第197話 記者会見 ★
私はとある部屋で椅子に腰かけ、テレビを見ていた。
「総理、外務大臣が来られたそうです」
私が憂鬱な気分でテレビを見ていると、後ろに控えていた秘書が教えてくれる。
「ここに呼んでくれ」
「わかりました」
秘書が頷くと同時に扉が勢いよく開かれた。
「総理、まだ会見は始まってないだろうな!?」
扉を開けた外務大臣はズカズカと部屋に入ってくると、大きな声で聞いてくる。
「大臣、勝手に入ってこられると困りますよ」
「なーにを言ってんだ。めんどくせーやり取りなんかをしてる場合か?」
外務大臣は席につくと、タバコを取り出し、火をつける。
「禁煙ですよ?」
「固いことを言うな」
外務大臣はこういう人間だ。
よく言えば、裏表のない豪快な人間である。
それ故に失言が多く、マスコミに叩かれることが多いが、それ以上に有能で皆を引っ張れる貴重な人材でもある。
「進藤先生は?」
「ありゃ、もうダメだ。議員の地位にしがみつくことに必死。あの大先生も歳を取ったらおしまいだねー」
進藤先生は大臣も経験している功労者ではあるが、近年の行動には目に余るものがある。
「考えが昭和なんですよね……」
「人のことは言えないが、時代の変化についていけなくなったらヤバいな」
まあ、私達も年齢的には老人と呼ばれても仕方がない。
「やはり切りますか?」
「横領や収賄をどうのこうの言うつもりはないが、今回の件は明確な裏切りだ。示しはつけんといかんし、はっきり言って邪魔だ」
そうなるか…………
さすがに国家機密をこうも簡単に漏らすような相手はもう無理だ。
「わかりました。残念ですが、辞めてもらいましょう」
「もっと早く決断すべきだな」
「そうは言いますが、進藤先生の派閥の解体に時間がいるんですよ」
大分、少なくなったとはいえ、派閥の解体は時間がかかる。
「わかってるよ。それとアメリカは静観だそうだ」
「静観? アメリカが?」
いっつも介入してくるのに。
「向こうは向こうで独自のルートで魔女と繋がっている。向こうさんはエレノア・オーシャンが人だろうと魔だろうとどうでもいいんだと」
さすがはアメリカ。
ビジネスに徹している。
「私達もそう割り切りたいですね」
「無理だけどな」
「ですよね。他の国は?」
「エレノア・オーシャンを開放すべきだとか、我が国の同胞だとか、情報開示すべきとか色々だ。付き合っていられないから捨て置く」
大胆な人だな。
まあ、外務大臣はそれくらいじゃないと務まらない。
「年末なのに忙しいですね」
もうすぐクリスマスだ。
まあ、子供も成人した今、クリスマスに何かを思うこともないが。
「しゃーねーだろ。あの魔女は確かに黄金をもたらすが、その分、こっちが忙しくなる。正直、最近、あの魔女の協議しかしてねーんじゃないかと思える」
「ですねー」
他にやることがいっぱいあるんだけどな。
「さて、そろそろか…………」
外務大臣がテレビを見る。
テレビの画面には大勢のマスコミがまだ誰も座っていないテーブルを映している。
「生放送までするなんてね」
「やりすぎだろ。でも、視聴率は取れるってことだ」
取れるんだろうなー。
例の魔女が初めてテレビに出た動画の再生回数もすごいことになっているし。
「記者会見か……ものすごい嫌な予感がします」
「俺もだ。だが、やらねばならんだろう。気の毒なのは本部長だな」
本当にそう思う。
あの人はとんでもない時に本部長になったものだ。
「おっ! 来たぞ!」
外務大臣が反応したように会見場に黄金の魔女ことエレノア・オーシャンが現れた。
いつもの黒ローブに身を包んだエレノア・オーシャンが現れると、パシャパシャという音と共にカメラのフラッシュが連続してたかれる。
「堂々としてんな」
外務大臣が言うように魔女は何も気にしてないようにテーブルまで行くと、背筋を伸ばし、まっすぐ見ている。
「まあ、別に悪いことをしたわけではないですからね」
実際、魔女は何もしてない。
『では、これより謎の記者会見を始めましょう』
椅子に座った魔女が1人でしゃべり始めた。
「おい、本部長はどうした!?」
会見は本部長が進行する予定のはずだ。
「逃げたか? いや、本部長が逃げるとは思えん。魔女に出し抜かれたか…………総理、覚悟を決めろ。会見の場は魔女に乗っ取られたぞ」
最悪だ。
こいつ、何を言う気だ?
「平穏に終わってくれ」
頼む……!
「諦めろ」
外務大臣が首を横に振った。
『私が何故、会見を開かないといけないのかはさっぱりですが、仕方がないので説明しましょう。皆、私のプライベートが気になるようですからね…………ストーカーばっかりで困っちゃうわ』
テレビに映る魔女が笑う。
「すでに煽り始めている…………」
「荒れるな」
絶対にそうなるだろう。
『では、説明を始めます。まず、報道にあった私がフロンティアから身柄要求を受けているという話はありません。ガセですね』
魔女がはっきりと否定した。
とはいえ、これは私も会見で話している。
『各国に問い合わせがあったというのは本当ですか!?』
とある記者が魔女に尋ねた。
すると、魔女の表情が歪む。
『あなた、私が話している最中に遮るってどういうこと? 黙ってなさい。死にたいの?』
『死にたいって…………それは脅しですか!?』
『うるさい。黙れ!』
魔女が記者を睨んだ。
『…………!』
ん?
記者の様子がおかしい。
喉を抑えて、じたばたとしている。
『さて、うるさいのは黙らせました。あとで質問時間はちゃんと設けますから静かに私の話を聞きましょう。私は優しいからこの程度で済ませたんですよ?』
こいつ、この場で魔法を使いやがった!
記者の声を封じたんだ。
「マジもんの魔女なわけだ……」
「やめてほしいですね」
記者連中がビビっているぞ。
『では、続けます。さて、先ほどの愚か者が言っていたように各国の代表が私がフロンティア人ではないかという問い合わせをした件はおそらく事実です。ただ、私が問い合わせをしたわけでもなければ、答えたわけではないので詳細は知りません』
魔女はそう言うと、カバンからペットボトルに入ったお茶を取り出し、飲み始めた。
「自由だな、こいつ……」
本当にそう思う。
『問い合わせの答えは私がフロンティア人である可能性は低い、だそうです。フロンティア人がそう言うのならきっとそうなのでしょう…………ふふっ』
魔女が怪しげに笑った。
「誰も信じねーよ」
「どう見てもバカにしてますよね……」
あざ笑っている。
『えーっと、次にフロンティアからの招待状ですか? プライベートなことなので言えません。以上。では、質問タイムです。何かありますか? ある方は挙手を』
魔女がそう言うと、記者連中が一斉に手を挙げた。
頼むぞー!
これ以上、変なことをしないでくれよ!
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