悠久のアイ
藤吉郎
1 卵
覆い被さってこようかと言うほどの、草一つ生えていないゴツゴツとした岸壁のその麓に、小さな亀裂があった。高さは二メートルほど、人が一人通れるくらいの幅の割れ目の奥は真っ暗で、その造形からは、人の手が加えられたという形跡は見られない。たまたま、ヒビが小さく上下に入っただけの、ただの自然現象のようだ。
「この先で見つけたって?」
五十路を迎えた男性が、腰を折って屈み込み、亀裂を覗き込んで言った。その目には、少年のそれにも似た好奇心が浮かんでいる。
「近所の子供がたまたま入り込んで見つけたそうだ」
チコが答えた。彼は男性の後ろで腕を組み、やはり亀裂を眺めている。
「子供というのは好奇心の塊だからな」
別の男が、男性の後ろから穴を覗き込んで言った。彼はちらっと男性を見遣って続けた。
「今のお前と同じだな」
男性は振り向いて、怪訝な顔を向ける。
「考古学者なら当然だ。科学者には、こう言うのは興味がないか?」
「いや」
科学者は首を振り、割れ目の奥に目を向ける。
「わくわくしてるよ」
クスクスと、後ろで笑う声がして、二人は振り向いた。カズトが可笑しげに笑っていた。
「なにが面白い?」
考古学者は眉をひそめた。
「ヨーセフさんも、グレゴリーさんも僕と同じだと思って。実は、昨日の夜は興奮して眠れなかったんです」
二人は表情をほころばせて、互いの顔を見合った。グレゴリーが言った。
「気持ちはわかるぞ。私も、学会で初めて研究成果を発表するとなったとき、その前夜はなかなか寝付けなかったのを覚えている」
ヨーセフが同意する。
「そうそう。私も初めて古代の遺跡を発見したときは、その夜は眠れなくて大変だった」
二人は昔を懐かしむように、遠くを見つめて思いを巡らせた。
チコが咳払いをして割って入る。
「思い出話はそのくらいでいいかな? 他の連中が嗅ぎつける前に、仕事を済ませてしまいたいんだ」
「おお、もちろんだとも」
二人は同時に言って、脇へと退いて道を空けた。
クスクスと笑い声の上がる中、チコは進み出て、カズトの頭に手を置いて言った。
「お前は俺たちの後についてこい。中は暗いから、足下には気をつけろよ」
「はい」
カズトはチコを見上げて頷いた。
「よし。では行くぞ」
チコは懐中電灯のスイッチを入れて、内部を照らして様子を窺ってから、中へと入っていった。仲間があとに続いて、同じように次々と亀裂に吸い込まれていく。そしていよいよカズトの番となった。彼は懐中電灯の光を割れ目へと向けた。先は真っ暗で、ゴツゴツとした岩肌が見えるだけだ。少し怖い気もするが、それを好奇心が上回っている。カズトは唇をペロリと舐めると、割れ目の中に足を踏み入れた。
割れ目は蛇みたいにくねくねと奥深くまで続いていて、登ったり下ったり、そして時折、体を横にしないと進めないような所もあって、それは、何年か前に物語で読んだ、地底世界へと続く洞穴の様子にも似ていた。その暗がりの中、懐中電灯のか細い光を頼りに進むのは、言い知れぬ怖さがあって、先へと進んだらもう戻ってこれそうにもないような緊張感があった。近所の子供が、たまたま見つけたと言うが、懐中電灯など持っていなかっただろうから、前も後ろもわからないような真っ暗な中を、一人で進んでいったというのだからその勇気には目を見張るものがある。
そうして、亀裂の道を進むこと数分、ようやく終わりが見えてきた。割れ目を抜けたその先には、残念ながら、地底世界などはなかったが、地下深くにある、鍾乳洞のような広大な空間が広がっていた。懐中電灯を上に向けると、光がすうっと吸い込まれていき、その小さな丸い光の円が、無数の、つららのような岩の造形物を浮かび上がらせた。そこからポタポタと水が滴り落ちて、小さな水たまりをそこここに作っている。その水たまりが広がる床は、平らに整地され、タイルが綺麗に敷き詰められていた。この空間自体は自然物のようだが、床は意図的に整備された人工物のようだった。
「いったい、ここはなんなんだ?」
仲間の一人が、懐中電灯を上下左右に忙しく振り回しながら言った。無数のスポットライトのような光がそれに続いて、内部の様子を明らかにしていく。
チコが、ぐるりと辺りを見回しながら答えた。
