第53話 番外編 ドキドキのストライブ侯爵家

数日前から私は緊張している。

とてつもなく!!


昨日の夜はまったく眠れなかった…。


そんな状態でもロジー達が完璧に仕上げてくれた。

睡眠不足でコンディションが悪かったと思うのに。

本当にありがとう!


触りたくなるサラサラの綺麗な髪、サイドは可愛らしく結っていて、大きな碧い瞳はパッチリと、スベスベの肌に、プルツヤの唇。


今日はレイ様のご家族と初めてお会いする!!


一大イベントである…!!

私はレイ様の未来のお嫁さんとして気に入ってもらえるのかしら。

きちんとご挨拶できるかしら。

同じことをグルグル考えている。

朝から震えが止まらない!


「お、お嬢様、大丈夫ですよ!しっかりなさってくださいませ!」


「そうですよ!こんなに可愛らしいお嬢様を気に入らないわけはありませんわ!」


緊張で真顔になってしまった私を皆が心配し、励ましてくれる。

いつもだったらおしゃれにしてくれたロジー達と鏡の前ではしゃぐ女の子にとって楽しい時間なのに…。


怖い!

失敗したらどうしよう!

固まって座ったまま動けないでいる。

よく考えたら私ってまだ15歳なのよ!?

それなのにご両親へのご挨拶って早すぎじゃない!?

そりゃあ緊張するわ!!


それに学園でも社交界でも人気が高いレイ・ストライブよ!

私でいいの…?

どんどん悪い方に考えてしまう。


コンコン


「お嬢様、レイ様が…」


「どうしよう!!」


大声を出してしまった!

レイ様が来てくれた!?

もう時間!?


「迎えに来たよ。メリィ」


「レイ様…」


青い顔の私を安心させるように抱きしめて包み込んでくれる。


「私で本当にいいの…?」


レイ様の胸に額をつけたまま聞く。


「私には君しかいないよ」


私の背中を優しく撫でてくれる。


「…」


「大丈夫だからね。私の家族皆、君に会いたがっているから」


レイ様の温もりはいつもホッと安心するのに…。


「…レイ様ぁ」


私はギュッとレイ様の上着を掴み、涙で潤んだ大きな瞳でレイ様を見上げる。


「…ッ!!」


レイ様の頬がサッと赤くなった。

手で顔を隠す。


「…大丈夫だから、本当に。そろそろ行こうか」


手を繋いで公爵家を出た。


私の緊張をほぐすように馬車の中でもレイ様は手を繋いでくれていた。


「…気に入ってもらえなかったらどうしよう」


ブツブツと同じことを繰り返し呟く私。


「そんなに緊張しないで。いつものメリィでいいんだよ」


「いつもの私…?」


「うん。そうだよ。それに私が隣にいるから」


レイ様は優しい瞳で微笑んでくれる。


レイ様!頼りにしてます!

私の未来のだ、だ、だ、旦那様は優しいんだから!

少し頬を染めてそんなことを考えてモジモジしていたら


「もうすぐだよ。ほら、見えてきた」


馬車の窓からストライブ侯爵家を教えてくれる。


「!!」


もう着いちゃうの!?

早くない!?

また緊張が戻ってきた!!


「落ち着いて、大丈夫だよ」


ピキーンと固まってしまったので私の肩をレイ様の方に抱き寄せてくれた。

ドキドキが、緊張が…!

そしてレイ様の顔を涙目で見上げる。


「レイ様ぁ…」


「…ッ!また!メリィあとで話をしようね」


「?」


苦しそうな声を出すレイ様。

そして馬車はストライブ侯爵家へと到着してしまった!!


立派なお屋敷だけど、見ている余裕がない!

レイ様がエスコートしてくれないと足が止まってしまう!

