第147話 調査


 地下遺跡にある建物内の調査を始めた俺達は1階の通路を歩いていた。

 普通の屋敷のように感じていたが、通路が長いうえに窓も装飾品もない。


「殺風景だし、息が詰まるわね」

「窓がないのが嫌です。まあ、地下だからあっても意味がないんでしょうけど」


 窓から見える景色も石壁だろうしね。


 俺達がそのまま歩いていると、左に扉のようなものが見えてきた。


「一応、確認だけど、ああいう部屋の中も地図に描くのよね?」


 俺は後ろにいる柳さんに聞く。


「そうしてもらえると助かる」

「じゃあ、行ってみますか」


 俺は扉を目指して歩きながらチラッと横目でナナポンを見た。

 ナナポンは何の合図もせずに歩いているところを見ると、地下への階段があるのはこの部屋ではないらしい。

 また、モンスターもいないっぽい。


 俺は扉の前に来ると、何もないことがわかっているので不用心にドアノブを回し、扉を開けた。


「通路だけでなく、この部屋も明るいのね……」


 あのスイッチは建物全体を明るくするスイッチだったのかもしれない。


「何もないですねー……」


 部屋の中に入ると、ナナポンが部屋を見渡しながらつぶやく。


 ナナポンが言うようにこの部屋には何もなかった。

 部屋の広さは10畳くらいだが、机も棚もなく、ただ白い壁だけが見えている。


「ここを放棄する時に持っていったのかもね」

「ありうるな…………」


 ヨシノさんが残念そうに同意した。


「何もないなら仕方がないわ。次に行きましょう」


 何もないわけではないからね。

 少なくとも金の延べ棒はある。

 だが、放棄する際に金の延べ棒は持っていかなかったのかね?


