第54話 番外編 元イチオシ社達のお茶会
今日は我が公爵家で恒例のお茶会がある。
「まあ!メリアーナお嬢様!とてもお似合いです!」
「本当?」
私は顔を赤く染めて鏡を見る。
選んだのは濃い紫色のドレス。
大人っぽい色だけどふんわりと重なったオーガンジーとお花の飾りがあり、シックにはなりすぎていない。
ピンクのリボンもアクセントになりとても可愛らしいドレスだ。
コンコン
「お嬢様、レイ様がご到着です」
「ありがとう」
私はまた鏡を見て確認する。
このドレスはレイ様からの贈り物だ。
前世から私を知っているレイ様は私が可愛いものが大好きなことも知っている。
パーティーのときのドレスも私の好みに合うようにしてくれていた。
鏡を見ながらレイ様を思い出してポーッとしていると
「とても可愛いよ。似合っている」
レイ様が後ろからギュッと抱きしめてきた!
「レ、レイ様!」
ロジー達がいるのに!
「ごめんね。待ちきれなくて来ちゃったよ、メリィ」
私の頬にチュッとキスもして、腰に手を巻きつける!!
私を抱きしめて嬉しそうにしているレイ様と真っ赤な顔の私が鏡に映っている。
「レ、レイ様!そろそろ…」
慌てて少し離れようとする。
大好きなレイ様だからいいんだけど!
でも皆が見てるし!
ロジー達も顔を赤くして、こちらを見ないように顔を背けてくれている。
「レイって呼んでくれないの?」
逃がさないように抱きしめたまま聞いてくるレイ様。
「そ、それはふたりのときにって…!」
恥ずかしくて人前ではまだ無理だから、ふたりのときだけにお願いしたのに!
そんな顔しておねだりしても…おねだりしても…!
「レィ…」
小声でポツリと言ったけど聞こえてたみたい。
「ありがとう。嬉しい」
ギュッとまた抱きしめてくれた。
とても大切な宝物のように。
婚約者のレイ様は言葉もさらに甘く、愛情表現もとても甘くて、たまに刺激が強いほど強引で…。
私は毎日ドキドキしている。
本当にあの宮本専務なの?
* * * * *
「では…」
早苗様が立ち上がりコホンと喉を整える。
「お疲れ様です!!」
「お疲れ様です!!」
「お疲れ様です!!」
「ッ!!?」
私と里英ちゃんも立ち上がり、今日のお辞儀の角度は30度で敬礼。
「イチオシ社、社訓その1!」
「お客様への誠実さ、そして常に笑顔と…」
「お客様への誠実さ、そして常に笑顔と…」
「お客様への誠実さ、そして常に笑顔と…」
そしてそれぞれ何事もなかったかの如く着席する。
「さて、人払いもしていただいています。何でも話して大丈夫ですよ」
「…ふっ!ははははっ!!」
レイ様がお腹を抱えて笑っている。
ツボに入ったようだ。
今日はレイ様に向かって女子達3人はお辞儀をした。
レイ様は驚き目を見開いていた。
「はーっ!苦しいっ!これいつもお茶会の時に?」
こんなに爆笑するレイ様は初めて見るわ!
レアレイ様!
「ええ。毎回ではありませんが、ほぼ」
早苗様がキリリと答える。
「クククッ!こんなに笑ったの久しぶりだよ。イチオシ堂の先代も喜んでいると思うよ。…皆、ありがとう」
嬉しそうに笑いながらも目頭を押さえるレイ様。
ううん、宮本専務ね。
「おふたりにまたお会いできて嬉しいです」
「宮本専務…」
里英ちゃんも少し涙ぐむ。
「私達もですわ」
早苗様も懐かしむような顔をする。
私はもう言葉が出ないほど泣いている。
「…さぁ皆様。懐かしいお茶とお菓子をいただきましょう!」
早苗様が明るく声を出して雰囲気を変えた。
今日のお茶とお菓子はレイ様が用意してくれた。
「緑茶なんてよく手に入りましたね!」
里英ちゃんの嬉しそうな顔!
「本当に懐かしいわ!それにお団子も」
早苗様もお団子の串を手に取り頬張る。
「大福も美味しい!レイ様ありがとうございます」
私は大好きな大福から食べる。
「緑茶はストライブ侯爵家での仕事の関係で手に入ったんだ。探していた他の和菓子の材料も少しずつ揃ってきたよ」
「誰のために探してたんですかぁ?」
里英ちゃんがニヤニヤしながら聞く。
「あの奥手だった宮本専務がこんなに積極的な人になるとは」
早苗様もニヤニヤ。
「…まぁ、もう後悔はしないように気持ちを伝えたいんだよ」
困った顔で笑う宮本専務。
ふたりもそうですねとまた少ししんみりしてしまった。
「やっぱり宮本専務は和菓子職人なんですね!」
明るい雰囲気に戻そう!
もちろん今日の大福とお団子も宮本専務が作ってくれた。
作っているところを見たいわ!
「小豆は何年も前から手に入れたくて探していたんだよ。でもメリアーナを見かけた頃からだったかな。今思えば」
「えっ!?何年も前から?」
私は顔が赤くなる。
そして里英ちゃんと早苗様がニヤニヤする。
「あとは材料があると作りたくなっちゃうね」
「それは分かります!」
里英ちゃんは前世の知識でこの国にない物を開発することに力を入れている。
学園祭では大活躍だった。
ダイエット商品としても売り出しているらしい。
「アレックスが王宮騎士団の訓練にも使いたいって言っていたよ。他にも何があるか聞きたいみたいだよ」
「まあ!もちろんですわ!」
「よかった。アレックスに伝えておくね」
ヴァリテ家は恋愛主義で婚約者は家が決めることはないそうだ。
そしてアレックス様に婚約者はまだいない。
一緒にいて楽しい人が好みだそうだ。
『マクラナ嬢は可愛いし、なんだか楽しそうだな』と言っていたとレイ様から聞いた。
レイ様は嬉しそうだわ。
早苗様もクスリと笑っている。
それから学園祭の脱出ゲームの話や懐かしいイチオシ社の話をして楽しいお茶会がお開きとなった。
ということはそろそろ…
「サナエラ嬢!」
お兄様だ。
最近は早苗様が来ていると帰り際に声を掛けてくるお兄様。
鈍い私でも気づいちゃうわ。
皆も分かっているのでふたりから離れて歩く。
「なにを話しているのかしらね?」
こっそりと里英ちゃんが私に聞く。
「なにかしら?でもふたりとも笑っているわね」
最初は不思議そうにしていた早苗様だけど、最近はソワソワしてお兄様を待っているようにも見える。
そんな皆の芽生え始めた恋にワクワクしながらレイ様と手を繋いで歩いた。
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