第40話 学園祭8

《次はこちらに移動して下さい!》


私がいる牢のセットにわりと近いわ。

細長い机に用紙が数枚並んでいるのが見える。

次は何なの!?


レイ様が長机の前に移動した。

その後にレイ様が里英ちゃんに向けて手を上げて、何か話をして私に向かって走ってきた。

私は急いで牢の鉄格子の前に移動する。


「これ持っておいてくれる?メリアーナ」


制服のジャケットを牢の鉄格子の隙間から入れて私に手渡す。

ここまで運動すると思わないものね。

レイ様の汗がすごいわ。


「はい。お預かりいたします。レイ様頑張ってください」


ジャケットを受け取り、私も鉄格子の隙間から手を伸ばしてハンカチでレイ様の汗を拭った。


「ありがとう」


レイ様が嬉しそうに笑って長机のところに戻って行った。


《とても微笑ましいやり取りでしたね!》


『キャアー!』『ヒュー!』と歓声が上がる。


もう!里英ちゃんってば!!


《次は我がクラスの女王に変わります!》

《失礼いたします。数学の女王ことサナエラでございます》

《ここに並んである用紙には私が考えた問題と、我がクラスの選抜メンバーが考えた問題が各一問ずつ書いてあります! 》

《すべて解いてクリアしてください》

《間違えたら違う問題で最初からやり直しです。ではスタート!》


早苗様までこのゲームに参加してる!

問題を解いているレイ様の前に待機して不敵な笑みを浮かべているわ!

早苗様、楽しそう…。


解き終わったレイ様が問題用紙を女王に提出した。


《むっ!正解です》


女王の眉がピクリと動いた。

次の問題をレイ様が解いてまた女王に渡す。


《くっ!正解です!》


次も解いて女王に渡す。


あんなに早苗様が悔しそうにしているという事は、難しい問題なのよね?

正解続きなんてすごいわ!


《なっ!正解です!》


あ、次の問題はレイ様が少し考え込んでいるわ!


《ストライブ様、降参されますか?》


ニヤリ顔の女王様はとても嬉しそう。

あっ!レイ様が問題を解き終わったわ!


《むっ!この大学入試問題だったものが解けるわけが…くっ、正解です》


え?前世の大学入試問題だったってこと!?

かなり難しそうだったのに正解したわ!!

そしてまた次の問題を解きゴールにたどり着いた!


《すべて正解です…》


早苗様は紙の束を握りしめて悔しそうに震えている。

女王敗れたり…。


フゥと息をはくレイ様。

すごい!女王に勝ったわ!!



《再びリエッタです!では次が最後です!》

《こちらをご覧下さい!》


黒い幕が掛けられている大きな物の前に移動している。

大きすぎて何だろうと思ってたのよ!

黒い幕がバサッと外された!

大きく【A】【B】と書いてある大きくて細長いパネルのような物が並んでいる。

こ、これはもしや!!


《正解だと思う方のパネルに体当たりして破り通って下さい!》

《正解すればお姫様が閉じ込められている牢の鍵を手に入れられます!!》

《不正解なら粉まみれ…ではなく、砂まみれです!!》


真っ白になる粉は手配するつもりでできなかったのね。

でも砂まみれも嫌だわ!

レイ様、私のクラスが本当にごめんなさい!

ハラハラしながら見守る。


《さて問題です!!》

《難問ですよ!…でもストライブ様なら簡単かもしれませんね》


え?どういうこと?

難しいけど簡単なの??


《メリアーナ姫が以前から大好きなお菓子があります。それはもうずっと昔から。それは何!?》

《Aお団子!B大福!》

《どちらでしょう!どうぞ!》


ええぇ!里英ちゃん!それは分からないわよ!!

レイ様が砂まみれになっちゃう!!

確率は二分の一だけど。

オーディエンスも『何それ?』とざわついている。


「……」


問題を聞いてしばらく呆然と立っていたレイ様が私を見た。

何だろう。

その瞳が何かを告げているようで目が離せない…。

私はレイ様の制服のジャケットをギュッと胸に抱く。

やがていつもの目尻が少し下がる私の好きな微笑みで


「メリアーナ!今から助けに行くよ!」


レイ様は大声で言った。


オーディエンスが『ワァー!』『キャー! 』と盛り上がる。

私の胸はドキドキと高鳴り、ソワソワして落ち着かない。

レイ様の瞳が…もう一人の私を見ていたような…。


レイ様がパネルに向かって走り出した!


『ワァー!』と歓声が上がる!


迷いもなく真っ直ぐに【B】の方へ走りパネルを破った!!


「どうして…?」


レイ様は正解の方へためらいもなく走ったの?


《…正解です!鍵をどうぞ!》


鍵を受け取り直ぐに私に向かって走って来てくれた。

牢の扉を開けて近づく。


「お待たせ、メリアーナ…」


私はなぜか涙が止まらなくて…。

後から後から涙が溢れ出し、そして俯いた。

レイ様が膝をついて私の頬に手を添える。


「迎えに来たよ。姫」


レイ様が私の頬にキスをした。

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