第11話 セイレーン公爵

「ウッヒョー、すげー」

 帝都に行く途中、セイレーンの近くを通ると、工事が始まっていた。セイレーンから、アクアに真っ直ぐ続き、既にセイレーンから7キロ進んでいる。帝都に側にも10キロ進んでおり、セイレーンの西門の前に、巨大な建物の建設が進んでいる。白い建物から幅約30メートル、片側歩道1レーン、馬車道2レーン、高い壁で囲われたレーンが2レーンの5レーン、合計10レーンが、真っ直ぐに作られている。その壮大さに感動しつつ、セイレーンを抜けて、帝都に向けて真っ直ぐ進んで行った。

 帝都とセイレーンの間は、大半が、山や、森であった。大きな森を抜けた後、ハーリック山脈を縦に抜けて、ベルベル盆地、ここまでがセイレーン領だ。ベルベル盆地には、鉱山都市ベルベルがある。ここには、膨大な資源が埋まっている鉱山が多数あり、別名ドワーフパラダイスと言われ、多くのドワーフが住んでおり、稀代の名工を多く排出している。ベルベル盆地を抜けると、帝国直轄領に入る。セイレーン公爵領と、直轄領の間には関所はおいておらず、空をそのまま駆けて行く。ベルベル盆地を抜けて、ハイマツ山地を抜けると、ハーミットの大森林が大きく横たわって、中央には、巨大な世界樹とそれを囲むように中規模な都市が出来ており、エルフ自治区となっている、ハイエルンだ。ハイエルンは、過去に滅んだエルフ帝国の知識と技師を伝えており、高い技術都市になっているが、迫害を受けた歴史から、帝都から細い林道でしか繋がっていない。巨大な森林には危険な猛獣ご跋扈していることから、人々の交流が少なく、出て行くも、戻るも大変な場所となっている。若者は出ていくが、戻ってこず、人口減少、高齢化が問題になっているらしい。

 ハイエルンを抜けて、ハーミットの大森林を抜けると、バラスの渓谷が横たわっている。渓谷は幅500メートル深さ1キロメートルにおよび、遠くに橋がかかっているのが見える。帝都からハイエルンまで唯一繋がる道で、その弱弱しいつり橋が生命線となっている。

 バラスの渓谷を超えると、帝都の灯りが100キロ先に見える。帝都までは、10キロ程の荒野を抜けた後、40キロ程の平原にぽつぽつ森林が見える。途中街道や小規模の街が見え、帝都の50キロ前には、城塞都市ベルンセイレーンが帝都を守るように鎮座している。ベルセイレーンから、帝都までは、穀倉地帯となっており、村がそこここに点在している。その先に、巨大な帝都が見える。目の前に見えた帝都は、20キロ四方の碁盤目の城砦都市。約4000万人の人が住んでいると言われる世界最大の都市で、真ん中の丘に巨大な宮殿、その周りに豪邸が並んでおり、色々な施設が見えた。街には、5階、6階建ての大きな長屋が並んで、帝都の人々が住んでいる。帝都を眺めながら近づいていくと、目の前に、2騎のドラゴンが飛んできた。

「とまれ、止まらんと攻撃するぞ。」

「すぐに高度を下げるのだ。」


 ドラゴンの正面には帝国の紋章が見えた。多分帝国騎士団で最強師団の一角と言われる帝国竜騎兵団だろう。

「僕は、リーハイム・セイルーン次期公爵の使者で、アレックス・リバース。セイレーン公爵へ伝令として参った。帝室に対抗する意思はない。すぐに着陸する。」

「お主がセイレーン公の、嘘を申すな、とりあえず降りてから尋問を行う。」

「ロギード、お前は勝手に・・・。」

「僕を見て疑うのは分かります。とりあえず降りますが、ですがこの時間に飛んできていること、要は急ぎの使者だということをお考えいただければと存じます。」

「はい。まずおりましょうね。」


 そう言われて、僕達は、帝都の門から約2キロ手前の草原に降りた。

「でだ、お前は何なんだ?」

「先程申し上げた通り、リーハイム・セイルーン次期公爵の使者で、アレックス・リバース。セイレーン公爵へ伝令として参りました。この通り、グリフォンを召喚獣として持っているので。」


 そう言って、僕は、グリフォンを戻した。召喚獣には、所謂体力は無い。無いというのは、弱いのでなく、概念としてなく、永遠と飛び続けられるのだ。そんな騎獣を召喚獣として持つことは、極めて高い価値を持っている。騎乗できる空飛ぶ召喚獣は基本的に、3種類しかない。ペガサス、グリフォン、ドラゴンだ。ドラゴンの中でも、飛ぶドラゴンと飛ばないドラゴンがいて、飛ぶドラゴン系の召喚獣はレベルが高い。ペガサスは、レア度が高く、グリフォンもレベル高めなので、召喚獣として手に入れるのは、相当難しい。帝国竜騎兵団のドラゴンは、召喚獣でなく、地上のドラゴン飼いならして、使える様にしている。

