第15話 元イチオシ社女子達のお茶会2
社長の息子さんである宮本専務は外回りの営業もするけど、和菓子の職人でもあった。
年齢は28歳くらいだったかな。
スラリとした長身で、笑顔の優しい人。
イチオシ堂の和菓子をみんなに美味しく食べて貰いたいといつも言っていた。
私はイチオシ堂の小豆の風味がしっかりある大福や、お饅頭、色鮮やかな練りきり、もちもちのお団子達が好きだった。
イチオシ堂の美味しい和菓子を販売できる事が嬉しかったし、誇りにも思っていた。
特に大福がイチオシに大好きでお客様に熱弁してしまう程。
よくお客様に笑われたけどね。
『聞いてたら買いたくなるね』
『この間薦められた大福美味しかったからまた買いに来たよ』
『お友達へのお土産で渡したけど、とても喜ばれたわ』
なんて嬉しい言葉を言ってくれた。
宮本専務も私が熱弁しているのを聞いていた時には「ありがとう」と笑って、とても嬉しそうにしてくれた。
そして、よく作業場に和菓子を作っている行程を邪魔にならないカウンター越しに見に行っていた。
職人さん達が作るお菓子を見るのも好きだったのだ。
魔法の手だ!とワクワクしながら見ていた。
優しい職人さん達は見ている私を怒らずに『また芽衣ちゃん来てるよ』と笑ってくれていた。
そして、和菓子職人でもある宮本専務ともよく目が合って微笑んでくれていた。
たまに大福を『形が悪くなっちゃったんだ。良かったら後で食べてね』と手のひらの上に置いてくれた。
私は嬉しくてお礼を伝えた後も、手のひらの上にある大福をじっと見て大切な宝物のように抱えたままニコニコしていた。
宮本専務が私の事を?
「そんな訳ない…」
「他のみんなにはバレバレだったわよ。宮本専務は芽衣によく話かけていたし、顔を赤くしてたし、よく見ていたわよ」
里英ちゃんが教えてくれた。
宮本専務と一緒に仕事をしていた日々が頭の中に甦る。
優しい眼差しで話をしてくれた。
仕事に真面目でお店を、和菓子をとても愛していた人。
そんな宮本専務が私を?
……思わず涙がポロリと流れた。
「あれ?」
時や世界を越えて宮本専務の想いを知って、芽衣の想いも分かってしまった。
切ない想いが湧き上がる。
やっと気づいたのねと言わんばかりの。
今更どうしようもないけど…。
でも心が暖かい気持ちでいっぱいになった。
「…そっか」
目尻を押さえてニコッと笑う。
なんだか久し振りに感じるこんな気持ち。
少し大人になった気分ね。
里英ちゃんと早苗様が私を見て微笑む。
「さ、新しいお茶を入れましょう」
ベルを鳴らしてメイドさんを呼んでくれて、また香りの良い美味しいお茶を飲む。
それからもイチオシ社の話は尽きないが時間になり、またお茶会をしましょうとお開きとなった。
帰りの馬車の中でぼんやりと考える。
メリアーナはこれからどんな人と出会い、恋をするのだろうか。
今度こそ想いが通じ合いますように……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます