第120話 よく考えると、寿司が回るって何だよ
俺はナナポンとゲートをくぐり、ギルドに帰還した。
当然だが、先にゲートをくぐったヨシノさんとリンさんはいない。
あの2人は新宿のギルドに帰還したのだ。
「それで? 何があった?」
俺はやたら帰るように勧めてきたナナポンに聞く。
「すみません。あれ以上、あの人としゃべるのはマズいと思ったんです」
「イケメンだから?」
「そんなわけないでしょ」
でしょうね。
「ステータスカードを見たか?」
「はい。あの人はステータスカードをアイテム袋ではなく、ジャケットの内ポケットに入れていたので簡単に覗けました」
アイテム袋に入れてなかったのか……
そういえば、何も持っていなかったな。
多分、冒険する気はなく、ただヨシノさんに話があっただけだからだろう。
「ユニークスキルは?」
「ありました」
Aランクだし、そうだろうとは思っていた。
ナナポンがやたら急かしていた理由だろう。
「なんだ?」
「真偽というスキルです。能力は相手が言っていることが本当か嘘かわかる能力です」
チッ!
最悪なスキルだ。
モンスターとの戦闘で役に立つスキルではないが、エレノアさん関係では恐ろしすぎるスキルである。
「それは確かにマズいな……」
「はい。質問次第ではバレると思ったんです」
少なくとも、ヨシノさんがエレノアさんと接触したことはバレたな。
「ヨシノさんに電話した方がいいな。多分、ヨシノさんから情報を取る気だ」
多分、どこかでヨシノさんとエレノアさんが接触したことを聞いて、探りに来たんだ。
そして、接触がバレたから今度は確信をついて質問をしてくる。
「いえ、私が三枝さんに電話して、会ってきましょう。沖田さんは朝倉さんとお寿司でしょ?」
「うーん、そうなんだけど、緊急事態だしなー」
「別にそこまでじゃないです。対策はできます」
まあ、質問に答えず、はぐらかせばいいだろう。
「実はさー、昨日言ったトラブルの件で今度、渋谷支部に行かないといけないんだよねー」
「え!? それはエレノアさんですよね!?」
「だね」
「桐生さんは渋谷支部のトップランカーです……接触してくるかもしれませんね」
多分、接触してくると思う。
例のトラブルは当然、渋谷支部のギルマスも知っているだろうし、どうせ桐生のユニークスキルも把握しているのだろう。
マジで面倒なことになったな……
「寿司は中止しようかな……」
レベル10のお祝いがー……
「渋谷支部に行くのはいつです?」
「まだ決まってない。向こうの親御さんの都合もあるし、その内、昨日のおっさんが電話してくると思う」
「じゃあ、明日ではないですね。私と三枝さんで相談してみますので沖田さんはお寿司に行ってください」
うーん、お言葉に甘えようかなー?
「じゃあ、頼むわ。今日は遅くならないだろうし、何かあれば連絡してくれ」
「わかりました。私は早速、三枝さんに電話してみます。お疲れ様でした」
「おつかれー」
ナナポンがお別れの挨拶と共に頭を下げたので俺は挨拶を返すと、ロビーに向かって歩き出した。
ロビーに出ると、カエデちゃんのもとにまっすぐ向かう。
「お疲れ様です。あれ? ナナカちゃんは?」
受付に近づいたのが俺1人だったのでカエデちゃんは首を傾げながら聞いてきた。
「色々あって、ヨシノさんに電話してる。その辺は家に帰ったら説明するわ」
「……何かあったんですね。どうします? お寿司は今度でもいいですよ?」
カエデちゃんは何かを察したらしい。
「俺もそう言ったんだけど、大丈夫だってさ」
「ですかー……じゃあ、行きましょうか。あ、精算しますんで武器とステータスカードと一緒に提出してください」
俺はカエデちゃんにそう言われたので武器とステータスカードとカバンを提出すると、カエデちゃんが精算をしてくれた。
俺はカエデちゃんに外で待ってると告げ、更衣室に向かう。
更衣室に入ると、シャワーを浴び、服を着替えた。
そして、ギルドを出て、ギルド入口の前でカエデちゃんを待つことにした。
俺は待っている間に山辺のおっさんに確認しようと思い、エレノアさんのスマホを取り出す。
すると、何件かの着信とメールが届いていた。
着信もメールも山辺のおっさんからだったため、メールを開く。
『電話に出ないからメールで用件を伝える。親御さんはあんたに合わせると言っている。早い方がいいだろうし、明日はどうだ?』