「この洞穴自体は自然にできた物のようだが、床は綺麗に整備されているから、人の手が加えられているのは間違いない。あちこちにテーブルとか、何かの装置のような物も置かれている。何かの施設のようだな。もしかしたら、軍の基地だったのかもしれない」
「こんな所に?」
男は目を丸くして、呟くように続けた。
「それにしたって、大分古そうだが……」
少し離れたところから、別の仲間の呼ぶ声がした。
「チコ。こっちへ来てくれ」
その声は反響して響き、岸壁に染みこんで消えた。
「どうした?」
チコが呼ばれた方へと歩いて行く。
「これを見てくれ」
男はそう言って、懐中電灯の光をその場所に向けた。
チコはその場所を見下ろした。四角い、赤いランプのようなものが、ゆっくりと点滅していた。チコは懐中電灯の光を、その周辺を舐めるように這わせた。いくつかの色で区分けされた格子状のパネルがあって、点滅していたのはその一部だ。
男は訝しげな顔つきで言った。
「何だと思う?」
「なにかな。何か書いてあるようだが……読めないな」
彼はその場所を食い入るように見つめてから、振り向いて専門家を呼んだ。
「ヨーセフ、グレゴリー。来てくれ」
暫くして二人はやってきた。
「何か見つけたか?」
ヨーセフが、期待を込めた声で言った。
「そこに何か書いてあるようなんだが、わかるか?」
「どれどれ」
ヨーセフは覗き込んで、それをじっと見つめて続けた。
「なるほど。浮島で使われている文字と似ているな。だが、なにが書いてあるかまではわからん。少し時間をくれれば、なにかわかるかもしれん」
「残念ながらその時間はない。必要なら画像に残してくれ」
ヨーセフは頷いて、荷物から小型のカメラを取り出す。
「そこだけ電力が通じてるいるという事は、何かのスイッチではないのか?」
グレゴリーが言った。
「そうかもしれん」
ヨーセフは、パシャリと写真を撮りながら同意した。そして、角度を変えつつ何枚か撮影していった。
「いずれにしても、眺めていたところでなにもわからん」
「なら、押してみるしかなさそうだな」
グレゴリーは目を輝かせた。科学者としての好奇心が鎌首をもたげたようだ。
「何が起きるかわからないのに?」
男は顔をしかめて懸念を示した。
「わからないなら試すしかない。科学とはそういうものだ」
「これは科学とは違いますがね」
男は呆れ顔で言った。
「まあ、グレゴリーの言う通りではあるな」
チコは同意を示した。
「これまでだって、こういうことは何度もあった。押してみろ」
男は肩をすくめた。
「まあそれはそうだけどね……。ただ、今度のはなんとなく妙な感じがするんだ。これまでとは違う感じがね。でもまあ、チコが押せって言うんならそうするさ」
彼は赤く点滅するパネルにタッチした。するとパネルは、ハチドリの羽ばたきのようなスピードで点滅を繰り返した。彼は、悪い予感が当たったのだと、そう思って後悔した。
「やっぱり……まずかったんじゃないのか?」
彼はパグのように顔をしかめて、誰にともなく問いかけた。
その問いに答える者はなく、というより誰も答えを持っていなかったわけだが、ほどなく、点滅は秒を数えるほどの速度になったのち、点灯に変わって、色も赤から青に変化した。すると、照明灯が次々に点灯して、空間内を明るく照らした。皆、眩しさに目を細めて、それに慣れると目を開けて、辺りをぐるりと見回した。
そこには整然と並ぶテーブルと、その向こうには、なにかの装置のようなものが、やはり列をなして並んでいた。
「こりゃ、いったいなんだ?」
誰かの声が言った。
その声を受けて、チコは隣の人物に問いかけた。
「なんだと思う?」
「そうだな……」
グレゴリーは応じて、ぐるりと見回して続けた。
「おそらくは、なにかの研究施設、と言うところだろう」
「だとすると、金目の物はなさそうだな」
男は言って、残念そうにため息を漏らした。
「そうでもないさ。私にとっては宝の山だ」
グレゴリーは目を輝かせた。
男はやれやれと首を振る。
「ともかくだ」
チコは言った。
「苦労してここまで来たんだ。なにか金になりそうな物がないか、辺りを捜してみよう」
