第17話 はっしん
家の裏手にあるガレージに停められていたお姉さんの車は、なんの変哲もない軽バンだった。
あれ、これなら別に鎌倉さんも乗っていけるんじゃないのかな――と不思議に思いながら助手席に座って後ろの座席を見たとき、お姉さんの言葉がわかった。
後部座席に大量の荷物が乗せられている。本とか、寝袋とか、そういうものがところ狭しと詰められていて、とても人が乗るスペースはなかった。
なるほど、これでは「二人乗り」だろう。
「ねえ、また明日ね?」
見送りに来てくれた鎌倉さんが不安そうな顔で私のことを見ている。
私はその表情を見て、ちょっと離れがたいような気持ちを覚えたけど、
「うん、また明日」
と、答えていた。
別に大袈裟な別れってわけじゃない。同級生のクラスメイトなのだから、いつでも会えるのだ。
それなのに、でも、なんだろうか。この……まるで置いてけぼりにでもしてしまうような、後ろめたい感覚は。
「……」
「それじゃ、行こうか」
お姉さんが車に乗り込んでエンジンをかける。
取り付けられているカーナビが起動すると同時に、狼のような咆哮の男性の声が車のスピーカーから流れてきて、私は思わず飛び上がってしまった。
「ああ、ごめん、CD入れてたんだった」
平然とした様子でお姉さんがカーナビからCDを取り出す。
鎌倉さんがその様子を窓の外からじっと睨んでいる。
「それじゃ、改めて、行こうか」
「……はい」
車が静かに発進する。
窓から見える景色はもうすっかり夜で、私はこんな時間にこんな場所にいることがなんだか不思議に思えていた。
「……」
助手席に座った私の膝の上にはスーパーの袋が置かれている。
お土産に、と、昼間のスーパーで買い込んでいたお菓子の山を鎌倉さんがくれたのだ。
彼女のお金で買ったのだし、こんなに大量にあるし、ちょっと気後れはしてしまうけども、遠慮しても通用しそうになかったので素直に貰っておく(どれもこれも買ったことも食べたこともないお菓子ばかりなので、正直楽しみな気持ちもあるけれど)。
「……」
昨日、突然ご飯に誘われて。
今日、彼女の家で晩御飯をつくって。
たったの二日間。
まったく、どうしてこんなことになったんだろう、と不思議に思うけれど。
まあでも、独りの家で食パンをかじっているよりは、全然よかったかなあと、そう思った。
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