お屋敷の人達が微笑ましく見てくれていることなど気づかずご両親がいらっしゃるお部屋へ。



「…………」


「まあ!まあ!本当になんて可愛らしいのかしら!ねぇ、あなた!」


「ああ、本当に!こんなに可愛い娘ができるなんて嬉しいよ」


緊張MAXで頭が真っ白になったあげくに挨拶を噛みまくり、大失敗し落ち込んでいた。

私の失敗挨拶で部屋の中はシーンと静まりかえったが、そのあとのご両親の反応で私は驚いて固まっている。

なぜか気に入っていただけたようである。


「!?!?!?」


「ね、平気だったでしょ?」


私の隣で苦笑しているレイ様。

どうして!?

私は失敗しちゃったのに、これで大丈夫だったの??


「私達のことはお義父様、お義母様って呼んでちょうだいね!」


「レイ!よかったなぁ!」


「本当にお人形さんのように可愛いわぁ!娘ができるなんて嬉しいわ!」


お義母様からは『今度一緒にお出かけしましょう!』とか、お義父様からは『レイは君のことがずっと気になっていてね』なんて話を聞いた。


パタパタパタと急いで駆けてくる足音が聞こえた。


カチャリと扉が開く。


「遅くなってごめんなさい!」


部屋の扉が開き、登場したのはレイ様と同じ髪色、同じ瞳の色の美少年!


「弟のノアだ。7歳だよ」


レイ様が紹介してくれた。


小さなレイ様!?

子供の頃はこんな感じだったのね、きっと。

…絶対にモテていたわね。


「あの、メリアお姉様って呼んでいいですか?」


「は、はい…」


どうぞ!ミニレイ様!


「やったぁ!メリアお姉様!僕、お姉様ができて嬉しいです」


きゅるんとした目が大きくて可愛いすぎてどうしよう!!

隣にいるレイ様のジャケットの袖口をギュウッと掴む。

ミニレイ様可愛いすぎるんですけど!?という気持ちが抑えきれない!

悶えすぎて涙目でレイ様を見上げる。


「ッ!!」


レイ様はまた手で顔を覆っていた。



なんとか無事に(?)ご家族とのご挨拶をしたあと、レイ様がお部屋に連れてきてくれた。


ここがレイ様が過ごしているお部屋なのね!

今日の難関は突破したからやっとゆっくり見ることができるわ!

キョロキョロとお部屋の中を見ていた。

部屋の扉が閉まったと思ったらレイ様にグイッと手を引かれ壁際に立っていた。

トンっと壁に背中がつく。


「え?」


キョトンとレイ様を見上げる。

私の顔の横にレイ様が両手を壁に手をついてニコリと笑った。

レイ様に囲われている。


「今日は私の家族に会ってくれてありがとう。君を家族に紹介できて嬉しかったよ」


「い、いえ。ご挨拶大失敗してしまいました…」


「あんなに緊張していたのに頑張ってくれてありがとう。とても可愛かったよ」


噛みまくりご挨拶が?

それになんだかレイがだんだん近づいてて…。

肘を壁につく状態に?

近すぎてちょっとドキドキしてきた。

ご挨拶のときと違うドキドキだ。


「でもレイ様のご家族にお会いできて嬉しかったです。レイ様の婚約者として認めてもらえたようでよかった…!」


ホッとして安心したらまたじわりと涙が出てきた。


「レイ様、ありがとう」


涙で潤んだ大きな碧い瞳でレイ様を見上げる。


「ッ!もうダメだ!可愛いすぎて…!」


レイ様の片手が私の顎に添えらてグイッと上に向かされる。


「え?…んん!?」


レイ様の顔が近づいてキスをされた。


レイ様の上着をギュッと掴む。

しかもいつもより…!

レイ様の熱の籠った瞳が私を見つめている。

吐息が…色気が……!!


力が抜けて立っていられない!

くたりとレイ様の胸に寄りかかった。

私の腰を抱いて支えてくれる。


「あんな顔は私以外に見せないでね。メリィ」


「は、はぃ……?」


ドキドキのストライブ侯爵家への訪問は、予想外のドキドキで終わった。

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