番外編 とにもかくにも!
「いやぁほんと、よく似合ってるよ、
くくく、と笑いをかみ殺しているのは、C組のビューティー枠を自称する
ストレッチ素材のドレス(XLサイズ)は、胸の辺りがパツパツで、かなり窮屈そうである。とんだ巨乳の白雪姫が爆誕したと、ドレスを試着した際には大いに盛り上がったものだ。あの時さんざん笑った癖に、まだ笑うかお前は、と思いつつも、角田は口をつぐんだ。
「ぐふっ、遠藤もさ、ほんと、ベストチョイスっつーか。すごいイロモノ感……!」
「あんまり笑うなよ」
「ごめんて。てか、あの二人、早くやっちゃえば良いのに」
「だな」
舞台上で目覚めのキスチャレンジ中の王子と姫を見て、二人は呆れた声を出す。柩を覗き込んだ姿勢のまま、ぴくりとも動かないヤハギ王子がそこにいる。
「てかさ、俺ら完全に巻き込まれた感じだよね、クラスごと。二之ちゃんもご愁傷さま」
「俺は別にいいけどさ」
「えぇ? 何!? もしかして二之ちゃん、そのカッコも満更じゃなかったり……?」
「そういうわけじゃないけど」
「けど?」
ビューティー枠を自称するだけはある、可愛らしい面輪を怪訝そうに歪め、兎崎は「けど」を拾って角田に尋ねた。
「俺、こういう童話の世界観って好きなんだよな。メルヘンっていうかさ」
「そういや二之ちゃんって、見た目に反して乙女趣味だったね」
「乙女趣味って言うなよ。俺はあくまでも可愛いものが好きなだけだ。自分がやるのはさすがに想定外だったって。遠藤が俺にピッタリの役があるっていうから、てっきり姫を森で殺すヤツかと思ったのに」
むしろ姫なら仁愛だろ、と優しく頬を突く。ふにふにと柔らかい頬を「柔けぇ」とからかうように突かれれば、可愛い見た目に反して中身はしっかり
「あのね、俺みたいな超絶可愛い子がやったら洒落になんないの! 俺、神田に刺されるのやだからね!」
「そん時は俺が守ってやるって」
「うーわ、頼もしいですこと〜、全国大会三位様〜」
嫌味たらしく『三』を強調する。三位でも十分な成績ではあるが、あの試合は誰が見ても勝てたやつだった。あの時の角田は何かに気を取られていたのが明らかで、ただ、そういった精神面での未熟さが招いた結果と思えば、三位もまぁ妥当ではある。
「でも、俺のメイクテクを持ってしても二之ちゃんのいかつさはどうにもならなかったな」
「悪いな」
「いいよ。俺、中身はどうあれ、見た目は男臭い二之ちゃんの方が好きだし」
「そうか」
一応。
兎崎の方では、軽くジャブを打ったつもりだった。見た目はゴリゴリの体育会系の癖に、案外中身は繊細で可愛いもの好きの角田二之のことを、兎崎仁愛は密かに好きだった。けれど、繊細な乙女心の方は恋愛面には全く働かないようで、兎崎の気持ちに気づく素振りは微塵もない。
……と思っているのは兎崎だけで、実はしっかり意識している角田である。丹田にぐっと力を入れ、兎崎からの「好き」という言葉に緩みそうになるのを堪えている。お前その精神力があるなら、少なくとも二位はいけたんじゃないのか。
もちろん、あの時気を取られていたのは、応援席の兎崎にだった。彼が他校生からナンパされているのが目に入り、心が乱れてしまったのである。
「そういやさ」
そう言って、兎崎はポケットから二枚の紙を取り出した。
「遠藤がさ、メイク担当の礼にってこんなのくれたんだけど」
「何だこれ……って、こ、これは! 『はしっコずまいコラボカフェ』のチケット!」
『はしっコずまい』とは、とにかく端っこが大好きだというまるまるとした動物達で、子どもから大人まで大人気のキャラクターである。可愛いもの好きの角田のハートにももちろんどストライクだ。
「二之ちゃん一人だと行きづらいかもだけど、俺となら行けるんじゃない? に、二枚もらったし」
男同士がアレだっつーんなら、俺、女装して彼女のフリしてあげてもいーし、とそこはモゴモゴと濁しつつ、震える手でクーポンを渡す。
と。
「行く! 絶対行く! 俺、仁愛と行きたい!」
チケットごとその手をぎゅっと握られる。小柄な兎崎は手も小さい。それをまるごと包んでしまうほどの大きな手は、空手の試合の時よりも震えていたが、それは、単にコラボカフェに行ける喜びでなんだろうな、と思う兎崎である。もちろん、そんなことはない。
兎にも角にも、ここもまたコラボカフェデートで一歩進展なるのではないかと、DJポリスに勤しみながら、横目で二人を見つめ、ほくそ笑む
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます