第173話 どこの世界の人間も一緒 ★
俺がフロンティア人でないことは理解してもらったが、このままではミステリアス路線が崩れそうなので丁重にお願いすることにした。
「あのね、私は黄金の魔女なの。ミステリアスなの。私を知らない連中からしたらそれはそれは恐ろしい魔女なのよ。だから私のお金に目がくらんだ愚か者共も私に手を出せない。わかる?」
「わかんない。黄金の魔女って何? 君がフロンティアで取れるアイテムを売っているのは聞いているんだけどさ」
あまり詳しくないようだ。
調べとけよ。
「私は回復ポーションとかアイテム袋を売って、安くない額を儲けているのよ」
「へー。回復ポーションはともかく、アイテム袋をドロップしたんだ。運が良いね。何キロを売ったの?」
「1000ね」
「え!?」
「は?」
1000キロという数字にアルクだけでなく、ミーアまで驚く。
「1000?」
「そう。それを2個」
「2個!?」
「あと、100キロと50キロも売った」
懐かしいね。
あれが黄金の魔女の始まりだ。
「ちょ、ちょっと待って! 何それ!? なんでそんなことが!?」
「ひ、み、つ…………ね? ミステリアスでしょう?」
俺は人差し指で唇に持っていき、首を傾げた。
「26歳が何を…………ううん! なんでもない!」
ぐっ!
若さが憎い。
「ミーア!」
殺せ!
「やりません」
使えねーメイドだな。
「ねえ、さっきの話って本当なの?」
アルクが何事もなかったかのように聞いてくる。
「本当よ。他にも回復ポーションを大量に売ってやったし、かなり儲けたわ。だから他国がフロンティアに問い合わせたんでしょ」
「そういうことか…………なんで一斉に問い合わせが来たのかと思ったらイレギュラーな魔女が現れたからなのか」
「あなた達も買いたかったら売ってあげるわよ」
「うーん、それは何とも…………フィーレ人との接触も取引も基本的には禁止だからね。例外が土地の貸し出しなんだよ」
俺達が冒険しているエリアか……
なんか政治的な理由かね?
「ふーん、まあ、いいわ。とにかく、私が言ったことを説明するのよ?」
「無理を言わないでよ…………」
「別に濁してくれればいいの。恐ろしい魔女だってことをアピールしてちょうだい。ほら、今なら透明化ポーションでも回復ポーションでもあげるから」
賄賂作戦、開始
「いや、まあ、恐ろしい魔女だけどさ。うーん、まあ、何とかしてみるよ。透明化ポーションが欲しいし」
一瞬で落ちやがった。
さすがは13歳。
所詮は子供よ。
「いくつ欲しいの?」
「え? じゃ、じゃあ、10個!」
「ガキね。100個って言えばいいのに」
透明化ポーションの材料は純水と水だからほぼ無料なのだ。
だからいくらでもあげるのに。
「え? 100?」
俺はアルクを無視し、カバンから透明化ポーションを10個取り出して、机に並べた。
「はい。あげる。ちゃんと上手い具合に言いなさいよ」
「う、うん。あのー、回復ポーションも欲しいなー……なーんて」
強欲なガキだな。
「フロンティア人もフィーレ人も一緒ね。レベルは?」
「え? レベル?」
「回復ポーションのレベルよ」
「え? じゃあ、2?」
なんで疑問形なんだよ。
「はい。特別サービスよ」
俺はカバンからレベル2の回復ポーションを取り出し、机に置いた。
「え? 本物?」
「後で鑑定でもかけなさいよ」
「あ、そうだね、うん…………」
大丈夫か、こいつ?
「もういいかしら? 私は次の商売があるの」
「あ、うん。そうだね。いつまでも引き留めるのも悪いし、帰ってもらおうか…………」
俺は話が終わったようなので帰ろうと思い、部屋を見渡す。
何にもないな……
「ねえ? ゲートは?」
ゲートをくぐったらついになるゲートに出るはずだ。
だが、この4畳半の狭い部屋にはそんな大きいものはない。
「あ、僕の転移魔法で送るよ」
転移魔法……
すげー!
「ふーん、便利ね。私にも教えてよ」
「無理だよ。これは王族しか使えないんだ」
この子、王族らしい。
王子様かな?
というか、言っていいの?
うーん、可哀想だからスルーしてやるか。
「あっそ。じゃあ、いいわ。帰るから転移魔法とやらで送ってよ」
もういいや。
物が売れそうにないし、ここに用はない。
「すみません、1つだけよろしいでしょうか?」
俺が帰ろうとしていると、ミーアがおもむろに手を上げた。
「何かしら?」
「透明化ポーションの在庫はいくつですか?」
「知らないわよ。いっぱいよ、いっぱい。いちいち数えてないっての」
透明化ポーションは蛇口をひねれば材料が揃うため、かなりのストックがある。
多分、軽く2000は超えているだろう。
「す、すみません! もう1つだけ!」
最初に1つだけと言ったのにまだ質問があるらしい。
「何よ?」
「あなたはレベル3の回復ポーションを持っているのですか?」
「昨日、オークションで値段を付けたところよ。これからそれを売りさばくの」
働け、クレア!
