第179話 お手紙
俺はサツキさんから招集を受けたので渋々準備をし始めた。
「どこでエレノアさんにチェンジするんです?」
俺が自室で準備をしていると、俺の部屋までついてきたカエデちゃんが聞いてくる。
「ギルドは無理だし、池袋の公園のトイレかな?」
表口にはマスコミがいるし、裏口にはハリーとクレアがいる。
沖田君がギルドに行くのはちょっとマズい。
「寒いのに大変ですね」
「ホントだよ」
ヨシノさんに迎えに来てほしかったわ。
「公園で着替えるのなら黒ローブは目立つんでやめた方がいいですよ。多分、ギルドの近くにはマスコミがいますから」
そうかもしれない。
トイレを出て、ギルドに行くまでにマスコミに囲まれたら面倒だ。
「私服でいくか……」
コートを羽織って長い髪を隠せばバレないだろ。
俺は黒ローブとは別に私服もカバンに入れる。
「しかし、手紙って何なんですかね?」
「疑ってごめんねっていう謝罪の手紙だったら嬉しい」
「多分、それはないような気がします」
俺もないと思う。
「まあ、手紙を見ないことにはわからんわ。じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
俺はカエデちゃんに見送られ、家を出ると、電車を使って池袋に向かった。
池袋駅に着くと、近くの公園のトイレに行き、寒い思いをしながらも服を脱ぐ。
そして、TSポーションを飲むと、用意していた服に着替えた。
「さて、行きますか……」
俺はトイレの個室で準備を終えると、最後に白いコートを羽織って、結んでいる長い金髪を隠した。
「何とか戦隊とか魔法少女みたいに服も全部チェンジできれば楽なんだけどね」
エレノアさんは悪い魔女なのでそうはいかないらしい。
ぶつくさ言いながらもすべての準備終えた俺はトイレから出る。
そして、歩いてギルドの裏口に回った。
ギルドの裏口にはいつものタクシーと警備員しかおらず、閑散としている。
俺は寒いから早く入ろうと思い、身を縮こませながら早足でギルドに入った。
ギルドに入ると、通路を抜け、受付の裏に出てきたのだが、電灯はついているのにも関わらず誰もいない。
俺はサツキさんの部屋かなと思い、扉をノックした。
「どうぞ」
サツキさんの声が聞こえたので俺は扉を開け、部屋に入る。
部屋の中にはサツキさんがおり、自分のデスクに座っていた。
また、すでにヨシノさんと本部長さんも来ていたらしく、ソファーに並んで座っている。
「遅れてごめんなさいね」
俺はそう言いながらヨシノさんと本部長さんの対面に座った。
「いや、急に呼び出したのはこちらだからな。構わんよ」
本部長さんが首を横に振る。
「エレノア、早速だが、これが今朝、フロンティア側から届いた手紙だ」
ヨシノさんはそう言って、白い封筒をテーブルに置いた。
「単純な疑問なんだけど、どうやって届いたの?」
郵便局じゃないのよね?
「今朝、私がギルドの見回りをしていたらゲートの前にそれが置いてあった」
自分のデスクで肘をついているヨシノさんが教えてくれる。
「ゲートの前ねー……」
そういえば、あいつらって、ゲートを使ってこっちに来れるんだよな。
攻めてこられたら危なくね?
「読んでくれ」
ヨシノさんがそう急かしてきたため、俺はテーブルの上の手紙を手に取る。
そして、封筒に書かれた文字を読んでみた。
「黄金の魔女様へ…………いや、名前で書きなさいよ」
あいつらも魔女認定してやがるし。
「読めるのか?」
本部長さんが聞いてくる。
「そりゃね」
手紙って聞いてたから翻訳ポーションを飲んできてるし。
「封を開けて、中身を確認してほしい。おそらく手紙だと思う」
俺はそう言われたので封を破き、中身を取り出す。
そして、入っていた紙に書かれている文章を読みだした。
ふむふむ…………
「ふーん……」
俺は手紙を読みながら頷く。
「何と書いてあった?」
さて、正直に言おうか、誤魔化そうか……
「一言で言えば、招待状ね」
「招待状?」
「そう。お話がしたいから遊びにおいでって」
本当は回復ポーションを売ってほしいって書いてある。
「遊び? どういうことだ?」
「あのガキはきっと私に惚れたのね」
透明化ポーションも売ってほしいって書いてある。
そういう交渉がしたいから一度、話がしたい…………と、アルクのお父さんが言っている。
いや、アルクの親父って王様じゃね?
