第196話 次から次へとまあ……


 俺達は帰ることにし、アルクに転移魔法を使ってもらった。

 そして、すぐに視界が晴れると、見覚えのあるゲート前に戻ってきていた。


「本当に一瞬ね」

「まあね。早く出ようよ。外が気になる」


 アルクはフィーレに興味津々のようだ。


「まあ、待て。その前にサツキ姉さんのところに行って報告しよう」


 それもそうだ。

 手紙は受け取ったと思うが、1泊したわけだしな。

 商売の報告もあるし、心配しているかもしれない。


「サツキ姉さん? ヨシノのお姉さん?」


 アルクがヨシノさんに聞く。


「従姉なんだよ。このギルドの支部長だ。簡単に言えば、この施設で一番偉い人」

「へー。その人と会うのか」

「まあな。行くか……」


 俺達はゲートをあとにすると、受付があるロビーに戻った。

 当然だが、ロビーにも受付にも誰もいない。


「誰もいないね」

「今、ここは閉館してるんだよ。色々あってな」

「ふーん」


 俺達はそのまま受付の中に入ると、ヨシノさんの部屋の前に行く。

 そしてヨシノさんが扉をノックした。


「サツキ姉さん、私だよ」

「ヨシノか! 入ってくれ!」


 部屋の中からサツキさんの大きな声が聞こえてきた。

 俺とヨシノさんはサツキさんのテンションがおかしいことに気付き、顔を見合わせる。


「何?」

「わからない。とりあえず、入ろう」


 ヨシノさんが扉を開け、中に入ったため、俺とアルクも続く。

 部屋の中ではサツキさんが1人で腕を組みながらソファーに座っていた。


「ただいま。サツキ姉さん、どうしたの?」


 ヨシノさんが様子のおかしいサツキさんに聞く。


「ああ、おかえり。実はな…………いや、待て。その子は誰だ?」


 サツキさんはヨシノさんの問いに答えようとしたが、一緒に来たアルクを見て、怪訝な表情をする。


「この子はアルク。フロンティアの王様の子供。旅行に来た」


 俺はアルクを自分の前に引っ張ると、両肩に手を置き、紹介した。


「は? フロンティアの王の子? なんでいるんだ?」

「だから旅行」

「違うよ。僕はフィーレを見極めに来たんだ」


 アルクが王様が言っていたようなことを言う。


「正直に言いなさい」


 建前じゃなくて本音を言え。


「ご飯を食べにきた!」


 ほらね。


「ちょっと待て。は? それはいいのか?」

「正直に言えば、良くないわね。オフレコでお願い。アルクはヨシノさんの家で預かってもらうから」

「そ、そうか…………よくわからんが、異文化を知ることは良いことだと思うぞ」


 あのサツキさんが動揺している。

 フロンティア人がこっちに来ることはそれほどのことなのだ。

 ましてや、来たのは王女様。


「それでサツキさん、あなた、どうしたの? 何かあった? 手紙は届いているわよね?」


 もしかしたら手紙が届いてなくて、焦っていたのかもしれない。


「ああ、手紙は届いているし、カエデにも伝えてある。ちょっと問題が起きてな」

「問題?」

「そうだ。その前に聞かせろ。交渉は上手くいったか?」

「もちろん。金がざっくざっくよ。この前の地下遺跡の比じゃないわ」


 この部屋が金で埋まるんじゃね?

 まだもらってないけど。


「そうか…………それは良かった。では、こちらの問題を言おう」

「どうぞ」

「例の問い合わせの話がマスコミに漏れた」


 はい?


「早くない?」


 昨日の今日だぞ。


「ああ、早い。もっと言うと、お前にフロンティアからの招待状が来たことも漏れた」

「バカ? 何してんのよ…………」

「漏らしたのはお前と縁が深いあの大先生だ」


 大先生…………


「もしかして、進藤先生?」


 俺と本部長さんの交渉に横入りし、レベル2の回復ポーションを100万で買い取ろうとした国会議員だ。


「そうだ。あの人は完全に地位を失っていてな。そして、横領がマスコミにリークされた。その火消しというか、報道をしない代わりにこの件をリークしたらしい」


 おい!

 何してんねん!


「ふざけてるわね」

「ああ。進藤先生は政府が適切に処理をするらしい。問題はマスコミへの対応だ」


 適切って何だろうね?

 まあいいか。


「マスコミへの対応って?」

「お前、記者会見をしてこい」

「はい? 私が? なんで?」

「収まりがつかんのだ。政府や本部長からそういう要請があった。適当にホラを吹いて誤魔化してこい」


 適当って……

 あんたが適当だよ。


「記者会見ねー……」


 不祥事を起こしてないのに……


「全部、知りませんでもいいぞ」

「いいわけないでしょ」

「どうせ辞めるんだろ?」


 あー、まあそうか。

 エレノアさんはほぼ表に出なくなるからどうでもいいわな。


「うーん…………」


 どうしようか?

 いや、待てよ。

 これはいい機会かもしれない。


「しょうがないわね。やるわ」

「そうか! では、本部長に連絡する。すぐに行けるようにしろ」

「え? 今から?」

「すでにマスコミやネットが大騒ぎなんだ。早い方が良い」


 どいつもこいつもエレノアさんが好きだねー。


「ちなみにだけど、あなたも出るのよね? 私の横にいるよね?」


 いつだったか、一緒に記者会見をやるって言ってた。


「この問題はギルドの問題であって池袋ギルドは関係ない、と前に聞いているので私は出ない。テレビを見ていることにする。本部長がついているから頑張れ!」


 逃げおった……

 こいつがユニークスキルを持っていないことが世界の七不思議の一つだと思う。


「ハァ…………まあいいわ。やればいいでしょ」


 しゃーない。


 …………世界に黄金の魔女の恐ろしさを教えてあげましょう。

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