第50話 本当の目覚め、私のイチオシ!2
体の痛みが少しずつ治ってきた。
腕のアザや体をぶつけたりしたのもあるけど、箒を振り回したから筋肉痛でもあった。
私は公爵邸の庭を散歩をしている。
ロジーにはまだ安静にと心配されたが、部屋の外に出たくなったのだ。
よく晴れたいいお天気で冬の冷たい空気が心地いい。
「綺麗ね…」
近くのガゼボに座わり、色とりどりに咲いているお花を見る。
「レイ様とまた温室でお花を見ながらお話したいな」
ポツリと呟く。
「早く会いたいな…」
カサリと落ち葉を踏む音がした。
「私も会いたかったよ、メリアーナ」
振り向くと花束を抱えたレイ様がいた。
「レイ様…!」
会いたかったレイ様!
しばらく無言で見つめ合う。
「そろそろ大丈夫そうだとフレッド様から聞いたんだ。体調はどう?」
私の側にきてレイ様の上着を掛けてくれた。
ふわりとレイ様の香りがする。
そして、涙がポロリと零れた。
「メリアーナ!やはりまだ!」
私の顔を覗き込んで心配してくれる。
「メリアーナ…今回のことはコンテストに出場することにならなければ起こらなかったかもしれない。私のせいだ!そして、私がメリアーナから離れたばかりに!!」
「いいえ。レイ様のせいではありません。少し前から不審な視線を感じていたのに。私が気づいていれば…」
ポロポロと涙が流れる。
「メリアーナ、怖かったよね。すぐに助けてあげられなくてごめん…もう泣かないで…」
レイ様が私の頬に手を添えてくれる。
「レイ様にもう会ってもらえないと思っていたので…」
「私がメリアーナに会わないなんてありえないよ」
そして、いつものように私の手を優しく包み込んでくれた。
「私に会えなくなることが嫌だと思ってくれたの?」
「はい…レイ様に会いたいとあのときも、今も…」
「……」
レイ様の手に力が入った。
「レイ様、助けてくださりありがとうございました」
涙を流しながらニコリと笑う。
「メリアーナ!!」
ギュッと抱きしめられ、レイ様の香りと温もりに包まれる。
いつからレイ様の側がこんなに安心するようになったのかしら…。
「メリアーナ…好きだよ。こんなに愛しい君に会わないなんて、私の方が耐えられない!!君だからこそ!!」
レイ様の言葉が胸に響く。
「レイ様…私もレイ様が…好きです」
胸にギュッと抱きつきながら告白した。
「…本当に?」
私の頬に手を添えて真っ直ぐ私を見る。
綺麗な濃い紫色の瞳と見つめ合う。
「はい。レイ様が好きです」
「…嬉しい。ありがとう」
頬に手を添えているレイ様の手が震えている。
切なそうな、愛しくてたまらないと伝えているような瞳。
「レイ様…」
そしてレイ様が私の頬から手を離し、何かを決意したような瞳で私を見つめた。
「実はもうひとつ伝えたい大切な話があるんだ。学園祭の時にあとで話をしたいと言っていたことを覚えてる?」
「はい。あとで温室に行こうと言っていたときに」
「この話を聞いたら君に嫌われるかもしれないけど…」
「え?」
私がレイ様を嫌いになる?
「これを」
「あ、拾ってくださってたんですね。ありがとうございました」
レイ様がポケットから出したのはピンクのリボンつきのイッチくんだった。
ホッとした私の両手の手のひらの上にイッチくんマスコットを置いてくれた。
「私と君は昔会ったことがあるんだ。遠い昔に」
「昔に?」
「その時から私は君が好きだった」
「え…」
「芽衣ちゃん」
「え、そ、その名前…」
レイ様が知っている筈がない私の名前!!
「私は宮本玲だ。同じ職場で私は和菓子職人だった」
「う、うそ…」
宮本専務!?
レイ様も転生者だったってこと!?
「…宮本玲は覚えているかな?」
不安そうにレイ様が尋ねる。
芽衣の記憶を思い出したなら宮本専務を覚えていない筈はない。
「ほ、本当に宮本専務ですか?」
「本当だよ、信じて。こうやって芽衣ちゃんの手のひらの上に大福を乗せたことがあるよ」
芽衣と呼び、私の手を包み込んで伝えてくれる。
「私達イチオシ堂の和菓子職人が作った大福をとても美味しいと言ってくれたよね。大切に手のひらの上に乗せてくれてた君を忘れたことはない」
「宮本専務だ…」
「どんなに『君』に逢いたかったか!『君』と再会した時の喜びがどれ程だったか!!」
切なそうなあの濃い紫色の綺麗な瞳が私を見つめる。
「やっと『君』に逢えた…時を越えても」
こんなことが本当にあるの…?
じわりと心の底から熱い想いが込み上げてくる。
「伝えられなかった想いもやっと告げられる。あの頃から『君』が好きだよ。そして芽衣ちゃんもメリアーナも、どんな君でも!!」
「…!!」
「長い時を経て姿が変わろうとも、魂が君しかいらないと言っているんだ」
芽衣とメリアーナの気持ちが溢れてもう胸が苦しい!
「私が宮本玲だと伝えたら嫌われてしまうかとも思った。レイのことは好きになってもらえたとしても」
「…どうしてですか?」
「名前は同じレイでも、姿も年齢も違う。もしかしたら宮本玲が芽衣ちゃんに嫌われていたかもしれない」
「宮本専務のことはとても尊敬していましたし、芽衣の中から宮本専務を忘れるなんてありえません!」
「芽衣ちゃん…」
ホッとしたような顔をした。
「それに芽衣も宮本専務のことが好きでした。私がレイ様を嫌いになる筈もありません」
芽衣の想いがこの世界であなたに届いた!
あなたに芽衣とメリアーナの二人分の想いを伝えたい!!
「どんな『レイ』様でも大好きです!わたしの『イチオシ』です!」
「ありがとう。私もだよ。この奇跡のような出逢いに感謝しかない」
レイ様の綺麗な瞳から涙が流れた。
「愛してる」
長い時を越えた想いがやっと届く。
こんな素晴らしいことはない。
「もう離さない」
強く、強く今までの時間を取り戻すようにふたりで抱きしめ合った。
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