか・・・。すぐには死なんがな・・・。」

「ありがとうございます。」


 グランドマイスター様達に賛同や共感を得て、説明会を散会させて、ロードベル様にだけ残って貰った。

「どうした、小僧」

「あと、解体済みレッドドラゴンがあるんですが、レッドドラゴンの肝でロッシの薬を作ってもらいたいんですがどうしたら?」

「うーん。預かりたいが、レッドドラゴンでは、」

「マジックゲートの特大と、無限大があるんですが・・・。」

「はぁ~。」


 ロードベル様の顎が外れた・・・。数秒固まったのち、力技でロードベル様が顎を戻し

「すぐ寄越せ・・。マジックバックは私の所でも作れる・・・。特大は私が預かる。歴史に1度だけ出てきたことがあるらしく、レッドドラゴンでも100体くらい入るはずだ。無限大はもう分からん。小僧が持ってろ。口は小さくても吸い込むし、吐き出させられるから・・・。」

「はい。あとフェニックスの羽とか使えます?」

「エリクサーの最も入手困難なアイテムを・・・。」

「あと、ハイエルンで、世界樹の葉を1万枚と、世界樹のしずく1000リットル、世界樹の枝1000本貰ってきたんですけど。」

「世界樹のって、ハイエルフしか取れないと言われているのか・・・。色々な物を作れるぞ。儂に預けてくれるか?」

「ロードベル様には、研究所や、大工房の素材を全て預けておきたいのですが、帝都で片っ端から素材を入手してきましたので、それも含めてマジックバック3つ分のものを・・・。」

「ありがとう。アリシア様が集めているものが揃えばロッシ君の薬が作れるだけじゃない。色々な者たちを助けられるだろう。」


 ロードベル様は、マジックバックを見てほくほくの顔をし、マジックゲートを大量に受け取って、作業に向かった。僕は、拠点に泊まり、朝にロードベル様からマジックバックを受け取り。その中に、色々な素材をこれでもかと入れて、ロードベル様に渡した。その後、ロッシの顔を見に行くと、そこには、スノーさんの妹のマリアさんがいた。

「あっ、アレックスさん。」

「マリアちゃん。どうしたの。」

「お姉ちゃんに頼まれて、毎週見に来ているの。」

「ありがとう。薬の素材は何とかなりそうだから、そこまで掛からず治るはずだから。」

「そうなの・・。良かったわ。」


 マリアちゃんは、とてもいい子だった。

「そうだ。頼みがあるんだけど。」

「なに?」

「ロッシが回復したら、これをロッシに渡してくれ。」

「何が入っているの?」


 マジックバックを渡されたマリアちゃんは、何を渡されたか興味深々だった。

「あぁ、装備や、いろんな種とかだよ。」

「そうなの・・。わかったわ。」

「あと、お父さんにこれを渡してくれ。今後もバックはやり取りに使うけど。中のは売ってアクアクラン分をアクアクランに渡してって伝えて欲しいんだ。」

「良いよ。商売厳しくなっているから、お父さん喜ぶかも。」


 僕は、一瞬ニヤッとした顔をした。

「お兄ちゃん、悪い顔をしてるよ。何が入っているの。」

「うーん。悪い物は無いよ。凄いレアなものだよ。あとお守りに、これを5個づつと、これを1個づつみんなに持たせてね。」

「わかった。ありがとう。」

「じゃあ、そろそろ行かないと。よろしくね。」

「じゃあね。私も帰るわね。」


 僕は、渡しても問題ない素材や、肉の他に、解体済みレッドドラゴンとか、取り扱いに困るものも混ぜて渡した。売らなくても大丈夫だけど、嫌がらせにはちょうどいいだろう。色々買い出しをしてから、街を出てアクアに向かって飛び立った。

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