船長の号令を受けて、面々は散らばってあちこちを調べて回った。彼らは、引き出しを空けたり、物をひっくり返すなどして捜した。
ほとんどの者は、何も見つからないと思っているだろう。しかし、ヨーセフとグレゴリーの見方は違った。彼らは、学者として、こうした遺物を専門的立場から調査するために乗船している。だから二人にとっては、まさに宝の宝庫だった。故にその顔に、嬉々とした色が浮かぶのも当然のことであった。
結局の所、男の言った通り、宝石とか黄金とか何かの像とか、金目の物はなにも見つからなかった。
「外れだな」
ため息交じりに男は言った。もちろん、世界中の遺跡という遺跡の全てで、宝を見事に探り当てる事ができるわけではない。が、それでも、苦労に見合うだけのものはあって欲しいと思っていたから、なにも無いというのは本当に残念だった。
「まあ仕方が無い。こういうこともたまにはある」
チコは言って肩をすくめた。そして、引き上げるか、と考えたそのとき、少年が声を上げた。
「こっちにドアみたいのがあります」
ヨーセフとグレゴリーは、うんともすんとも言わない装置を見つめて顔をしかめていたが、その声にむっくと顔を上げると、らんらんと目を輝かせた。
「ドアだって?」
チコがやってきて言った。他の面々もぞろぞろと集まってくる。
「これです」
カズトは言って、腕を伸ばしてその場所を指し示した。
「ドアですよね?」
取っ手は見当たらないが、長方形に落ち窪んだそれは、彼の見立て通り、ドアの形をしていた。
「どれどれ、見せてくれ」
ヨーセフが、人波を掻き分けてやってきた。彼はその四角の縁に沿ってぐるりと見回してから、ドアの一部を手で押した。すると、微かにカタカタと音がした。
「ふむ。確かにそうかもしれん」
彼は言って、ドアを囲む周囲の壁に、ゆっくりと慎重に、視線を這わせた。そしてある一点で目をとめた。四角い何かが盛り上がっている。彼はその部分を手で撫でて、息を吹きかけて埃を払い落とした。小さなパネルのような物が現れた。
「それは?」
チコが覗き込んで聞いた。
「これがドアだとするなら、それを開けるためのものだろう」
ヨーセフは答えて、パネルを押してみた。しかし、何の反応もなかった。
「だめだな。壊れているのかもしれん」
「そういう事なら私に任せてもらおう」
グレゴリーが対応を買って出る。
ヨーセフは脇へと退いて釘を刺した。
「壊すなよ」
「誰に言ってる? そんなヘマはせんよ」
グレゴリーは答えて、指先でパネルの状態を確かめたのち言った。
「ナイフを貸してくれ」
どこからともなくナイフが差し出されて、グレゴリーはそれを受け取ると、指先でパネルの様子を確かめてから、壁との隙間にナイフの先端をぐりぐりと押し込んだ。サメの刃のように鋭い切っ先は、身をよじるようにして数ミリほど侵入していく。そして、ある程度入ったところで、グレゴリーはゆっくりとナイフを捻った。すると、パキッと音がして、パネルを覆っていたカバーが外れて、内部の様子があらわになった。グレゴリーは、細長い目を丸く見開いて、それを食い入るように見つめた。未来世界を思わせる、不思議な様子のそれは、ぼんやりと光を放っていて、二ミリほどの太さのケーブルのような物を、光の粒が行き来していた。
「こりゃ、いったいなんだ?」
チコは驚愕の表情を浮かべて、科学者の横顔を覗き見るようにして尋ねた。
「見たことあるか?」
「いや、ないな」
グレゴリーはゆっくりと首を振る。
「私もだ」
ヨーセフは同意して続けた。
「歴史には詳しいつもりだが、私の知る限り、どんな文献にも載っていないし、聞いたこともない」
「とすると、未知の文明が残したもの、ってことか?」
「ないとは言い切れんな」
「だとしたら大発見じゃないか!」
後ろから男が覗き込んで興奮気味に言った。文明の痕跡の発見は、遺物の回収以上に価値があり、大変に名誉なことだ。そして、トレジャーハンターとしても、大きな儲けを得るチャンスでもある。
「かもしれん」
「宇宙人が造った、ということもあるぞ」
水を差すつもりか、それとも意地悪か、グレゴリーが言った。
「宇宙人?」
ヨーセフは怪訝な目を向けて続けた。
「科学者の言葉とは思えんな」