明日か……
ちょっとヨシノさんやナナポンと話した後がいいので明日は早い。
俺はメールを返すことにした。
『ちょっと電話できる状況しゃないからメールで返すけど、明日はダメ。明後日以降にしてちょうだい』
俺がこのメールを送信すると、すぐに返事が帰ってくる。
『了解。向こうさんは明後日でもいいと言っていたから明後日にしよう』
『わかった。明後日のいつ?』
『午後一でいいだろ。渋谷支部の受付に言えば、応接室に案内される』
受付かー。
めんどいけど、グラビアアイドルを拝むかね。
『了解しました』
『悪いな』
俺は話が済んだのでスマホをカバンにしまう。
すると、ちょうどギルド入口からカエデちゃんが出てきた。
「お待たせしましたー。何をしてるんです?」
「その辺も併せて帰ってから話すわ。寿司に行こうぜ」
「ですねー。寒いです」
カエデちゃんはそう言って、俺の腕を掴み、組んでくる。
「カエデちゃん、あったかーい」
「先輩の方が暖かいですよ。さあ、駅でタクシーを拾いましょう」
「そうしよー」
俺とカエデちゃんは腕を組んだまま駅に向かって歩き出した。
◆◇◆
俺達は駅でタクシーに乗り込むと、銀座に向かい、あらかじめチェックしていた寿司屋に向かう。
予約はしていなかったので大丈夫かなと心配だったが、普通に入ることができた。
俺達はカウンターに座り、各々、寿司を頼みながら話をしている。
もちろん、カウンターなので寿司屋の大将や他のお客さんもいるため、例の桐生のユニークスキルについては話していない。
「そういえば、今日は久しぶりにナナカちゃんと冒険でしたよね? どうでした?」
「意外と普通だった。でも、あいつ、リンさんにビビってたわ」
桐生の時もだったが、最初はほとんど俺の背中に隠れていた。
「あー、あの人、ちょっと怖いですしね。でも、ものすごくいい人なんですよ?」
「わかる、わかる。今日も9時集合なのに俺に合わせて8時半に来てた」
あの人が既婚者じゃなかったら俺のことが好きなんじゃねと勘違いしそうだ。
「いつもあんな感じです。ぶっきらぼうな物言いなんですけど、人の為になることを率先してやる人でギルドからの評価も高いですね」
「あの人、絶対に男にモテるよ」
デレ多めのツンデレだもん。
「なんとなくわかります。そして、そういう人は大抵、女子に嫌われるんですけど、リンさんは男に媚びないので逆に好かれます」
それを言うと、カエデちゃんは……微妙。
媚び媚びだもん。
「まあ、ナナポンも最初はビビってたけど、魔法を教えてもらい始めたら普通だったな」
「そういえば、さっき、受付で氷魔法を覚えましたってドヤ顔されましたね」
目に浮かぶようだ。
ものすごく嬉しそうだったし。
「俺も気配察知を覚えた」
ドヤァ。
「私も持ってますね」
ローグだったんだもんね。
そら、持ってるわ。
「へー」
「しかも、レベル3です」
カエデちゃんがドヤ顔をした。
「もしかして、カエデちゃんが俺に背中を向けている時に俺が何をしてるのかわかる?」
「わかりますよ。いっつもガン見してますね。この前もお尻をガン見してました」
この前のやつは気配察知でわかったのか……
「カエデちゃんが自信があるって言ってたからね……」
「別に言い繕わなくてもいいですよ。あなたはそういう人です」
評価が低いな……
完全に諦められている気がする。
「カエデちゃん、大トロを頼む?」
時価って書いてあるが、気にしない。
昔だったら絶対に頼まなかっただろう。
「頼みます」
「大将、美味しい大トロをこの子に」
俺は大将に注文する。
「あいよー」
大将はカエデちゃんをチラッと見て返事をした。
「そういえば、サツキさんは忙しいの?」
俺は意図的に話を変えることにする。
「みたいですね。オークションのことと例の測量会社がどうのこうのです」
「それなんなん?」
「私もよくわかってないですが、サツキさんは本部やらなんやらに行ったり来たりですね」
なんか問題でもあったのかね?
俺達はその後も寿司を食べ、お腹いっぱいになると、店を出て、タクシーでまっすぐ帰った。
なお、お値段は社会人時代だったら涙が出るレベルだった。
さすがは回っていない寿司屋である。
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