 俺はどうでもいいかと思い、部屋を出ると、ナナポンと共に先頭に立ち、さらに通路を進んでいく。

 道中、いくつかの部屋を見つけたのだが、どれも白い壁だけで何もなかった。


「本当に何もないな……」


 部屋から出ると、ヨシノさんがへこむ。


「何を期待してたの?」


 俺はへこんでいるヨシノさんに聞いてみる。


「お宝とは言わんが、何かの資料とかがあるかと思ったんだよ。売れそうだし」


 やっぱり金か……


「そんなもんが売れるの?」

「フロンティアは謎だからな。国だろうが、民間だろうが買う」


 ふーん。

 売れるんだったら探してみるか。

 でも、エロ本とかあったら笑うな。


「売れるなら探して回収しましょうか」

「だな。とはいえ、現状、成果がない……」


 アイテムどころかモンスターすら出てない…………と思ったのだが、ナナポンが俺の袖を引いた。

 これはスケルトンがいる合図だ。


 俺はナナポンからの合図を受け取ると、通路の奥を見る。

 パッと見は何もないように見えるが、よく観察すると、確かに奥で何かが動いたような気がした。

 ナナポンの透視は透けて見えるだけでなく、視力も多少は上がるらしいので見えているのだろう。


「スケルトンが出たわよ。よろしく」


 俺はいまだに部屋の中にいる柳さんと前田さんに声をかけた。

 すると、2人は慌てて部屋から出てくる。


「どっちだ!?」


 柳さんが左右を見渡しながら聞いてきた。


「あっち。まだ距離があるから慌てなくてもいいわよ」


 というか、スケルトンだからなー。

 慌てる必要はない。


 柳さんと前田さんは俺達の前に出ると、剣を取り出し、構える。


「2人でやるの? スケルトンごときに仰々しいわね」

「自衛隊はよほどのことがない限り、1人で戦うことはしない。我々は君達と違い、自己責任では済まされないからな」


 なるほど。

 そういうものかもしれない。


 俺は2人に戦闘を任せ、その間にナナポンとスマホのメモ機能を使って、金の延べ棒の確認をすることにした。


『金の延べ棒は地下?』


 俺はスマホを取り出すと、この文章を打ってナナポンに見せる。

 ナナポンは俺のスマホ画面を見ると、ポケットから自分のスマホを取り出し、打ち込み始める。

 なお、ヨシノさんは俺とナナポンの間からスマホを覗いている。


『そうです。奥にある部屋に隠し階段があります。そこから地下に行けます』


 ナナポンがスマホを見せてくる。


 隠し階段か。

 いかにもだな…………というか、ヨシノさん、近い。

 金の延べ棒に興味津々すぎ。


『了解。まずはそこを目指しましょう』


 俺がこの文章を打っていると、スマホ画面を覗いていたヨシノさんがうんうんと頷いた。


 邪魔だな、この人……


 俺はヨシノさんをちょっと鬱陶しく思いながらもスマホ画面をナナポンに見せる。

 スマホ画面を見たナナポンは頷くと、スマホをしまった。


 確認を終えた俺達は前を向いて、柳さんと前田さんのスケルトン狩りを見守ることにする。

 だが、すでにスケルトンの姿はなく、2人がこっちを見ていた。


「何をしているんだ?」


 スケルトンの剣を持った柳さんが聞いてくる。


「これからの方針とかの相談よ」

「スマホでか?」

「邪魔しちゃ悪いでしょ。どっかの誰かさんの気が散りそうだし」


 俺がそう言うと、前田さんがそっと目を逸らした。


「まあいい。それで方針とは?」


 柳さんが前田さんと共に俺達の所に戻ると、スケルトンの剣を手渡しながら聞いてくる。


「とりあえずはこのまま進んで調査ね。要は引き続き、このままってこと」

「まあ、そうなるか。わかった。では、再開しよう」


 俺達は再び、歩き出し、調査を再開した。


 少し歩くと、通路の先に扉が見えてきた。

 すると、ナナポンが手を後ろに見えないようにしながら扉を指差す。

 どうやらあそこに地下への階段があるらしい。


 俺は通路を進み、突き当たりの扉までやってくると、扉を開ける前にナナポンをチラッと見た。

 ナナポンが特にリアクションをしなかったため、中にモンスターがいないことがわかる。


 俺は確認を終えると、扉を開けて、中に入った。


 部屋の中は他の部屋と同様に10畳程度だったが、元は書庫だったのか、本が置いてない棚が一面に置いてあった。


「どうやらこっちの通路はここで終わりみたいだな」


 俺の後に続いて部屋に入ってきた柳さんが部屋を見渡しながら言う。


「そうかもね……」


 俺は柳さんにそう返しつつ、チラッとナナポンを見た。

 すると、ナナポンが他の人には見えないように左の本棚を指差す。


 俺はそれを確認すると、左の本棚まで行き、本棚に手をかけ、引いた。

 本棚は木製であり、本も置いてないため、そこまで苦労せずに引くことができた。


「おっ! なにかあるぞ!」


 俺が本棚を引くと、ヨシノさんが嬉しそうな声をあげる。

 俺はどかした本棚を端に持っていくと、本棚があった場所を見た。


 本棚があった裏の壁にはたくさんの木の板が打ち付けられていた。


「なんだこれ?」

「板で何かを塞いでますね。修理したんでしょうか?」


 柳さんと前田さんが近づき、板に手を当てる。


「風? この先に何かあるな……」


 柳さんは手で風を感じ取ったようだ。


「どきなさい」


 俺は板を調べている2人に言う。

 すると、2人は大人しく、壁から離れた。


 俺は壁まで近づくと、一度、板を触る。


「普通の板ね……」

「どうするんだ?」


 ヨシノさんが聞いてきた。


「めんどくさいからぶち破るわ」

「はい?」


 俺は半歩下がると、右足を上げ、喧嘩キックで板を蹴り破いた。


「おーい!」


 ヨシノさんが驚きの声をあげるが、無視し、何回も板を蹴り、人が通れるスペースを確保していく。


「ローブは蹴りにくいわね……」


 スカート状の布が足に引っかかってしまう。


「野蛮な魔女だなー」


 ヨシノさんが呆れる。


「トンカチなんて持ってないでしょ」

「まあね」


 俺はその後も蹴り続け、全ての板をぶち破った。

 板がなくなった壁は1メートル位の穴が空いており、中は暗い。


「階段がありますね……」

「この遺跡は地下があるのか……」


 柳さんと前田さんは懐中電灯を手に持ち、穴の中を照らしながら覗く。


「ここを行く気か?」


 柳さんが懐中電灯をしまいながら聞いてきた。


「もちろん」

「まあ、この下も地図を作ってもらいたいんだが……」


 歯切れが悪いな。


「何かあるの?」

「いや、単純にこれは想定していなかった。一度、上に報告しないといけない」

「何? 許可がないと、ここには入れないの?」

「一隊員である私では判断がつかないということだ」


 まあ、報連相は大事だしな。


「じゃあ、ここは後回し?」

「そうなる。ここはとりあえず保留にしよう。戻って、反対側の通路に行こうか」


 しゃーないか……

 しかし、やっぱり地下に行ったらダメって言われたら最悪だな。


 俺が不満に思っていると、ヨシノさんが俺の肩を叩いてくる。


「何?」

「大丈夫。これは想定内だ」


 ヨシノさんが満面の笑みでサムズアップしてきた。

 よくわからないけど、そういう交渉もしているのかもしれない。


「ふーん。じゃあ、戻りましょうか……」


 俺達は地下への階段を諦め、歩いてきた通路を引き返すことにした。


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