「科学的にその存在を証明できてないと言うだけのことだ。証明できないなら、否定することだってできないはずだ」
「それはそうだが。しかし、仮にこれが本当に宇宙人が造ったんだとして、何のためにわざわざ空の上からやってきて、これを造ったんだ」
「さあ。それはわからんな」
グレゴリーは肩を竦めて続ける。
「もしかすると、私たちを滅ぼすつもりだったのかもしれん」
「荒唐無稽な話だな」
ヨーセフはやれやれと首を振って、うなじを掻いた。
「どちらにしても、興味深いことではある」
ヨーセフは頷いた。考古学者としても、未知の物に触れることは、この上ない喜びであるのだろう。
チコは本題へと戻る。
「それで、ドアは開くのか? のんびりはしてられないぞ」
「わかっている。まあ、そう急くな」
グレゴリーは諭すように言って、ナイフの先でケーブルを脇に退けるなどして、パネルの内部深くへと目を向けた。そうして十分に観察して、やがて肩越しに手を差し出して言った。
「よし。ニッパーをくれ」
にゅっとニッパーが出てきて、グレゴリーはそれを受け取ると、ケーブルの一つをつまみ上げて挟み込んだ。
「そんなことして大丈夫なのか?」
チコが不安そうに確かめた。
グレゴリーは振り向いて、キョトンとした顔で言った。
「そんなものは誰にもわからん。一か八かやってみるしかなかろう。まあ、爆発するわけではないだろうから、心配するな」
仲間達が、おいおい、という顔で見合う中、チコが肩をすくめると、グレゴリーはパネルに向き合い、迷いを見せることもなく、パチンとケーブルを切断した。結果、なにも起きなかった。彼は、暫し思案して、更に別のケーブルを選別して、やはりそれを切断した。しかし、なにも起きなかった。やや諦めムードが漂い始めた中、グレゴリーは、あれこれと迷って、これでだめならばと、覚悟を決めて選んだケーブルを、ニッパーで挟み込んだ。そして祈るように、一呼吸おいてから、パチン、とケーブルを切った。すると、ガタン、と音がして、ドアがゆっくりと開き始めた。
「おお!」
グレゴリーは、安堵の息とともに感嘆の声を上げた。他の面々も口々に賞賛の声を上げる。が、ドアは十センチほど開いたところで止まってしまった。
「なんだ? 開かないぞ」
ヨーセフが眉をひそめて言った。
「なにかが中でつっかえているのかもしれん」
グレゴリーは顔をしかめた。
「よし。手を貸せ」
チコが号令をかける。仲間が数名集まって、ドアの縁に手を掛けて力任せに引いた。すると、初めこそ、ドアはうんともすんとも言わなかったが、せーのと彼らが声を合わせると、ずずっ、ずずっとドアが開いて、最後には完全に口を開けた。
ドアが開くと、自動的に照明が点灯して、内部を明るく照らした。室内は全てが白で統一されており、床や壁はつるつると鏡のように光を反射していた。
「他とは随分と様子が違うな」
ヨーセフは注意深く、辺りをぐるりと見回しながら中へと入った。彼は部屋の左手にある、テーブルの上を指で撫でると、その指先を見つめ、こすり合わせて言った。
「どうやらこの部屋にだけ電源が供給されていたようだ。換気がしっかりとされていたらしく、その証拠に埃一つない。しっかりと環境が維持されているようだ」
彼はそこでテーブルへと視線を落とす。
「そこのパネルを見てもわかる」
ヨーセフの言う通り、デスク上のパネルが、様々な色を点灯させて明るく光っていた。
「入っても問題なさそうか?」
チコが部屋の外から覗き込んで、伺いを立てた。
「何かあるならとうに起きてるだろう」
ヨーセフは振り向いて、眉間にしわを寄せた。
「さっさと入ってこい」
チコは肩をすくめて足を踏み入れた。他の傍観者達もぞろぞろとあとに続く。
「それで、ここはなにをする部屋なんだ?」
仲間の一人が辺りを見回しながら、怪訝な顔で聞いた。
「さてな。想像もつかん」
ヨーセフはパネルを見つめて、ため息交じりに答えた。
部屋の奥から、シャッとカーテンを引く音が聞こえて、続いてカズトの声が叫んだ。
「これ! 見てください!」
そこには幅が一・五メートルほど、高さが三メートルほどの、卵形の物体があった。物体は円形の台座に乗せられていて、その台座から幾本ものケーブルが伸びて、近くの装置と繋がっていた。