「本当なのか?」
「呼んでるのは本当ね。さて、どうしたものかなー……」
「やっぱりフロンティア人認定されたんじゃないだろうな?」
サツキさんが聞いてくる。
「そういう感じではないわね。とても友好的」
商売だし。
「ふーん、行くのか?」
「逆に聞きたいわ。行っていいの?」
「うーん、本部長、どうだ?」
サツキさんは本部長に尋ねる。
「この場では返答できん。こんな事例は過去にないし、総理とギルドに報告し、協議せねばならん」
お偉いさん方の協議……
長くなりそうだな……
「出来たら早めに来てほしいって書いてあるんだけど?」
これは本当。
「早めに……すまん、席を外す」
本部長はそう言うと、立ち上がり、退室していった。
「電話かしら?」
「だと思う。エレノア、手紙には何て書いてあった?」
本部長が出ていったため、ヨシノさんが改めて聞いてくる。
「商売の話よ。回復ポーションとかを売ってほしいんだってさ」
「ああ、そういうことか……」
「正直には言えないでしょ。もしかしたら見返りにとんでもないアイテムをもらえるかもしれないし」
ギルドとか政府に寄こせとか調査するとか言われそう。
しまいには税金。
絶対に言いたくない。
「早めにって言ってたけど、どれくらいなんだろうか?」
「そこは書いてないのよね。でも、あいつらってせっかちぽいじゃない? すぐにでも行ったほうが良い気がする」
問い合わせの返答も一瞬だったし。
「こっそり行くか?」
サツキさんが笑いながら言う。
「いいの?」
「協議とやらは間違いなく時間がかかるぞ。そして、許可を得たら今度は同行人をどうのこうの言い始める」
あー、それっぽいなー……
「邪魔ね」
「そうだ。今度もゲートをくぐって行くんだろ? ウチのゲートをこっそり使えばいい」
「そうしようかしら?」
「この前の金の延べ棒でもいいし、良いのと交換して来いよ」
サツキさんは嬉しそうだ。
「エレノア、頑張れ!」
ヨシノさんも嬉しそうだ。
「わかったわ。本部長さんが戻ってきたら適当に誤魔化しましょう」
俺はそう言うと、手紙をカバンにしまった。
そして、そのまましばらく待っていると、本部長さんが戻ってくる。
「すまんな、今、総理と話していた」
やっぱり電話してたのか。
「何て言ってた?」
「早めということだが、すぐには判断できん。すでに協議は始めたから少し待ってくれ」
これはサツキさんの予想通りっぽいな。
「わかったわ。私としてはどうでもいい。好きにしなさい」
「迅速に答えを出す…………ん? 手紙はどうした?」
テーブルの上には封筒しか置かれていない。
「手紙は全部読んだら消えちゃったの。フロンティアの魔法はすごいわ」
噓ぴょん。
大丈夫だとは思うが、翻訳ポーションを使われるとマズいからそういうことにしておく。
「ホントな」
「一瞬にして消えたね」
俺の嘘にサツキさんとヨシノさんも乗っかった。
「消える手紙…………うーん、確認をしたかったんだがな」
それをされると困るんだよ。
銭ゲバ即落ちヨシノを信じて、席を外した自分を恨め。
「私個人宛の招待状だからじゃないの? 人の手紙を見ようとするもんじゃないわ」
ラブレターだったらどうすんだよ。
「個人に手紙が来ること自体が例にないんだ……」
ホント、鎖国してるな。
自分達から接触してきたくせに。
「頑張って協議しなさい。私は帰る。ヨシノさん、送っていって」
「私は本部長を送っていかないといけないんだが…………」
ヨシノさんが本部長さんを見る。
「タクシーで帰りなさいよ。私はマスコミに会いたくないの」
「ヨシノ、送っていけ。私はこのまま官邸に向かう」
本部長さんも協議か……
大変そうだ。
「わかりました。サツキ姉さん、タクシーを呼んで」
「はいよ」
サツキさんがスマホを取り出し、操作し始めた。
「じゃあ、私は帰るわ」
俺はそう言って立ち上がる。
「本部長、私はこれで失礼します」
ヨシノさんも立ち上がると、本部長さんに向かって頭を下げた。
「ああ。気を付けてな」
俺とヨシノさんはサツキさんの部屋を出ると、裏口からギルドを出る。
そして、ヨシノさんの車に乗り込み、ギルドをあとにした。
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