第177話 冬休みっていい言葉


 俺はハリーとクレアと別れると、まっすぐマンションに帰った。


「ただいまー」


 俺は玄関の扉を開けると、靴を脱ぎだす。

 すると、奥からバタバタと音を立てて、カエデちゃんが出迎えにきてくれた。


「あ、カエデちゃん、ただいま」

「おかえりなさい! 大丈夫でしたか!?」


 これは相当、心配してたっぽいな。


「大丈夫、大丈夫。上手くいったよ」

「ですか……あの、さっき電話があって、これからサツキさんとヨシノさんが来られるそうです」


 あー、説明をしてないからな。


「了解。その時に一緒に説明するよ。カエデちゃん、おいで」


 俺は靴を脱ぎ、家に上がると手を広げた。

 すると、カエデちゃんが要求通りに抱きついてくる。


「カエデちゃん、暖かい」

「先輩は冷たいです」

「外は寒いからねー」


 そんな中、路地裏で素っ裸になった。

 12月はきつすぎる。


「先輩、ココア淹れますんでリビングで暖まってください」


 俺はこのままで暖まりたいんだけどなー。


「わかった」


 俺達は離れると、リビングに向かった。

 そして、カエデちゃんが淹れてくれたココアで暖まっていると、サツキさんとヨシノさんがやってくる。


「さっきぶりだなー」


 迎えに行ったカエデちゃんが2人を連れてリビングに戻ってきた。


「あ、沖田君に戻ってるんだね」


 ヨシノさんがコートを脱ぎながら言う。


「そら戻るよ。今日はうるさいことを言うヤツがいないし」


 ナナポンね。

 あいつは今、大学で講義を受けている。

 さっきもつまんなーいっていうメッセージが届いた。


「私としてはそっちの方が話しやすいからいいな」


 女より男が良いらしい。

 ちょっと意味深。


「コーヒーを淹れてきますんで、座ってください」


 カエデちゃんがサツキさんとヨシノさんにテーブルに座るように勧める。

 すると、2人は並んで座ったため、俺もココアを入れているコップを持ってソファーから立ち上がると、テーブルの方に移動した。


「車で来たん?」

「まあな。ヨシノの運転で来た」


 やっぱりそうか。


「君達、車くらい買ったら?」


 そう思った時期もある。


「教習所を出て10年近くになるけど、その際、一回も乗ってないんだぜ? 怖いわ」

「私もそんなもん」


 東京だと、車は必要ないからなー。


「運転も結構、楽しいよ? カエデとドライブでも行ったら?」

「カエデちゃーん、ドライブするー?」


 俺はヨシノさんの意見を聞いて、キッチンにいるカエデちゃんに声をかけた。


「先輩、煽り運転してきた相手にキレそうなんで嫌でーす!」


 そんなことしねーわ。


「沖田君は運転しない方が良いね」


 おい、意見が180度変わってんじゃねーか。


「お前、運転が荒らそうだしな」


 決めつけがひどい。


「いいよ。タクシーとか公共交通機関を使うからさ」


 最悪、ヨシノさんを運転手として雇おう。


「お待たせしましたー」


 カエデちゃんがサツキさんとヨシノさんのコーヒーを持ってくると、コーヒーをテーブルに置き、俺の隣に座った。


「本題に入るが、お前、フロンティア人の取り調べで何をしたんだ? さっきは斬り殺すって言ったって言ってたけど……」


 サツキさんがそう言うと、隣に座っているカエデちゃんが俺を睨んでくる。


「最初から説明するわ。まずゲートを抜けたら4畳半くらいの狭い部屋だった。しかも、この前の地下遺跡みたいに壁が光ってた」

「例のキラキラ塗料か? それがフロンティアでの電灯と考えていいな」


 あれ、明るくていい。

 ウチにも欲しいわ。


「そうだと思う。そんでもって、そこにフロンティア人のガキが1人で待ってた」


 正確に言うと、2人。


「ガキ? 子供だったのか?」

「だったね。年齢を聞いたら13歳だってさ。ダブルスコアでショックだったわ」


 俺がそう言うと、同い年のヨシノさんの表情が暗くなった。


「なんで子供が取り調べをするんだ? 大人じゃないのか?」

「ここでものすごい情報が判明した。そのガキは王族らしい。そして、王族は転移魔法なるものが使えるらしいんだよ。多分、俺を転移させる必要があるから王族のガキが取り調べをしたんだろうね」

「転移…………王族……え? 君、王族に向かって斬り殺すって言ったの?」


 ヨシノさんが俺を悪者にしようとしている。


「話を聞けっての。王族だから護衛がいたんだよ。そいつは透明化ポーションを飲んで透明になってた。でも、俺はヨシノさんから教わった気配察知があるからすぐにわかったんだよ」


 狭い部屋だったし、部屋に来た瞬間にわかった。


「へー。メイドって言ってたっけ?」

「そうそう。そいつが隠れてたから出てこいって言ったの。さもなくば斬り殺すって」


 ほら、俺は悪くない。


「ん? 結局、斬り殺すって言ったの?」


 ヨシノさんが確認してくる。


「そうだね」

「え? 弁解になってなくない? 結局、斬り殺そうとしたわけじゃないか」

「王族には言ってない……」


 あれ?