「こりゃ、いったい何だ?」
仲間の男は物体を見上げて、目をまん丸と見開いた。
彼が手を伸ばしてそれに触れようとすると、グレゴリーの鋭い声がそれを制した。
「触るな!」
男は慌てて手を引っ込めて振り向いた。
「得体の知れない物に、軽々しく触れるのは賢明とは言えんぞ」
グレゴリーは、物体の方へと歩いていきながら言った。
「けど、こいつ、妙に暖かいぞ」
たしかに、手を近づけるとほのかに熱を感じる。孵化させようと温められているのだろうか。
「ふむ」
グレゴリーは唸って腰を下ろし、台座をじっと吟味してから、そこから伸びるケーブルを目で追った。彼は立ち上がり、装置まで歩いて行ってそれを見下ろした。パネルのランプが明るく点灯し、一部はゆっくりと点滅を繰り返していた。
「何かの実験でもしていたのかな?」
チコは隣に並び、パネルを見下ろした。
「かもしれん」
グレゴリーは答えて、顎でその場所を指し示して続けた。
「そこを見てみろ」
そこには、メモリらしき線の引かれた、長方形の小さなディスプレイがあり、豆粒ほどの白い点が、時折跳ねるようにぴょんぴょんと波形を描いていた。
「まるで心電図みたいだな」
「というより、心電図そのものに見えるな」
「それじゃ、そいつは生きていると?」
チコは物体を振り向き目を見張る。ただの物体と思っていた物が、なにかの生物の卵に見えてきた。
「これ、生きてるんですか?」
カズトもまた目を丸くさせた。自然と声もうわずっている。そしてこの場にいた誰もが、その答えに注目した。
グレゴリーは面々を眺めて、慎重に思案して答えた。
「確かにその可能性はある。しかし、詳しいことは調べてみないとわからん」
「まさか、持ち帰るつもりじゃないよな」
仲間の男が早口に言って、不安をその顔に覗かせた。これが宝石とか黄金像とか、金になりそうな物なら反対もしない。が、生き物となれば金にはなりそうもないし、これが本当に卵なら、いつか見たホラー映画が思い出されて、容易に賛成はできない。懸念を示すのも無理はなかった。
「気持ちはわかる。トレジャーハンターとしては金にはならんだろうからな。しかし、こうしたことを調べるのも、我々の役目ではある」
「たしかにその通りだな」
チコが言った。彼は暫し思案して続けた。
「金になりそうもないのは残念だが、見つけた以上、これを放っておくのも俺たちらしくない。鬼が出るか蛇が出るか、持ち帰ってみることにしよう」
男は肩をすくめて同意する。他の面々も、その通りだな、と頷いた。
「それじゃ、さっさと運び出しちまおう」
グレゴリーは頷いて、テキパキと指示を出した。
トレジャーハンターの面々が去って暫くのち、別の一団が同じ場所へとやってきていた。彼らは皆、同じ服装に身を包み、肩から銃を提げていた。彼らの動きはキビキビとして、訓練されたように規則正しい。
その、一団のリーダーと思しき男が、とある場所を見下ろしていた。円形に丸く後が残されている。
「何者かが運び去ったようですね」
男の隣りに、彼よりは少し小柄の、若い男が並んで言った。
そこに、兵士がやってきて報告する。
「ドミニク少尉。複数の足跡が見つかりました。外へと続いています。それと、車輪の跡も」
ドミニクは振り向いて指示を出す。
「辺りを隈なく捜索しろ。手掛かりはなに一つ見逃すな」
兵士は、はっと敬礼して去って行く。
「一体、どうやってこの場所を知ったのか」
男は腕を組み、苦り切った表情を浮かべた。
「近くの村や町に人をやって調べさせましょう。何か情報が得られるはずです」
男は頷く。
「そいつらが何者であるにせよ、あれは我々に返してもらわねばならない」
兵士がやってきて、敬礼して言った。
「モーリス大佐。本部から通信が入っております」
「わかった。すぐに戻る」
兵士はくるりと向き直って帰っていく。モーリスは向き直り続けた。
「一通り捜索が済んだら船に戻れ。長居は無用だ」
「了解しました」
ドミニクは背筋を伸ばして敬礼した。
モーリスは、もう一度、それがあったはずの場所を見つめたあと、その場を後にした。
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