第11話 罠

ドンドンドン


 昨日は、部屋に戻り倒れる様に寝て、装備を外しただけの格好だ。


ドンドンドン


 ドアを叩く音は鳴り止まないので、しょうがなく起きることにした。


「はーい。」


 返事をしてカーテンをさっと開けると、日が出たばかり、6時頃だろうか。


ドンドンドン


 まだ、ドアを叩く音が聞こえる。返事をしてるのに何か焦っているのかな?


「はい。」


 と、ドアを開けると、ロッシが入ってきた。


「昨日何してたんだ?」

「は?藪から棒に。トレーニングで、迷宮に入ったら遅くなったんだよ。昨日の事があったから、下の階まで潜って来たんだけど、まだ、1000以上の討伐数確保してるから問題無いよな。」

「はぁ?勝手に。」

「どっちがだよ。」


 そう睨み合うと、


「で、朝から何しに来たんだよ。」

「そうだな、あの件は悪かったよ。それで心を入れ替えて、トレーニングしようと思うんだけど、今から、第1迷宮に行かないか?」

「は?どうした?」

「単に、図に乗った自分を反省して、鍛え直そうと思ってさ。悪かったな。」

「いや、僕も悪かったよ。」

「今から行こうぜ、良いエリア先輩に教わったんだ。急がないこと取られちゃうよ。」

「そうか、焦らせんなよ。」


 僕はその時、単にロッシが元に戻ったのかと思った。



 第1迷宮。ここセイレーン最後にして最大の巨大迷宮。規模は南部最大と言われ、最深部がどこまでか分かっていない。



「はーい。冒険者学校の生徒は1階までしか潜れません。もし潜ったことがわかった場合、成果からお一人様あたり200体分マイナスさせていただきますのでご留意ください。入場料は、お一人様20ゴールド合計40ゴールドになります。注意してお入りください。」


 と、受付の方の説明を受け僕がまとめて40ゴールドを渡した。


 僕はロッシについて、ロッシの言うエリアに向かった。途中、コボルト、狼、大ガエル等今まで戦ったことのないモンスターと戦った。この迷宮の特徴は、偏りなく幅広い種類のモンスターが出てきくることだが、その為、攻略には色々な対策が必要となり、攻略が進まない要因となっている。


「あとすこしのはずだ。」

「そうか。」


 30分程歩いて、だだっ広い広間に出た。流石に昨日の疲れが出てきている。うし吉に癒されたい気分だ。


「ここのはずだ。」

「ここで何が出来るんだ。」


 僕がそう聞くと、遠くの方から声が聞こえてきた。


「それはな、俺たちが鍛えてやるんだよ。」


 出て来たのは、20歳程度の冒険者3人だ。


「どう言うことだ、ロッシ。」

「いや、昨日断りに行ったら、ボコボコにされて、お前を連れてこい。直接説得するからと。」

「えっ、こんなところで、説得も何もないだろう。」

「でも、サリークスさんが、」


 近づいて来たつるっ禿げの男が


「お前がアレックスか。とりあえず、書類にサインしろや。」

「は?書類にサイン。何の書類かわからないのにサインって何なんだ。」

「お前達ガキは、大人の言う通りにしてれば良いんだよ。」


 と、殴り掛かってきた。僕は咄嗟に盾で防ぐと、ボキって音が鳴り。


「いてー。ぜってー折れたよ。」

「大丈夫か?ひでー。」

「これは、絶対折れてるよ。粉砕骨折だよ。」


 と、芝居がかった演技で後の2人が殴ってきた男に集まった。


「これは慰謝料高いよな~。

「治療に上級ポーションが必要だよな。」

「一月掛かるとして、俺の1日の稼ぎは500ゴールド位だから、治療費込みで3万ゴールドかかるよ。」

「アレックスって言ったっけ、今すぐ払えやコラッ、まぁ、うちのクランに入れば許してやるが、」


 隣を見ると、ロッシが、


「アレックス~契約~。」

って怯えてきっていた。僕も大人に対して凄く怖かった。でも、ここは勇気だ。僕を信じてくれたスノーさんを信じて、震える声を抑えた。


「あの、サリークスさんでしたっけ。」

「なんじゃ~」


 ここですごむって痛く無いのかな?勇気を出したら、すーっと恐怖が消えていった。


「下手な演技辞めなさいよ。そもそも、殴り掛かってきて、防がれて慰謝料って、そんな雑魚の詐欺師が、ブラックタイガーの構成員なの?ブラックタイガーの名が廃るんじゃない?」

「あん。ブラックタイガー舐めとんか?」

「ブラックタイガー舐めてるのは貴方でしょう。ブラックタイガーの構成員が、冒険者学校の小僧に殴り掛かって、盾で防がれて、全治1ヶ月の粉砕骨折って、そんな噂流したら、サリークスさんが、ブラックタイガーから、殺されないの?」

「は?」

「では、ブラックタイガーの本部に行ったら、5万ゴールド払うから、一緒にブラックタイガー本部に行きましょうか?5万ゴールドは、魔石払いで良いよね。」

「うぬぬ。馬鹿にしてんのか。」


 と、再び、僕に殴り掛かってきた。スピードや、力があっても、冷静さを欠いた攻撃は、冒険者同士では当たるものも当たらない。僕は右ストレートを右手で右側に弾き、背後を見せたところで、首筋に手刀を浴びせた。訓練を受けた冒険者には、基本的技術だが、7割以上の冒険者は、18歳以上で学校に行くことなく登録出来るため、学校に通っておらず、他で訓練を受けている者を除き、冒険者の半分は基礎訓練を受けていない。サリークスさんは、余りにも基礎がなっていないので、多分その類だろう。


「アレックス~」


 僕がサリークスさんを倒している間に、ロッシが男たちに羽交い締めになっていた。


「サリークスを殺したな、絶対に許せねえ。」

「サリークスさんは、気を失っただけで、」

「黙れ、絶対に許せねえ。まず、サリークスから離れろ」


 2人とも混乱して、何も聞かないので、サリークスさんから、距離を取った。


「はーはっはっは。お前ら死にやがれ。」


 そう言うと、男は、ロッシの羽交い締めを解き、背中を蹴って僕の方に寄越した。背中を蹴った瞬間にもう1人の男が力任せに、ロッシの右腕を肩から剣で切り裂いた。ロッシから、血が飛び出し、滝の様に流れながら、僕の方によろけて僕が抱き抱えた。

 その瞬間、羽交い締めしていた男が、僕に石を投げつけてきた。昨日のあの石だ。僕とロッシは、光に包まれた。ロッシの右腕を残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る