 言ったような気もするな……


「君さー、何を考えてるの?」


 ヨシノさんが呆れ切っている。

 カエデちゃんもだ。

 サツキさんは嬉しそうな顔をしている。


「いや、得体の知れないヤツが隠れてるんだぞ? 怖いじゃん。前にもナナポンが攫われた時もそんなんだったんだよ」


 その時はマジで斬った。


「ハァ…………それでどうしたの?」

「透明化ポーションをあげて、透明化を解かせた」

「あっちが怒ってなくて良かったね」

「怒ってはなかったな。引いてたけど」


 殺人鬼呼ばわりはひどいわ。


「そら引くわ。野蛮すぎ」


 でも、そこで嬉しそうな顔をしているサツキさんは似たようなことをすると思う。


「まあいいじゃん。そうやって打ち解けて、ようやく話に入ったわけだよ」

「…………もうツッコまないぞ。それでどういう話になったの?」


 ツッコんでよ。


「フロンティア人かフィーレ人かの確認をしたいって言われた」

「フィーレ人? 私達のこと?」

「だね。俺達、フィーレ人らしい」

「ふーん。まあいいや。どうやって確認するの?」


 ヨシノさんはあまり呼び方には興味がないらしい。


「ステータスカードでわかるらしい。俺達のステータスカードって黒じゃん? でも、フロンティア人のステータスカードは白だった」

「色が違うのか……ステータスカードって本当になんなんだろ?」

「さあ? その辺は聞いてない。とにかく、俺のというか、エレノアさんのステータスカードの色が黒だったから俺はフィーレ人っていうことになって、疑いは晴れたわけ」

「なるほど。案外、すんなりいったんだね」


 斬り殺す云々を無視すればね。


「まあね。それで無事に終わり」

「終わりじゃないでしょ。あのフロンティア側の返答は何?」


 あの?


「ん? 返答を知ってんの?」

「ああ、実は君が帰ってからすぐに返答があったって総理の秘書さんが伝えに来たんだよ」

「早くない? 何て言ってた?」

「確かに早い。えーっと、返答はエレノア・オーシャンがフロンティア人であるという証明はできなかった。したがって、引き渡し要求はしない。ただ、得体の知れない存在であることは確かであり、本物の魔女の可能性が高いので注意した方が良い、だったな」


 うーん、ミステリアスさは出てるが、ミステリアス過ぎやしないかね?

 軽くバケモノ扱いじゃん。


「まあ、概ね、俺が要求した通りの返答だな。ちょっとオーバーだけど」

「やっぱり君が言ったんだね?」

「そらな。フロンティア人じゃないよって言われると、マズいじゃん。俺のゲートを閉じるっていう脅しの効果が薄れる」


 下手をすると、捕まる。

 だって、戸籍がねーし。


「フロンティアはよくその要求を受け入れたね? 相手は王族なんだろ? 暴力? 賄賂?」


 ヨシノさんの俺の評価ってかなり低い気がする。


「賄賂。透明化ポーション10個とレベル2の回復ポーション1個で買収できた」

「それだけ? 少なく感じるんだけど」

「俺も思った。反応的に透明化ポーションも回復ポーションも貴重みたいな感じだったね」

「ふーん、フロンティアってそういうのが充実してると思ってた」


 俺もそう思ってた。

 そういう不思議アイテムに溢れたファンタジーな世界なんだろうと想像していた。


「どういう世界なのかはいまひとつ掴めなかったけど、商売は無理っぽい。フロンティアはかなり鎖国してるみたいだわ」

「そうだろうね。こうやって世界が繋がったっていうのに30年もロクに接触がないんだから」


 排他的なのかな?

 アルクやミーアを見る限りはそんな感じはしなかったんだが……


「まあ、よくわかんないからフロンティアのことはいいや。とにかく、これで平和になったわ」

「平和かどうかはおいておいて一安心ではあるね」

「そうそう。当分は大人しくしてるわ。サツキさん、ギルドの再開は?」


 冒険に行く気はないが、一応、聞いてみる。


「さあなー? 政府がどういう発表するかだわ。下手な発表すると、ウチのギルドに問い合わせが殺到する。いっそちょっと早いけど、冬休みにでもしようかな……」


 自分の店のように言うな……

 まあ、カエデちゃんが休みで家にいるならいいか。


「俺も冬休みに入ろ」

「そうしろ。私もさっさとオークションの取引を終えたら休むから」


 今年はいい1年だったなー。

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