「う、売りさばく…………」
俺の返答を聞いたミーアが狼狽する。
「そういうこと。用は済んだ? じゃあ、帰る。アルク、送ってちょうだい。今度、誰かを呼ぶ時はお茶ぐらい出しなさい。礼儀ってものを知らないの?」
俺だって、コーヒーくらいは出すぞ。
「あ、ごめん。そういえばそうだったね。今度からは気を付けるよ。お、送るね」
アルクはそう言うと、俺に向けて手をかざした。
アルクが俺の顔をじーっと見てきたため、俺も改めてアルクの顔をまじまじと見る。
「あなたって、本当にきれいな顔をしてるわね」
マジで整っている。
絵の様だ。
さすがは王族。
「あ、ありがとう」
アルクがきょどりながら礼を言うと、アルクの手が光り出す。
「まるで女の子みたい」
女の子に生まれた方が良かっただろって思うのは俺が男だからだろうか?
「え?」
アルクの手の光が強くなると、俺の視界が真っ白になった。
◆◇◆
エレノア様は優しい笑みを浮かべると、一瞬にして姿が消えてしまった。
アルク様の転移魔法でフィーレに帰られたのだ。
アルク様はエレノア様が座っていた椅子を手を向けたままぼーっと見ている。
「アルク様」
「え? あ、何?」
アルク様はようやく我に返られた。
「心中はお察しします」
「そうだね。フィーレの各国の代表が問い合わせをしてきた理由がよくわかったよ」
私にもわかった。
あれは異質すぎる。
フィーレもだろうが、こっちの世界でも十分に異質な存在である。
まさしく世界を混乱に落とす魔女だ。
「ですね」
「透明化ポーションが10個も手に入っちゃったよ…………しかも、レベル2の回復ポーション」
あの魔女は貴重なものを軽々しく寄こしてきた。
いや、あの魔女にとっては貴重ではないのだろう。
レベル2どころかレベル3の回復ポーションを売りさばくって言うくらいなのだから。
「あまり感心しませんね。賄賂ですよ、これ」
「え!?」
「どちらにせよ、陛下に報告しなければならないでしょう」
「ま、まあ、そうだね。えーっと、エレノア・オーシャンはフロンティア人ではないような気がするけど、ミステリアスな魔女だから怖いよ、だっけ?」
私もそう記憶している。
「受け取ってしまった以上、そのような方向で行くしかないでしょうね」
「何て言えばいいのかな?」
「フロンティア人であることは確認できなかった。しかし、明らかに異質な魔女だった、でいいでしょう」
「そんな感じでいくか…………事実だしね」
確かに嘘は言ってない。
「そうですね」
「しかし、本当に何者なんだろうか? どうやって1000キロのアイテム袋や大量のポーションを仕入れているんだろうか?」
それは…………
「それも含めて陛下に報告したほうが良いでしょう」
「まあ、そうなるか。うーん、説明が難しい。なんなんだよ、あの魔女は……」
アルク様が頭を抱えた。
「黄金の魔女らしいですね」
「剣術レベルが6もある黄金の魔女でしたって報告するの?」
剣術レベル6なんか聞いたこともない。
あのまま姿を現さなかったら私は本当に3秒で首を刎ねられたのだろうか?
「ありのままを言うしかありません。陛下も動揺されるかもしれませんが、だからこそ、あれだけの問い合わせが来たのでしょう」
「まあ、そうだね……」
「それとエレノア様は正確には魔女ではございません」
「あー、剣士だっけ?」
剣術のレベルが6もあればジョブは剣士かもしれない。
「いえ、あの魔女は錬金術師と思われます」
「へ? 錬金術師って、あの?」
「際限なく色々なアイテムを作り、人々の生活を豊かにする最高のジョブ。そして、その者を確保しようと各国が争い、最後には戦争を引き起こす最悪なジョブです」
「本当に?」
「あの量のポーションに1000キロとかいうふざけた容量のアイテム袋…………間違いありません。これらはあの魔女が作っているんです。そもそも透明化ポーションは日本に貸しているエリアのモンスターからドロップするアイテムではございません」
「えー…………どうしよう?」
どうしましょうね?
正直な話、こっちの世界には関係ない話ではある。
「とにかく、陛下に報告です。賄賂をもらったんですから上手くやらないと」
「あんまり賄賂って言わないでほしいな。これは魔女からの贈り物だよ…………うわっ、そう言うと、急に真っ黒なものに見えてきた!」
事実、真っ黒ですよ。
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