第142話 脅し


 俺達が鉱山の中に入ると、相変わらず暗い洞窟だった。


 俺は腰につけているカンテラの明かりをつける。

 すると、後ろにいるヨシノさんは懐中電灯を取り出し、明かりをつけた。

 自衛隊の2人もヘルメットに装着されているライトをつけた。


「あなた達の武器はその剣?」


 自衛隊の2人はいつの間にかショートソードを取り出していた。


「ああ。我々は一通りの武器の訓練を積んでいる。メインは槍になるんだが、ここでは剣の方がいい」


 さすがは自衛隊。

 色んな事ができるようだ。

 でも、剣術は俺の方が上だな。(確信)


「了解。まあ、狭いし、スケルトンだし、剣の方がいいわね」

「そういうことだ…………なあ、一つ聞いていいか?」

「何でしょう?」

「そっちの子はライトはいらないのか? というか、サングラス?」


 うーん、確かに怪しい。

 こんなに暗いのにサングラスはない。


「エージェント・セブン、どうせナナカさんなのはバレてるし、危ないからサングラスは外しなさい」

「え? これを外すと、本当に似合わないんですけど」


 知るか。


「いいから取りなさい」

「はーい……」


 ナナポンはサングラスを外すと、ポケットにしまった。


「ふっ……あなた、童顔だから背伸びしたガキにしか見えないわ」


 ただでさえチビなのにかわいい顔をしている。

 しかも、背中にはうさぎさん。

 どう見てもガキンチョだ。

 それなのに黒いスーツって……


「だから言ったのに…………今度からは普通の格好をしてきます」

「そうしなさい。ヨシノさん、よろしくね」


 クーナー遺跡の地下遺跡は誰もいないからいつもの格好でいいが、その地下遺跡に行くまでにクーナー遺跡を通らないといけない。

 俺と一緒に行くのは良くないし、その時にはヨシノさんに連れていってもらおう。


「ん。ゲートで待ち合わせて連れていくよ」

「遅れないでよ」


 ナナポンがポツンとゲート前で待つことになる。


「私は遅刻をしたことがない」


 うーん、そうなんだろうけどねー。

 まあ、いいか。


「行くわよ。ナナカさんは私から離れないように」

「はい」


 俺達は鉱山の中を進んでいくことにした。


 前にナナポンと2人でここに来ていた時はナナポンがモンスターの居場所を教えてくれ、そこに向かっていってレベルを上げていた。

 だが、今日はレベル上げが目的ではなく、地図を作らないといけないため、鉱山の中を隈なく歩く必要がある。

 そのため、俺は自分の判断で鉱山の中を進んでいる。


「…………どっちだっけ?」


 俺は軽く迷子になっていた……


「こっちは来た道ですね。次はあっちです」


 さすがはナナポン。

 もうナナポンが透視で全部見て、地図を描けばいいのに。


 俺とナナポンはそのまま進んでいくと、ふいにナナポンの足が止まったため、俺も足を止める。

 すると、ナナポンが後ろには見えないように胸の前で人差し指を立てた。


 ハイドスケルトンが1体ってことかな?


「柳さん、前田さん、敵が来たみたい。よろしく」


 俺はそう言って、ナナポンと共に1歩下がり、すぐ後ろにいるヨシノさんと並んだ。


「了解した。前田」

「はい」


 柳さんと前田さんはすぐに前に出てくる。

 そして、前田さんが地面に落ちている石を拾った。


「石?」


 何に使うんだ?


「投げるんだろ。そうやって見えないハイドスケルトンの位置を掴むんだよ」


 俺が首を傾げていると、ヨシノさんが教えてくれる。


「なるほどねー」


 ナナポンがいると、そんな心配はいらんし、俺は耳で敵の位置をキャッチするという技術を身に着けたからな。

 というか、地獄耳があるのなら前田さんもそれをすればいいのに……


 いや、待て。

 よく考えたら聴力を上げるっていうのもおかしな話である。

 ユニークスキルなのにショボいし、下手すれば鼓膜が破れそうだ。


 地獄耳……

 もっと限定的に人の会話を盗聴できるものかもしれない。


 俺は地面に落ちている石を拾うと、その石を地面に落とした。

 だが、前田さんはまったく反応しない。


「…………聞けるのは会話だけかしら?」


 俺は隣にいるナナポンやヨシノさんにも聞こえない程度の声量でつぶやくと、前田さんの身体がわずかにピクリと動いた。


 当たりか……

 こいつは人の会話を盗み聞きできる。

 問題はその範囲だが…………わからんな。


「…………死にたくなかったら効果範囲を言いなさい。私にケンカを売ってタダで済むと思ってるの? それとも本当にゲートを閉じようか?」


 俺はまたもや小声でつぶやいた。


「は、半径50メートル以内です。また、遮蔽物があると無理です」


 前田さんが前を向きながら答える。


「ま、前田!?」


 状況を理解できていない柳さんが前田さんのいきなりのカミングアウトに動揺する。


「良い子ねー。でも、ハイドスケルトンが来てるわよ。石を投げなさい」

「――ッ! 前田!」

「はい!」


 柳さんの喝で我に返った前田さんは持っていた石を前方に投げた。

 すると、数メートル先で石が不自然に跳ねる。

 それを見た柳さんは剣を構えながら踏み込み、剣を振り下ろした。


「良い振りだねー」


 ヨシノさんが柳さんの剣の剣の腕を褒める。


「剣術レベル2ってところね」

「まあ、そんなものかな? 他もやっているわけだし」

「どれか一つに絞った方が良くないかしら?」

「冒険者とは違って、部隊での行動がメインだろうからね。色々なことに対応できた方がいいんだろう」


 へー。

 個人技より、チームプレイって感じかね?


「私はまったくわかりません」


 ナナポンがちょっと拗ねた。


「あなたは無理よ。そもそも魔法使いじゃないの」

「まあ、そうですけど…………」


 ナナポンがしょんぼりしていると、柳さんがスケルトンの剣を持って、戻ってきた。


「ドロップアイテムだが、いるかね?」

「もらいましょう」


 俺はスケルトンの剣を受け取ると、アイテム袋となっているカバンにしまった。


「自衛隊って魔法も使えるのか?」


 ヨシノさんが柳さんに聞く。


「使える者もいる。チームには必ず1人以上の魔法使いを配置する決まりになっているんだ。今でいえば、前田がそうだ」


 前田さんが魔法を使えるわけね。

 まあ、その前田さんはガチへこみしてるけど。


「どうでもいいから行きましょう。私はこんな所に長居したくない」


 俺はそう言って、ナナポンと共に前に出た。

 そして、へこんでいる前田さんのもとに行く。


「誰の指示かは知らないけど、大人しくしてなさい。あなたもカエルになって踏みつぶされたくないでしょう?」


 俺はへこんでいる前田さんに優しく声をかけると、肩をポンと叩いてあげた。


 前田さんの目は恐怖に染まっていた。

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