「ロギード、これは・・・。」

「バクシン、流石にこれはないわ。」

「ご理解頂けたでしょうか。私は、リーハイム・セイルーン次期公爵の娘であるアリア・セイルーン公女をオーナーとする冒険者クランのクラン長代理をしております。言い方悪いですが、公爵家での私の扱いはアリア・セイルーン公女付きみたいなものです。アリア・セイルーン公女は、帝都に留学しておりますが、私は、公爵領で潰さない程度にクラン運営等をやりながら、次期公爵の指示で雑用係ですよ。その関係で、セイレーン公爵宛の使者として飛んできた次第です。この通りギルド証です。」

「あぁ・・・」


 ロギードさんと、バクシンさんは、哀れ見るような目で、私を見てギルド証を確認した。アクアのクラン長代理を示すものだ。

「確かに・・・。この歳で大変だな・・・。」

「一応、書状を確認させてくれ。開封できないのは分かっているが、」

「わかりました。」


 私は、書状を見せると、2人は、ライトの魔法で明るくし封緘を確認していた。

「良いだろう。確認した。私は、帝国竜騎兵団帝都防衛大隊ロギード・アズラエル中佐だ。」

「僕は、同じくバクシン・ケンウッド中佐だよ。よろしく。」

「よろしくお願いいたします。」

「よし、急いでるんだろう。セイレーン公爵邸まで案内するよ。ロギードいいかい?」

「あぁ、こっちの警備はやっておく、直ぐに戻って来いよ。」

「では行こうか。乗ってくれ。はい手紙。」


 バクシンさんは、僕に手紙を返して、ドラゴンの背に載せてくれた。

「ちゃんとつかんでいてね。」

「よろしくお願いいたします。」


 僕は、バクシンさんにつかまり、空を飛んで帝都に入った。深夜の帝都では、そこここで、灯りが付いていて不夜城の様な場所がいくつもある。帝都の上空を何頭もの竜騎兵が飛んでおり、バクシンさんはすれ違うたびに挨拶をしていた。バクシンさんは2分程で、帝都の丘の手前の広場に下りた。

「アレックス、降りてくれ、ここからは、馬車で向かう。」

「はっ、はい。」

「ここは、竜騎兵団の着陸場だよ。セイレーン公爵邸まで10分でつく、あの馬車に頼めば連れて行ってくれるだろう。竜騎兵団の馬車だから、料金は不要だ、君を降ろしたら、帰ってくる。大丈夫か?」

「はいありがとうございます。」

「ではな。」


 そう言うとバクシンさんは、空に飛んでいった。僕は、馬車の御者さんにお願いし、セイレーン公爵邸に向かった。帝都の丘の豪邸街は、巨大な邸宅が並び、とりわけ大きな邸宅がセイレーン公爵邸らしい。僕は、邸宅の前で降ろされ、セイレーン公爵邸の門番さんに話しかけた。

「あの・・・。リーハイム・セイルーン次期公爵の使者で、アレックス・リバース。セイレーン公爵へ伝令として参りました。」

「リーハイム・セイルーン次期公爵閣下の使者だと・・・。リバース、リバース卿のご子息か・・。」

「はい。ローワン、執事をだれか連れてきてくれ。」

「はい。」


 門番さんは、別の門番さんに指示をし、人を呼びに行かせた。

「アレックス君だね。使者としての証はあるかい?」

「はい、これを。」


 僕は手紙を見せると。門番さんは、ライトで明るくし、封緘を確認していた。

「多分大丈夫だろう。武器を預かるが」

「はい。お願いします。」


 僕は、武器を預けると、門番さんは、武器を確認して、

「良い武器だな。流石アクアのギルド長代理だ。」

「えっ?」

「お嬢様が、言っていたのを聞いた。リバース卿のご子息をギルド長代理にしたと。」

「そうですか。」

「申し訳ないが仕事だ。武器は出る時に返そう。」

「ありがとうございます。」


 そんな話をしていると、執事さんらしい方が出てきた。

「坊ちゃまからの使者だと。」

「間違いないだろう。封緘も本物だ。」

「わかりました。こちらへお越しください。私はセバスチャン・ビリーズです。公爵の元にお連れします。」

「よろしくお願いいたします。」


 僕は、セバスチャンさんの後ろについて、邸宅に入っていった。邸宅は4階建てで、巨大な玄関から入ると、大きな広間が広がっており、巨大な階段が鎮座している。セバスチャンは、その巨大な階段を上っていき、3階に上がり、奥の方の部屋に連れて行ってくれた。


 トントントントン


 セバスチャンが止まり、扉を四回たたくと。

「入り給え。」


 その声を受け、扉をあけると、白髪、白い長髭を垂らした筋骨隆々の壮年の方が座っており、奥にワイングラスを持った二十歳位のイケメンが立っていた。

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