第33話 学園祭1

学園祭の準備が始まった!


私達のクラスはクイズ形式の『脱出ゲーム』をする事になった。

学園の広い講堂Bの使用許可が下りて大掛かりな物になる予定だ。


『脱出ゲーム』?

貴族が通う学園なのに?

前世の香りがプンプンするのだけどいいのかしら?


クラスの皆で講堂Bの下見へ。


「えー!こんなに広い所で!?でも私達で大きな設営とか無理じゃないの?」


実行委員の里英ちゃんに聞くと


「土台やセットなどは規定の範囲内の予算を使用してプロに発注します。セレブ学園ですので」


『経理の早苗様』キリッと登場!!


今は早苗様の時と違ってメガネを掛けていないけど、なんだかメガネが見える気がする。


「なるほど」


「その分私達は凝った内容のクイズにできるし、私達で作れるセットは学園祭らしく手作りもするわよ!」


里英ちゃんの目が燃えている!


「とても楽しそうなゲームだね。私も問題を考えるよ」


ライル殿下も脱出ゲームに興味があるみたい。


また教室に戻りクイズを考えたり小道具を作ったり、各チーム毎に別れて作業した。


ライル殿下は私と同じクラスだけど、学園祭はいろいろな角度から見学したいらしく、お兄様のいる生徒会に行ったり、他のクラスも見に行ったりしている。


ただ、私に絡んでくるのは相変わらずで、私がレイ様と一緒にいる時は特に…。

最近の悩みでもある。


「メリアーナ!そろそろ大丈夫かな?」


放課後にレイ様が迎えに来てくれた。


「はい。本日の作業は終了しました」


帰りの仕度をしていると


「あれ?婚約者でもないのに送り迎え?私が代わりに送るよ!メリアーナ嬢も私の方がいいよね?」


もー!また!

レイ様の方が良いに決まってるでしょ!

でもなんだかライル殿下は楽しそうにも見えるんだよね。

何故?


「いえ、メリアーナは私が送ります。フレッド様とのお約束事でもありますし」


レイ様が教室の中まで来てくれて、またサッと私とライル殿下の間に入ってくれた。


「ええ、残念だなぁ。そうだ!明日はメリアーナ嬢に学園の中をもう少し案内して欲しいな」


ライル殿下は両手を広げて少し大袈裟なポーズをした後に聞いてきた。


「えっ!ご案内ですか?でも…」


お兄様がしていた筈だけど。


「ね!」


ライル殿下が近づこうとすると、レイ様がまたサッと背中に隠してくれた。


「学園内はフレッド様が詳しくご案内をしていたと思います。では私達は失礼いたします」


レイ様が私の手を繋いで教室から出る。


「レイ様、ありがとうございます」


「いや、今日は大丈夫だった?」


「はい。リエッタ様やサナエラ様もいますし、先程もレイ様に助けていただきました。でも、ライル殿下は私がレイ様と一緒にいる時の方が何かと絡んでくるような気がいたします」


「そうか…」


レイ様はまた少し考えている。



歩きながら学園祭の話になった。

設営の方はプロの業者の方々に図面を見てもらい工事が始まった。

安全面を考えるとしっかりした土台だと安心だけど、予算の規模がすごいわ!


「そうなんだね。怪我はしていない?」


レイ様が心配してくれている。


前世では大きな荷物を抱えたり、走ったり、転んだりもしてましたよ。

今はお嬢様ですけどね。

なんて心の中で思いながら


「はい。大丈夫です」


心配してくれているのが少し嬉しい。


学園祭の準備があるのでレイ様との放課後のお喋りは時間が短くなってしまった。

お互いに時間が合う時に、またはレイ様が私の教室に来てくれて廊下で少し話をしたりという感じだ。

でもライル殿下の事もあるので、心配だからと時間を作ってくれている。


お礼を伝えると『私がメリアーナに会いたいんだ』なんて言われて…。

また思い出しては特大イッチくんぬいぐるみに抱きついてジタバタしている。


お兄様も忙しくて帰りの時間が合わないので別々に帰っている。

レイ様が馬車まで送れない日は、お兄様付きのアルトさんに教室や講堂に迎えに来てもらう事になった。

さすがお嬢様ねー。


「今日は私が馬車まで送るね」


「レイ様。ありがとうございます」


もう少し一緒にいたくて馬車までゆっくり歩く。

そんな私の速度にレイ様も合わせてくれる。

嬉しいな。


「レイ様のクラスはどうですか?」


「練習は順調だよ。久々に演奏するから緊張するね」


でも頑張るねなんて笑うレイ様。

もう!可愛い!


「座席は予約席を取っておくからね」


「わぁ!ありがとうございます!楽しみです!」


その後はクイズの問題を考えるのが難しいとか、クラスのみんなと一緒に作業をしていたら少しずつ話ができるようになってきた事を話した。

その度に、優しい瞳で頷いてくれたり、微笑んでくれたり。

もっと一緒にいたいと思ってしまった。


「もう着いちゃったね」


「はい。…ありがとうございました」


名残惜しそうにしながら馬車に乗ろうとしたら手を握られた。


「メリアーナ、また明日」


優しく手の甲にキスをされた。


「ッ!!」


扉が閉まる。

真っ赤になって手を握りしめた。

ドキドキしながら窓の外に流れる景色を見ていた。

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